9.物語記録帳と民謡
焚き火を囲みながらそんな会話をしていると、リリーナが何やら縫い物をしているので、気になって近づいてみる。
「なに作ってるんですか?」
リリーナの手元を見てみると何やら小さな服のようなものを作っていた。
「さっき、レスティアちゃんが連れてたモンスターの様子を見てたら、ちょっと震えてて寒そうだったから服を作ってみようかなと思って」
今は秋の半ばなので、確かに少し寒いかもしれない。そう思ったレスティアがもう一度手元を見てみると、少し中国っぽさのある服のようだった。
「なんか、東南にありそう」
そうレスティアはぼやく。
「レスティアちゃん、東ノ邦を知ってるの?」
(へっ……?東の国……?名前的に中華というか、あっちの方っぽい国かな?)
前世で中華街や後宮を舞台にした物語に触れていたこともあったし、なんとなく想像はできる。
だがリリーナは、なにか驚いていたし、ここで知らないと言ってしまうと変に誤解や疑いを持たれてしまいそうである。
「はっ……はい。一応本で読んだことがあって」
リリーナいわく、瑠雨の見た目が東の国に生息してると図鑑に描かれていたモンスターの見た目に似てる所があるらしく、東の国風の服にしたらしい。
レスティアも瑠雨を初めて見たとき中国とか東の方にいそうな見た目だなと思い瑠雨とそっち風の名前をつけたのだがリリーナの話を聞いた感じあっていたらしい。
なぜ、遠く離れたこの国にいたのかは謎だが。
(ファッションセンスもバッチリだったし、リリーナ女子力高いなぁ)
「縫い物できるのすごいですね!」
レスティアになってからも、ずっと家に引きこもって本を読んでいたし、彩乃の頃はずっと入院していて、ひたすら物語の世界に浸っていたため、縫い物などしたことないのだ。
ニ時間半程で一式が完成したらしく、瑠雨に着せてみたのだがリリーナの目利きはあっていたようでとても似合っている。
「キュ!キュウ!」
瑠雨も心なしか嬉しそうだ。
まだ、寝るまで時間があるので本を読むことにしたレスティアは、家から持ってきたお気に入りの本を広げる。その本は〈ドラゴンと少年〉という題名で何も悪いことはしてないのに、異形で人と違う、ただそれだけの理由でひとりぼっちで洞窟に封印されて、心を閉ざしたドラゴンが一人の少年と出会って世界を旅する冒険譚で、小さい頃から読んでいるお気に入りの物語のひとつだ。
レスティアが本を読んでいるとリリーナと瑠雨が横にくる。
瑠雨が気になっているようなので、貸してあげていると「レスティアちゃんは、本が好きなの?よく読んでいるようだけど」とリリーナが話しかけてくる。
「はい。本というか物語が好きで、街角で講談師さんとかが話してる民謡とか民話も好きです」
レスティアがそう言うと、なぜ本が好きなのか聞かれる。
(なんで好きなのか……?考えたことなかったな……)
そう思い、彩乃の頃を思い出していたレスティアの頭に、一つの答えが浮かぶ。
今、思えば物語が好きになった最初のきっかけは、現実逃避だったように思う。
辛くて苦しい入院生活、闘病生活の中で、小説やマンガやアニメやドラマ、それらの物語に触れている間だけは、この狭い病室から抜け出して、どこにでもいける、だれにでもなれる気がしたから。
この物語の続きはどうなるんだろう?そう思えば消えたいぐらい辛くても、明日を諦めずに生きていけた。
確かにきっかけはそうだったかもしれない、けれど、物語はあの頃の彩乃に生きる理由をくれたもので、それは変わらない。
自分は物語に救われた。物語には誰かを前に進ませる力があると、そう思っている。
(だけど、ちょっと言いにくいな……そうだ……)
「上手く言えないんですけど、物語を読むと、元気づけられるというか……前に進む力が湧いてくるというか……」
レスティアはそう言いながら、リュックの中からあるノートを出す。
「それは?」
リリーナが不思議そうに聞いてくる。
「まだ、本の媒体になっていない、いろんな人から聞いた民謡や民話、物語を手書きで書き留めてるお気に入りのノートです。書き留めておくと、後で見返せるからすごくいいんです」
レスティアが、物語記録帳とそう呼んでいるお気にいりのノートに、今まで書き留めた物語のことを嬉しそうに話していると「私にも好きな民謡があるのよ」と、リリーナが言う。
「好きな民謡?」
「ええ。ある国に昔から伝わる民謡があるんだけど……」
そう言ったリリーナはあるお話を聞かせてくれた。
〈...... 「いいえ違います。必要だったのは新しい一歩を踏み出すための少しの勇気だった]と、その言葉に少女はそう答えました。そのほんの少しの勇気が私達を外の世界へ連れていったと〉
リリーナが語ってくれたのは、浮島に生まれて、物心ついた頃から島の外の世界を知らなかった浮島の民達の話だった。
そんな環境で育ったため、外の世界に憧れていながらも、自分達はこれでいいはずだと思おうとしていた浮島の民達が、ほんの少しの勇気を出して、時に壁にぶつかり難攻しながらも空を飛ぶ魔法を作り出し、外の世界を見に行ったという旨の民謡だった。
民謡を語り終えてレスティアの方に顔を向けたリリーナ、どこか含みのある笑顔をしていて……
「素敵な民謡でしょう?」
(……?)
「……はい、そうですね」
レスティアは至っていつもの様子でそう返答したものの、リリーナのそのどこか含みのある笑顔を、不思議に思う。
どこか含みのある笑顔をしていたということは、リリーナが今、レスティアに語ってくれた民謡には何か意味があるのだろう。
けど、どれだけ考えてもその答えは見つからなくて……含みのある笑顔というのはレスティアの勘違いだったのかもしれないと結論づける。
リリーナとそんな会話をしていると、眠くなってきたので、寝る準備をして寝袋に入ると寝袋が瑠雨も入ってくる。どうやら温かい寝袋のなかで寝たいようだ。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
そうして、レスティアとリリーナの挨拶が重なった途端、レスティアの心がほわっとなって、なんだか温かい気持ちになる。
(……?。なんだろう、これ……)
レスティアはその感覚を不思議に思ったものの、考える暇もなく、すぐに寝落ちてしまった。




