第1話 序章 ビジネス イズ ビジネス ニャ!
ネコロボ「この件に関しましては……ビビビ……」
「ネコロボには聞いてません! モチオさん、あなたに答えてほしいのです!」
ガリ勉猫の鋭い声が、狭いリビングに響き渡った。
渦中のモチオはといえば、黙りこくって下を向いている。
……反省しているのか、それとも単に寝ているのか。
モチクロ「いいことじゃない? モチオもやっと働く気になったんだからさー」
モチタ「そうだよ。なんで全員呼ぶのさ。僕は次のクエストで忙しいんだよ!」
不満げな猫たちの視線の先。
ここはネコなのか人間なのかわからない不思議な街の不思議な一角、、、
何か深刻な話のようである。
テーブルの上には、インクの匂いも生々しい一枚のチラシが置かれていた。
【解決ができることも辞さない可能性を含まれている事も否定できなくない相談所】
モチクロ「……まあ、まどろっこしい名前だね」
【あなたのどんな悩みもズバッと一言で解決!】
モチタ「そもそも社名が超まどろっこしいのに、解決はズバッとなの? 完全に迷走してるよね」
コツ勉猫「どうであれ……あのモチオさんが自ら会社を興すなんて、雪でも降るんじゃありません?」
どうも仕事もしないで遊んでばっかりのモチオが仕事を始めるようである。
だが、ガリ勉猫の疑念は別のところにあった。
彼は語気を強め、震えるネコロボを凝視する。
ガリ勉猫「おかしいですね……! モチオさんが役所に届け出ることなんて、物理的にも、法的にも、倫理的にも不可能なはずですが!! モチオさんは アホです アホは無理です!」
ビビビ……。
ネコロボは不安げな機械音を立て、気まずそうに目を逸らした。
ガリ勉猫は、沸騰しそうな頭を抱えて唸った。
「まあ……いいのです! まあいいでしょう!! モチオさんが会社を興そうが、何だろうが!」
モチクロ「そうだよ。やっとやる気になったんだから」
モチタ「僕らには関係ないし。いつもの喧嘩なら外でやってよ」
がり勉猫:「……関係、あるのですよ。みなさん!!」
ガリ勉猫は震える手で、一枚の書類をコツ勉猫に差し出した。
コツ勉猫「ふむふむ……デタラメですわね。でも、ビジネススキームだけはやけにしっかりしていますわ。……当然、ネコロボさんが書いたのでしょう?」
ビビビッ!
ネコロボが短絡しそうな音を立てて固まる。
ガリ勉猫「そこじゃありません! ここ、ここを見てください!」
彼が爪を立てて指し示した欄には、こう記されていた。
【従業員数:4名 と 1機】
一瞬の静寂。
ネコロボのレンズが驚愕に染まる。
ネコロボ「……1機って、私……ですか?」
一同「「「「ってことは、全員従業員かよ!!!」」」」
その時、ずっと黙っていたモチオが、鼻をほじりながら口を開いた。
モチオ「まあ、わざわざ怒るほどのことでもねーにゃ。入っといた方がいいかなーって。唐揚げにレモンをかけるくらいの『優しさ』ニャ。そんなことでブチギレるなんて、ちいせー猫たちだにゃあ」
一同「「「「唐揚げのレモンと一緒にするな!!!」」」」
怒号が飛び交う中、モチタが挙手した。
モチタ「いいよ、わかった。モチオの会社は悩みを『解決』するんだろ? 」
モチオはどや顔でうなずく。
モチタ「だったら今すぐ『変な猫の社員にされて困っています、助けてください』っていう依頼を解決してよ!」
誰もが「一本取った!」と確信した。
だが、モチオはやれやれと首を振り、スマホを指差した。
モチオ「まずアプリに登録ニャ。そして電話を一回かけたら、携帯会社から自動的に請求が来る。一回500円。さらに一分ごとに20円の追加課金ニャ。……完璧な集金スキーム(仕組み)ニャ!」
沈黙がリビングを支配する。
一同の殺気だった視線が、一斉にネコロボを射抜いた。
ネコロボ「わ、私は……モチオさんにプログラムを組んでくれと頼まれただけで……ビビビ……!!」
コツ勉猫「……納得しましたわ。朝からリビングの電話が鳴り止まないのは、そのせいですのね」
その時、一際大きく着信音が鳴り響いた。
モチオ「テメーら仕事の邪魔ニャ! シッ! シッ!」
ガリ勉猫「モチオさん、勝手に倉庫を事務所に改装したんですから、家賃払ってくださいね!?」
モチオはガリ勉猫の正論を華麗にスルーし、受話器をひっつかんだ。
モチオ「はい! 解決ができるかもしれないかもしれない事もない相談所ニャ!」
モチクロ「自分の会社名、さっそく間違えてる……」
モチタ「適当じゃないモチオなんて、見たことないよ……」
ガリ勉猫「放っておきましょう。どうせ、三日で飽きますから」
しかし、モチオの「仕事」は止まらない。
【相談者A:上司との人間関係】
「私は仕事で、上司との人間関係に悩んでいます……」
モチオ「上司はそんなお前との人間関係に悩んでるニャ。……以上!」
ガチャッ!
【相談者B:コミュ障の悩み】
「僕、コミュ障で。人とうまく話せなくて……」
モチオ「そもそも、うまく話せないなら電話かけてくるな! ……以上!」
ガチャッ!
【相談者C:4歳のもえちゃん】
「もえちゃんね、4ちゃいです。アイドルになりたいんでちゅ。どうすればなれますか?」
モチオ「心配するな。お前はもう立派なアイドルだ。……お父さんと、お母さんのな!」
ガチャッ!
【相談者D:究極の二択】
「今日の夕飯はカレーかシチュー、どっちがいいですか?」
モチオ「唐揚げにしろ。カレーVSシチューの決着は、そう簡単に解決できない。……以上!」
ガチャッ!
【相談者E:霊の悩み】
「私は霊に取り憑かれています……どうすればいいですか?」
モチオ「はあ? お前が取り憑かれているのは霊じゃなく、ただの被害妄想だ。……以上!」
ガチャッ!
【相談者F:宗教勧誘】
「あなたは、神を信じますか?」
モチオ「神は信じてるが、お前は信じない! ……以上!」
ガチャッ!
モチオ「ふぅ。今日もズバッと解決ニャ!」
それを見守る一同の顔には、不安と諦めしか浮かんでいなかった。
その時、またしても電話が鳴る。
モチオ「はい、モチモチモッチー相談所ですニャ」
イタ電「モチオのばーか! ばーか! ばーか!」
モチオ「テメーがバカだニャ!!」
ガチャッ!
ネコロボが心配そうに、やってきた。
ネコロボ「モチオさん……流石にイタ電が多すぎませんか? 大丈夫ですか?」
モチオはニヤリと、悪魔のような笑みを浮かべた。
モチオ「なーーに、問題ないニャ。イタ電をかけるにも、専用アプリを通さないと繋がらない設定にしてある。つまり、電話が繋がった瞬間に一回500円ニャ。
バカって一回言われるたびに、俺の懐に500円入る計算ニャ。本当の馬鹿はどっちか、明細見ればわかるだろうニャ。。。。 フフフ、。。」
モチオ「……ビジネス・イズ・ビジネス、ニャ!」
それを遠くで聞いていたガリ勉猫は、戦慄した。
(モチオ……ただのバカだと思っていたが、底知れぬ悪党…侮れん……!)
そうこうしていると……電話ではない、「物理的な音」が響いた。
ガチャン。
老婆がゆっくりと、事務所(倉庫)のドアを開ける。
今、まさしく。このデタラメな相談所の「本当の始まり」を告げる合図。
ガリ勉猫「ま、まさか……こんなところに、本当に依頼人が……ね、モチオさん。モチオさん!?」
…………。
ネコロボ「あ、モチオさん。トイレに行ってます。ビビビ」
期待も、緊張感も、物語の始まりさえも、すべてを等しく台無しにする猫。
それが、モチオである。




