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「君を愛するつもりはない」〜殿下大変です!誠実すぎて言葉選びを間違えてます  作者: 青夏


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9.再「君を愛するつもりはない」

そして冒頭に戻る。

 ジークフリートが城から戻って来たのは、結局夜も更けてからだった。

 

「妃殿下は部屋でお待ちくださいね」


 アンナが責任を持って連れて来るからと、ディアーヌは早々に夫婦の寝室にと一人押し込まれていた。


(これはやっぱり、そうよね?)


 寝台に一人腰掛けて待つ間、どうしても不安が付き纏う。


 そもそも初めて顔を合わせてから、三日間。ディアーヌはジークフリートと言葉すらほとんど交わしていなかった。


 しかし婚姻の儀は既に済ませているのだ。

 今宵が初夜で間違いない。


「ふぅ……」


 緊張するなというほうが無理だ。

 嫌ではない。勿論。

 そもそもこの婚姻は同盟がかかっている。

 何としてもやり遂げなくてはならない。


 ただ。


 出来ればあとほんの少しだけ、ジークフリートがディアーヌに、興味を持ってくれたらいいのにとは思う。 

 二人、無言のまま過ごすのは辛すぎる。


 そう考えていた時、部屋の扉が開く音がして意識が逸れた。


 扉に視線を向けると、入って来たのは当然夜着姿のジークフリートで。


 ディアーヌは震える両手を必死に握り締めて、近づく夫をじっと待ったのだった。








「君を愛するつもりはない」


 いきなりこれである。

 いくら何でも、それはない。


 しかも愛妾がいるわけでも、男性が恋愛対象なわけでも無いという。


 理由はディアーヌがまだ『子ども』だから。

 いや、正確には『未成年』だからか。

 正直どっちだっていい。

 こちらも生半可な覚悟で嫁いで来てはいないのだ。


 ディアーヌはあまり感情の起伏の無い人間だ。

 穏やかな性格だと、ずっと言われて育って来た。

 感情の赴くままに生きる母とは似ていないと。

 実際、自分でもずっとそう思ってきた。


 けれどどうだろうか。


(すっごく、すっごく!悲しいし腹が立つわ)


 乙女の覚悟を無碍にして、ただで済むと思わないで欲しい。


 溢れ出そうな気持ちのまま、ディアーヌは目の前に立つジークフリートを見上げた。


 紺碧の瞳がディアーヌを見下ろしている。

 艶やかな黒髪を後ろで一つに束ね、誰がどう見ても美しい顔をした精悍な大人の男。


 三年間、髪の色すら知らなかった。

 容姿のことを聞いては失礼だと思っていたから。

 何も知らずに、想像のジークフリートを自分の中で際限なく膨らませてしまった。


(恥ずかしい……)


 結局は、こどもと大人だ。

 初めから、相手にされていなかったのだ。

 だからあんなに優しかったのか。


(どうしよう)


 それでも自分は、同盟を背負って嫁いでいる。

 ジークフリートの言う通り、あと数年してもちゃんとした夫婦になれる保証などない。


(どうしたら……)


 ふと、以前母に渡された本を思い出した。


 『君を愛することはない』


 ディッセンで流行りのロマンス小説だというその本は、なるほどこの国の男をよく表しているのだろう。


(そうよ。あの本の女性は確か……)


 そう思い出した瞬間、ディアーヌは寝台の飾りに自身の手を叩きつけようとした。


「やめろ!」


 けれど寸前でジークフリートにその手を止められてしまった。


「っ…!」


 掴まれた手首が痛い。


 強い力に抵抗一つ出来なかった。


「何をするつもりだ!?」


 ジークフリートの瞳に動揺の色が見える。

 さっきまでの腹が立つほど余裕のある態度とは違って、今は明らかに焦っていた。


「だって……白い結婚にするって……」


 溢れそうな嗚咽を必死に堪えてそう言うと、ジークフリートに必死に弁明される。


「いやっそれは!急いで大人になる必要はない。君は、ゆっくり私にも、この国にも慣れてくれればいいんだ」


 必死な弁明は本心からなのだろうか。

 信じたい。

 けれどもう、感情がぐちゃぐちゃで、わからなかった。


「っ…う…でも、ちゃんとしないと…同盟が…だから…血を…ひっ…く…」

「は!?」


 何をしようとしていたか、ディアーヌの覚束無い説明をどうやら解き明かしてくれたらしい。

 ジークフリートから一際低い声が漏れた。


「はぁ……」


 深いため息に、ディアーヌの身体がびくりと震えた。

 呆れられてしまった。

 当然だろう。自分でも一体、何をしているのかわからないくらいなのだから。


「ディアーヌ」

「!」


 初めて、ジークフリートに名前を呼ばれて、心臓が、大きく跳ねた。


 ギシりと、寝台が軋む音がして、気がつけばディアーヌの目の前にジークフリートが座っていた。


 ジークフリートの大きな手が伸びて、ゆっくりとディアーヌを引き寄せた。


(え!?)


 抱きしめられている。

 背中に回された手は、微かに触れる程度だけれど。

 ディアーヌの額は確かにジークフリートの胸元に重なっていたのだから。


「わざわざフレンシア側で婚姻の儀を済ませている。口出しなどさせない。それにこの国で、私に異議を唱える者などいやしない」


 だから安心しろ、とジークフリートはそう言っているのだ。


「……はい」


 そうまで言われてしまったら、ディアーヌはもう受け入れるしかなかった。


 ただ。


 おずおずと顔を上げると、ディアーヌは息のかかる距離にいるジークフリートを見上げて、尋ねた。


「では……わたくしが十八歳になったら夫婦の夜伽をする、ということですわね?」

「ん?」


 何故だろう。


 ジークフリートが固まってしまった。

 

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