12.投げかけられた言葉
その後も、ひたすら緩やかな山道を歩いて夜は野宿をしてを繰り返して、村を出てから二日がたったものの、レスティアとリヒトの間に流れる空気は相変わらず気まずかった。
瑠雨もさすがに察したのか、二人のことを心配するような視線を向けてくる回数が増えた。
リリーナの方は、村にたどり着く一日前、様子見をしていたことで、何となく二人の状況が分かったため、もうあの日のように、わざとレスティアとリヒトを二人きりにするようなことはしなくなったものの、その変わり、二人の気まずさを心配するような視線を向けてくることが多くなった。
そういった視線を向けられると、レスティアは決まって頭を抱えてしまう。
(うう……リリーナさん、言葉にしないけど、めちゃくちゃ心配してくれてる)
でも、レスティアにはリヒトが自分に対して、なんであんな対応なのか分かない。
リリーナに接する時のリヒトと自分に接している時のリヒトがあまりにも乖離しすぎていて……
(でも、このままリリーナさんに心配をかけ続けるのは……)
そう思ったレスティアはその日から、行動を開始した。
薪集めをする際に共に行動したり、食料調達もリヒトと行動してみたり、機会があれば、その度に会話を試みて、言葉をかけてみたりしたものの、やはり、そのどれもが塩対応で空振りに終わった。そのため、いまだに気まずさは継続している。
(だめだ……攻略の道筋が見えない……私が話しかけたら一応、返答はしてくれる。だけど、そこから話が広がらない。……ううん、違う。リヒトさんはおそらく意図的に話を広げようとしていない。リヒトさん側が私に関わるのを断固拒否してるから、いくら私が言葉を投げた所で会話にならないんだ)
数日行動して分かったのは、自分はおそらく、あまりよく思われてないどころか、リヒトに嫌われてる気がするということだけだった。
(たまに向けられる視線とかから、なんとなくそうかなって思ってたけど、それが確信に変わったというか……)
レスティアとて、自分が万人に好かれる人だとは思っていない。
けれど……
(私にリヒトさんに嫌われる心当たりはないけど、どうしても反りが合わないとかはあると思うし……嫌いなら嫌いでいいから、普通に会話ぐらいはしてほしい。一時的とはいえ共に行動してるんだし、気まずいままだと、色々と弊害が……)
早くも心が折れそうになっているものの、これから三ヶ月共に行動するのだから、普通に会話できるぐらいにはなりたい。
そんなことを思いながら、リヒトの方を見やると、手に持っている手帳を見ながら何かを考えているようで、リリーナの方は裁縫をしていた。
今は、今夜の野営場所を見つけた後の、野営の準備を始めるまでの自由時間で、各々が好きなように過ごしているのだ。
「それじゃあリリーナ、僕、今夜の薪集めてくるから」
「ええ、分かったわ。薪、かなり必要だけど一人で大丈夫?」
「大丈夫。それじゃあ、行ってくるから」
リリーナとそう会話をしているのは、辺りが暗くなってきて、そろそろ今夜の野営準備をしたほうがいいと判断したリヒトだった。
丸太から立ち上がったリヒトは、空を飛んでいる蝶々のようなものとモンスター姿で戯れている瑠雨と家から持ってきた本を読んでいるレスティアの横を通り過ぎて、薪になる木の枝がたくさんあるであろう森の中へ入っていこうとしていた。
「待ってください、私も行きます」
開いていた本を閉じてポシェットにしまったレスティアは、そう言うとリヒトについていった。
こちらのことなど気にも止めてないのか、リヒトは日の暮れ始めている森を足早にスタスタと歩いていってしまって、レスティアは、必死にその背中を追いかける。
そうして、しばらく歩いていると、ふいに目の前を歩いていたリヒトの足が止まる。
「……?」
レスティアは、それを不思議に思いながらも足を止める。
「……しつこい。数日前からよく関わってくるけど、何がしたいの」
「へ……」
レスティアの方を振り向いたかと思うと、次の瞬間リヒトが発したのはそんな言葉だった。
「僕が、君のことをあまりよく思ってないのは分かってるよね」
「それは……まあ、はい」
なんとなく察していたとはいえ、面と向かって言われると心にくるものがあるものの、あんな対応をされて、気づかない方がおかしいだろう。
「それじゃあなんで関わってこようとするの?」
「……リリーナさんがしょっちゅう心配するような視線を向けてくるし、一緒に夜ご飯とか食べてても、ああ見えて悪い子じゃないのよって、気遣うみたいに言われるので……これ以上、リリーナさんに心配をかけるのはと。後はシンプルに、一時的とはいえ共に行動している以上、気まずいままだと色々と弊害があるというか……普通に会話できるぐらいにはならないかなって……」
「……そこでも他人が任せなんだ」
リヒトが吐き捨てるように言ったその言葉は、されど、小声すぎてレスティアには聞こえなくて……
「へ?」
思わず口からそんな声が出てしまう。
「つまり君は、リリーナがそう言ったから、リリーナが心配そうにしてるから、こんな行動をしたってこと?」
「はい……?」
(なんか機嫌悪くなった……?もしかして私、何かやらかしちゃった?)
先ほどよりも不機嫌になったリヒトが、不機嫌なことが分かるような声色でそう言うも……
レスティアには、なぜリヒトが不機嫌になったのか分からなければ、その質問の意図も分からなくて……
リヒトが言ったことはその通りなためひとまず頷いたものの、その声色には、不思議、分からない、と言ったような困惑の感情がにじみ出てしまっていた。
「……僕、君みたいなのが一番嫌い。自分から行動を起こそうとしなければ、確固たる意思も持たず、これでいいはずだって言い聞かせるみたいに、何かを諦めるみたいな顔して周りに流されるままヘラヘラ笑ってる。見ててイライラする」
「え……」
そう吐き捨てるように言ったリヒトは、あの冷めた冷たい瞳でレスティアの方をまっすぐに見据えていて……ここにきてようやく、その瞳の意味が分かった。
(ああ……これは、軽蔑だ。言葉にされてようやく分かった)
リヒトはそれだけ言うと、呆然と立ちつくしているレスティアを、その場にぽつんと残してスタスタと歩いていってしまって……
なんとか追いついたレスティアは、意味も分からず、とっさにリヒトの服の裾を掴んでしまう。
「何?」
レスティアに裾を掴まれたリヒトは、振り返ると不機嫌MAXな表情と声色でそう言った。
「あの……その……っ……」
(なんで……言葉、出ない……)
防寒はきちんとしてるはずなのに、心臓を冷たい何かに鷲掴みにされてしまったようで、息が詰まって……
まるで、言葉を発する器官である喉に枷をされてしまったように、言おうとしたはずの言葉は舌をすり抜けるばかりで……
「なんでもないです……」
なんとかそれだけ絞り出して、裾から手を離したレスティアは、こちらに構わずスタスタと先行していくリヒトの背中を、どこか他人事みたいに見ていた。
……本当は心のどこかで分かってる。
言葉が出なかったのは、きっと図星だったからだ。
目を逸らし続けていたそれを突きつけられたから。
でも……
(でも、それじゃあどうすればいいの……?だって私は、彩乃の頃からずっとそうやって生きてきた。様々なものを諦めて、別に構わないって、これでいいはずだって、言い聞かせるみたいに笑って……)
十一月中旬の風は少し肌寒くて、それがレスティアの心のモヤモヤをさらに募らせて、冷え切らせた。
レスティアが、ようやく自分の課題に向き合いはじめました。
レスティアは前世があんな感じなので、亀の歩みですいません。




