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「君を愛するつもりはない」〜殿下大変です!誠実すぎて言葉選びを間違えてます  作者: 青夏


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3/12

3.初めましてはお手紙で

 ディアーヌに婚約の件が告げられたのは、両親が王城から邸に戻ってすぐのことだった。


「ディッセン……ですか」


 王妹を母に持つ公爵令嬢として、当然政略結婚は覚悟していた。ましてや伯父である王には三人の王子しか子がいないのだから。

 

 しかしディッセンとは。


 敵対こそしていなかったが、お世辞にも友好国とは言い難い。それくらい距離感があった。


(わたくしに、ちゃんと出来るかしら……)


 ふと浮かんでしまった不安を断ち切る様に、ディアーヌは首を振った。


(だめよ。出来る出来ないじゃないわ。やらなきゃならないのよ!)


 悲壮な覚悟を決めるディアーヌに対して、目の前の母はいたって平常運転だ。


「大丈夫よ〜そんなに心配しなくても。絶対に上手くいくから」


 そんな無責任なとほんの少しだけ恨めしく思ったが、母の満面の笑みを目にしてしまっては、ディアーヌはもう、反論する気にもなれなかった。


「歳はね、二十四歳だったかしら」

「二十四歳!」


 十四歳のディアーヌとは、十歳離れている。自分の様な子娘が相手で先方は、さぞや不満なのではないか。

 ディアーヌは内心不安で押し潰されそうだった。


「問題ないわよ。お母様とお父様も八歳差だけど円満でしょう?」

「……はい」


 少々特殊な両親は、あまり参考にはならない気がすると俯いたディアーヌを、母は気にする素ぶりも見せずに、楽し気に提案をしてきた。


「それでね、ディアーヌ。手紙を出したらどうかしら?婚約者様に」







「何を書いたらいいのかしら?」


 机の上の真っ白な便箋を見つめながら、ディアーヌは途方に暮れていた。


「とりあえず、ご挨拶でしょうか……」


 側で控えていた侍女のエマも、明らかに戸惑っている。


「そうよね。わたくしのことを、まずは知っていただかないと」


 降って湧いた婚約話に不安を抱いていたのは何もディアーヌだけではなかった。

 邸の使用人達は、まだ幼子の様に愛しんでいたお嬢様の嫁ぎ先が他国だと知り、皆一様に眉を顰めた。

 勿論、主人の前で懸念を口にする者など公爵邸にはいなかったが、エマの様に特にディアーヌの側近くに仕えている者の心は、心配で今にも胸が張り裂けそうであった。


「出来れば、ちょっとくらいは……」

「お嬢様?」

「ううん!なんでもないの」


 ちょっとくらいは好きになって欲しいだなんて、恥ずかしくて口には出せなかった。

 

 いつか政略結婚をするのだと覚悟はしていても、ディアーヌはまだ十四歳だ。恋物語に憧れる夢見がちな一面も、間違いなく彼女にはあったのだ。



 エマに見守られながら何とか書きあげた手紙は、結局当たり障りのないものになってしまった。

 きっと王弟殿下の手に渡る前に封の中を確認されるだろうから、寧ろその方が良いくらいなのだが。

 せっかくの婚約者への初めての手紙なのだから、少しだけ特別なことがしたかったと、ディアーヌは小さく息を吐いた。


 ふと、机の上に飾ってある小振りな花瓶に目が止まる。

 邪魔にならない様にと、配慮され飾られている花は小さく可憐だ。

 少しだけ躊躇って頷くと、ディアーヌはエマを振り返って言った。


「押し花の栞を作りたいわ」


 何か良いことでも思いついたのか、その表情は明るい。

 ディアーヌの笑顔にエマもつられて微笑んだ。


「すぐにご準備いたします」

 

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