13.お喋りな男
「へ〜!すっげー!」
邸の畑にエマとディルクを伴い様子を見に行くと、既にオリバーによって耕かされ、砂糖の種が植え付けられていた。最初は少量からとはいえ、随分と気合いが入っている。
これなら上手く収穫出来るかも知れないと、ディアーヌの期待も膨らんだ。
「おう!ディルク坊か?ああ、お姫様もご一緒でしたか」
ディルクの声に反応したオリバーが、こちらに気付き歩いて来る。
「順調そうね」
「ええ。ここらはディッセンでも涼しい方ですからね。上手くいくんじゃねえかって期待しとります」
ディアーヌの問いに饒舌に答えると、オリバーは豪快に笑った。
「採れたら殿下とお姫様にまず召し上がっていた抱いて……ああ、ディルク坊にも味見させてやんねえとな」
「酷くない?俺、味見だけ?」
(本当に昔から出入りしてたのね)
すぐ側で始まったオリバーとディルクの砕けた会話に、ディアーヌは感心する。
貴族であり騎士であるディルクの分け隔て無い態度にも、成人男性であるディルクを子どもの様に可愛がるオリバーにも。
畑は問題無いからと、本来は庭師であるオリバーが手入れした自慢の庭を見て行く様にと勧められ、ディアーヌは大人しく従った。
もしかしたら、以前ジークフリートが送ってくれたディッセンの辞典の花が、実際に咲いているかもと、期待したせいでもある。
「いや〜相変わらず沢山咲いてますね〜」
誤算は、よく喋る護衛のせいで中々集中して花を鑑賞出来ないことだった。
「いい加減にその口を閉じていただけますか?」
その上忠実な侍女が遂に我慢の限界を迎え、さっきから小言が止まらない。
「え?俺喋ってました?」
「はい」
「えーすみません?」
「何故疑問系なんですかっ!」
しかも中々の相性の悪さと来たものだ。
これから毎日顔を合わせるのだから、出来れば仲良くして欲しい。
そうディアーヌが小さく息を吐いた時、背後のディルクがふと思い出したかの様に言った。
「花といえば、婚姻の儀のお姫様はお綺麗でしたよね〜」
「ディアーヌ様はいついかなる時もお美しいですが?」
「あ、それは勿論なんですけど。ほら、あのドレス!」
「ドレス……なんで貴方が?」
エマの声が一気に剣呑さを帯びる。
「あ、やっぱり気付きませんよね。実は俺いたんですよ。お迎えの騎士の中に」
「え!」
「そうだったの?」
思わずディアーヌも声を出して振り返っていた。
あの慌ただしい行程の中では騎士の顔など見る余裕はなかったし、そもそも王弟妃であるディアーヌは夫以外に近づく理由がないのだから、無理もない話ではあったのだが。
ディルクも当然といった体で頷いている。
「そうなんですよ!あの時のお姫様すごかったですよね!ディッセンて黒とか茶とかの髪が多いんで、金の髪でふわふわした綺麗なお姫様が白いドレス着て現れるもんだから、俺ら皆んなひっくり返っちゃって!」
大変だったんですよと、ディルクはさも愉快そうに笑った。
「まぁ、婚姻の儀のお嬢…ディアーヌ様を見て驚くのはわかります」
今まで散々ディルクを目の敵にしていたエマがあっさりと同意する。
「ですよねー!だから俺、実はずっと心配してたんですよ!殿下、大丈夫だったかなって」
(ん?)
なぜだろうか。聞き捨てならないことを言われた気がする。
「何か略式だから、誓いの口付けすら無いとか?いやいやそれは無いですよって!俺とか下の兄上とかでめちゃくちゃ説得して!」
口付けは、あった。
指に、いや正確には指輪に。
ディッセンでのジークフリートの様子からして、ディアーヌに自ら触れる様なあの日の行いを不思議に思っていたのだが、なるほどそういうことだったのか。これで腑に落ちた。
「歳とか、殿下すげぇ気にしてるじゃないですか?申し訳ないみたいな。いやいや貴方うちの英雄ですからね!って」
出来ればぜひ、もっと言って欲しいくらいだ。
「本当にっ!いい方なんですよ!!優しいし、顔だってすげぇカッコいいし!あんな立派な方どこ探したっていませんからっ!!」
心から同意する。
ジークフリート以上の人に出会える別の人生など、ディアーヌとて考えられなかった。
「なんで妃殿下!どうかうちの殿下をよろしくお願いします!!」
それならまず、子どもとして見られなくなる方法を考えてはくれないだろうかと、無邪気に頭を下げるディルクを見つめながらディアーヌは曖昧に頷いた。
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