第26話 第5章 話さない人形 3 症状
診察室にて、がり勉猫はわざとらしく重厚な聴診器を人形のナナにあてた。
深刻な顔で異変を探るふりをしながら、隣のネコロボに声を潜める。
がり勉猫:「……どうですか、ネコロボ。この個体、内部チップの回路に断線や故障は見られますか?」
ネコロボ:「がり勉猫さん。そもそもこの人形、音声装置すら入っていません。綿が詰まっているだけです」
がり勉猫は一瞬、絶句した。だが、プロ(のお医者さんごっこ)としてその動揺を完璧に隠し、モエに向き直る。
がり勉猫:「モエさん、これは深刻です。ナナさんは……『モフモフ病』にかかっています」
モエ:「先生、ナナちゃん治らないの? 死んじゃうの……?」
がり勉猫:「いいえ。私に治せない病気はありません。ご安心ください」
自信たっぷりに告げたものの、がり勉猫の観察眼がナナの異変を捉えた。
がり勉猫:「ナナさん、手足にひどい怪我をしていますが……お尻も。いつからお話しできなくなったんですか?」
モエ:「クリスマスの前くらいから……元気がなくて、お話しできなくなったの。怪我は、私がテープでお手当してあげた。お尻はママが縫ってくれたの……」
ナナの右手と左足は、溢れ出した綿を隠すようにテープでグルグル巻きにされている。お尻には、お世辞にも上手とは言えない歪な縫い目があった。
がり勉猫:「看護師さーん! ナナさんに至急お手当を!」
奥から現れたのは、ナース服を完璧に着こなしたコツ勉猫だ。
コツ勉猫:「はいはーい! 先生……あらあら、ナナちゃんがこんなに! すぐに処置室へ運びますね!」
モエ:「先生……治る?」
がり勉猫:「ええ。待合室でネコロボと待っていてください」
ネコロボ:「さあ、お姫様。オレンジジュースでも飲んで、ゆっくり待ちましょう」
ネコロボと手をつなぎ、安心した様子でモエが去っていく。
一方、一階の「モチオ相談所」では、ゲームの休憩に降りてきたモチタまでが加わり、異様な熱気に包まれていた。
モチオ:「なにッ! 旦那が浮気だと!!」
よし子:「そうなの! だから尻尾を掴んで、証拠を突きつけて、離婚して、慰謝料をごっそり取ってやりたいの!」
モチタ:「おもしろそー! 探偵ごっこみたいじゃん! よっ、名探偵モチオ!」
おだてられたモチオが鼻息を荒くする。
モチオ:「フン、この名探偵モチオに任せるニャ! 必ずや浮気男の尻尾を掴み、ジャイアントスイングでお見舞いしてやるニャ!」
実験室でナナの「手術」に集中するがり勉猫は、まだ気づいていなかった。
モチオとモチタ。この二つの混沌が交わるとき、それは最悪の事態を招く予兆であることを……。




