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「君を愛するつもりはない」〜殿下大変です!誠実すぎて言葉選びを間違えてます  作者: 青夏


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12.ディルク・アイゼンバーグ

 広い寝台の端と端で眠りにつき、朝目覚める。

 同じことの繰り返しに見えて、今朝は少し違っていた。


「……ん?」


 微かな物音を感じて、ディアーヌは寝惚け眼を開ける。

 視界に入ったのは、既に起き上がっていたジークフリートの姿だった。


「すまない、起こしたな」


 申し訳なさそうに目を細めたジークフリートの手が伸びて来て、そっとディアーヌの頭を撫でる。


(気持ちいい……)


 まだ回らない頭は、本能のままにその手に擦り寄っていく。


「ふっ……可愛いな」


(……ん?今、可愛いって言った!?)


 思ってもみなかった言葉が降って来て、ディアーヌの頭は一気に覚醒した。

 慌てて起き上がると、ジークフリートに制止される。


「まだ寝てていい」

「でも、昨日もお見送り出来てません」


 毎朝新婚の夫を見送らずに寝ているのは、いかがなものだろうか。

 ディアーヌの言外の疑問に、ジークフリートはこともなげに頷いた。


「問題ない。先の戦の残務処理で早く出ているだけだ」

「でも……」

「ああ、そうだ。今日からは早く帰れるから、それなら出迎えてくれるか?」

「え?はいっ!勿論です」


 結局上手く言いくるめられて、気がつけばディアーヌは、ジークフリートを部屋の中から見送ることになっていた。


 だが、今日は早く帰れると、確かにジークフリートは言っていた。

 嫁いでから初めて、一緒に夕食が取れるかも知れない。

 そんな些細なことが嬉しくて、ディアーヌはまだ温もりが残る寝台の上で一人転がった。





 ディアーヌが朝食を終えると、アンナから紹介したい者がいると伝えられた。

 それが今目の前にいる青年だった。


「初めまして!ディルク・アイゼンバーグと申しますっ!」


 赤い髪に榛色の瞳をした、人の良さそうな風貌の、けれど一目で手練れとわかる体躯の騎士。

 それが、ディルク・アイゼンバーグである。


「いや〜妃殿下の護衛とか恐縮です!何でも言ってください!」


 笑顔で自らの胸を拳で叩くその姿は陽気そのもの。若干の砕けた物言いと合わさって、二十二歳だという実年齢よりも随分と若く見える青年だった。

 けれど、そんな彼はこの国でも三本の指に入る実力者なのだという。

 あくまでもジークフリートを除いて、ではあるが。


「よろしくお願いしますね」

「任せてくださいっ!」


 いちいち明るく大きな声は、いわゆる貴族令息の姿とはかけ離れていた。

 側で控えるエマなどは、ディルクのディアーヌへの言葉遣いに、さっきから明らかに苛立っている。

 さてどうしたものかとディアーヌが思案している内に、助け船は別の角度からやって来た。


「まあまあ!ディルク坊が随分立派になって」


 アンナだ。どうやらディルクとは知り合いらしい。


「アンナさんその呼び方〜!」

「はいはい。ごめんなさいね」


 子どもの様に抗議するディルクに笑いながら謝ると、アンナはディアーヌに向き直って言った。


「こちらは伯爵家の三男で、殿下の直属の部下になります。幼い頃から邸に出入りしておりますので、人となりも保証できます」


 流れる様なアンナの説明に、ディルクはただ笑顔で頷いている。


「邸は十分警護を重ねておりますが、妃殿下に万が一もありません様に、お側に置かせていただきます」


 身元も実力も確か。怪しいのは口調と態度だけといったところだろうか。

 ならばディアーヌに不満などあるはずがない。可哀想だがエマには我慢してもらおう。


「わかったわ。アンナ」


 そう決めると、ディアーヌは笑顔で頷いた。


お読みいただきありがとうございます!

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