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「君を愛するつもりはない」〜殿下大変です!誠実すぎて言葉選びを間違えてます  作者: 青夏


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25.王族に生まれた意義

 マリアは差出人を一瞥すると、勢いよく封を破り捨てた。

 余りの勢いに中身まで読めなくなってしまったのではないかと、周囲の者が青ざめたくらいだった。

 マリアは一言も発することなく、食い入る様に文字を目で追っている。

 その場にいる誰もが、固唾を呑んでマリアの言葉を待っていた。


「……テレーゼ姫はご無事だ」


 絞り出す様なマリアの声に、それまで張り詰めていた周囲の空気が一気に緩み、歓声が上がる。

 しかしマリアの表情は険しいままで、状況は依然として予断を許さないのだと、暗に伝えているかの様だった。


「マリア様」


 手紙を握り潰してしまいそうなくらい力の入ったマリアの両手に、ディアーヌが自らの手をそっと重ねる。


「続きを、話してくださいますか?」


 ディアーヌの静かな声に、周囲の視線が一斉にマリアに向く。

 誰もがテレーゼ姫は無事ではないのかと、その視線から動揺を隠せないままに。


「……ああ」


 目を瞑り、小さく息を吐いた後、マリアは毅然と前を向いた。


「テレーゼ姫はご無事だ。その身柄は第三皇子陣営に保護されている」


 予想外の言葉に、皆が騒めく。

 第一皇子の妃であるテレーゼ姫がなぜ、と。


「テレーゼ姫は第三皇子陣営からの和議の申し出を伝えて来られた!急ぎ殿下に伝令を向かわせろ!」


 けれどマリアの指示により、その騒めきも鳴りを顰める。

 停戦に向けて、各々の役割を果たすべく皆持ち場へと散って行った。


「妃殿下」


 一気に寂しくなった室内で、遅れて退出しようとしていたディアーヌをマリアが呼び止めた。


「少し時間を貰えるだろうか」


 どこか張り詰めた様なマリアの声音に、ディアーヌは胸騒ぎを覚えながらも頷く。


「勿論ですわ」



◇



「結論から言うと、テレーゼ姫はディッセンに戻って来ない」


 マリアから聞かされたのは、余りにも重い事実だった。


「……第三皇子の正妃として帝国に残ると」

「第三皇子殿下の……」


 無意識に呟いていた。

 皇帝が崩御した後、第三皇子が帝位につくのはもはや揺るがないだろう。

 ディッセンから、三国の同盟の証として帝国に嫁いだテレーゼ姫は、夫である第一皇子の裏切りにより母国との同盟を破棄され、嫁いだ意義さえも不意にされた。


 その彼女が、第三皇子と再婚し帝国に残ると言っているのだ。

 マリアの顔が曇るのも無理はなかった。


「……帝国は、同盟の破棄を撤回なさるつもりですね」

「ああ、そうだろうな」


 何の落ち度もないディッセンの使者を斬り殺したのは、帝国だ。一方的に同盟を破棄したのも。

 同盟の破棄を撤回したいなどと、簡単に願い出られる立場にはなかった。

 再同盟の条件は間違いなく帝国に厳しいものになるだろう。

 しかし国内の抵抗勢力を追い落とすことに力を注いだ第三皇子陣営に、ディッセンと敵対する余力などない。

 

「テレーゼ姫は他に何か?」

「王女だからと」

「え」

「王家に生まれた責を、果たしたいと」


 憮然として天を仰ぐマリアとは、また違った感情がディアーヌの中には芽生えていた。


(同じだ)


 ディアーヌは同盟を成功させるため、フレンシアを背負ってディッセンに嫁いで来た。

 勘違いも空回りもして、ジークフリートの前で恥ずかしい思いもしたけれど、それらは全て自身の肩にかかる和平への重責が発端だった。

 ジークフリートへの想い以前に。


 テレーゼ姫は、最初の婚姻では果たせなかった王族としての役割を、今再び果たそうとしているのだ。

 同盟が破棄されたままならば、また必ず戦は起こる。帝国の混乱に乗じて攻め込もうとする国もあるだろう。

 テレーゼ姫が帝国に残れば、少なくともディッセンとの争いには終止符が打たれる。


(立派なお覚悟だわ……)


 気づかないうちに目元に溢れていた涙を、ディアーヌはそっと指で拭う。そうして背筋を伸ばすと、マリアを真っ直ぐに見つめた。


「マリア様」


 ディアーヌは一呼吸おいて断言する。


「わたくしがテレーゼ姫の立場でも同じことをします」

「なに?」

「マリア様が領民のために剣を振るわれるのと同じですわ」


 怪訝そうに眉を寄せるマリアに、ディアーヌは微笑んだ。


「わたくしは公爵家の生まれで王の養女ですけれど、王家の血筋です。王族に生まれた責を果たす義務がございます。それが婚姻で叶うのでしたら喜んでいたします」

「しかしっ……!」


 マリアは咄嗟に何かを言いかけたが、結局はそのまま言葉を呑み込んだ。


「テレーゼ姫も同じお考えなのだと思います」


 ディッセンのために帝国の土に還る覚悟で嫁いだのだ。

 ただ願わくば、第三皇子がテレーゼ姫の覚悟を理解してくれる相手であることを祈ってやまない。

 たとえ政略結婚であっても、お互いを尊重し共に在ろうとすれば、それは幸福なものとなるのだ。

 ディアーヌは、そのことをもう知っている。


「そうか……そうかも知れませんね……」


 どこか泣きそうな、けれど納得のいったマリアの呟きを耳にしながら、ディアーヌは帝国の地にいるテレーゼに想いを馳せたのだった。

お読みいただきありがとうございます!

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