26.和平に向けて
この回は一度書いたものが全部消えてしまい、絶望の中記憶を頼りに書き直しました。
和平交渉は再同盟という大事もあり、両国から外務大臣が派遣されることになった。
同時に、双方の合意のもと半分程の兵力を残して兵たちの撤退も決まる。
しかしジークフリートは引き続き全権を担うため、帰還はまだ先になる。
久方ぶりに送られたジークフリートからの手紙を読み終えたディアーヌは、ほっと胸を撫で下ろした。
勿論、早く無事な姿を見たい気持ちもある。
けれどそれ以上に、ようやく平和が訪れるのだという安堵の方が強かったのだ。
そしてそれはきっと、ジークフリートも同じ気持ちなのだと、どこか確信めいたものさえあった。
「妃殿下」
考えに耽っていたディアーヌは、よく通る声に意識を呼び戻される。
声の先にいたのは、今ではすっかり見慣れたマリアだ。
「マリア様。どうなさいました?」
ディアーヌの問いにマリアは神妙な顔をすると、口を開いた。
「帝国の皇帝が崩御しました」
「えっ!」
「既に第三皇子が全権を掌握し、後継として即位したと手の者が知らせて来ました」
「そう、ですか……」
「これで和平交渉を邪魔する者はいなくなる」
帝国の第一皇子と母である側妃がどうなったのか、おそらくあえてマリアは口にしなかった。
無事に済む筈も無い。惨たらしい王族の最期をディアーヌに伝えないのは、マリアなりの気遣いだろう。いずれ嫌でも耳に入る。
それまでの間、ディアーヌは知らないままでいることにした。
「テレーゼ姫は?」
だからあえて、テレーゼの事だけを尋ねた。
「無事に皇后として立后されたと」
「良かった……!」
政治的判断による再婚とはいえ、反対勢力がいない筈も無い。テレーゼが無事に立后出来る保証はなかった。
ディアーヌはテレーゼの心境を思い、心から安堵した。
「それと、まあ何です……」
(ん?)
それまでとは打って変わって、急にマリアの歯切れが悪くなる。
不思議に思ったディアーヌがまじまじとマリアを見つめると、マリアはバツの悪そうな顔をディアーヌに返して来た。
「辺境伯領に兵が帰還します。あいつらを労ってやらないとならないのはわかってるんだが、ザルばかりなんだ!」
「まあ!」
心底不本意とばかりに、憮然と大きなお腹をさするマリアの姿に、ディアーヌは堪えきれずに声を出して笑っていた。
◇
「あっ!妃殿下!お久しぶりでーす!エマさんも!」
辺境伯領へ帰還した兵のうち、特に高位の騎士たちから挨拶を受けたディアーヌは、その中の一人の聞き慣れた陽気な声に、思わず顔を綻ばせた。
「ディルク!お帰りなさい。素晴らしい活躍だったそうね」
ディルクの陽気さにつられたのか、ディアーヌの対応も自然と砕けたものになる。
すると、ディルクの肩に手をかけた、ディルクより少しだけ精悍なよく似た赤毛の騎士が、口を開いた。
「そうなんですよ!こいつが一人で突っ走るから俺ら出番がなくて」
「いや、兄上もめちゃくちゃ出張ってましたよね?」
(やっぱり!)
その騎士とは、ルドルフ・グリンデンベルク。
ディルクの兄にして、辺境伯であるマリアに婿入りした夫だった。
「お初にお目にかかります妃殿下」
陽気な声からは想像出来ないくらいに、そう言ってルドルフがディアーヌにとった騎士の礼は、洗練されたものだった。
流石ジークフリートの双肩を担うという、アイゼンバーグの兄弟だと、ディアーヌが内心得心するくらいに。
ディアーヌが感心してまじまじとルドルフを見つめていると、側から面倒そうなマリアの声が飛ぶ。
「じゃあ、後はお前らに任せたぞ!最初の挨拶くらいはするが」
「えっ!マリア?」
「酒の呑めない身体の私に、酒の席の話はするなよ?」
「それは!そうなんだけどっ!」
(あら)
急に目の前で始まった夫婦の気のおけない遣り取りに、ディアーヌは目を丸くする。
「義姉上、普段は酒豪なんすよ!」
こっそりと理由はディルクが教えてくれた。
(ああ、良いわ)
戦いに行っていた者が帰り、日常が戻る。
平和がすぐそこまでやって来ているのだと、マリアたちの姿を目にしたディアーヌは、初めて本当の意味で実感出来ていた。
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