第2客 GRAY NOT BLACK
まぶしい。
目覚めた最初の光にしては眩しすぎる。
12月と言えども、
日中の日差しはいっちょ前にまぶしい。
「あ~もう13時か…」
昼夜逆転生活、体調を崩す者もいると言うが、
私はどうやら夜型の人間のようでこの生活はすぐに馴染んだ。
「黒ちゃんから買い物頼まれていたんだった」
必要な物を書き出した。
特にすることもないし、少々早いが家を出よう。
いやぁしかし一人で住むには広すぎる家だ。
「パパもママもいないし、
あほお姉はどこかで野垂れ死んでなきゃいいけど…」
ブツブツと独り言でも言っていないと、
ほんの少し、ほんの少しだけ不安。
早々にシャッターを閉め、
マスクとマフラーで顔を隠して扉を開けた。
「いっそここホテルにしてもいいんじゃないか」
腕を組み浮かぶのは、たくさんの傷や汚れ。
この領域を他人に侵されると考えると、
背筋がぞっとする。
いや、外が寒いだけだろうか。
さすが土曜日、繁華街という事もあって、
賑わっているなぁ。
繁華街の端をのんびり歩く。
「でも、私が子供の時はもっと賑わっていた気がする」
ふと横を見るとシャッターが閉まっているお店がある。
ここはたしか着物屋さんだったはずだ。
でかでかとガラス張りの店舗、
こぎれいな店、
英語で書かれた看板。
「老舗も変わったわねぇ」
この景色から何か参考になるものは無いかと目を細める。
…
「いや!そんなお金あるわけないじゃない!」
モダンな雰囲気にのまれるところだった。
もっと現実を観なさい私。
「金かけず、工夫するのが、改善だ」
父の格言。忘れてはならない。
「やっぱガールズバーにするかぁ??」
腕を組みながら歩いている。
ふと左の視界が気になった。
買い物袋を持ったおばあさんが急な坂を登っている。
「重たそうだな。手伝ったほうがいいかな」
とみていると、おばあさんが小石に躓いて体勢を崩した。
私の身体はとっさに動いた。
袋からみかんがころころと転がってきた。
「いやいやいや!ドラマかよ!」
そのほか転げ落ちてくるものを拾い、
おばあさんの手を取った。
「おばあちゃん!大丈夫ですか!?」
いてててと言いながらおばあさんは立ち上がった。
「いやだねぇ歳には勝てないねぇ」
良かった、大きなけがはなさそうだ。
出勤時間は余裕あるし…
「おばあちゃん、運ぶの手伝うよ!」
「すまないねぇありがとう」
近くのアパートまで一緒に運んだ。
「お嬢ちゃんありがとうね。お茶でも飲んでけな」
その言葉に、妙な引っかかりを覚える。
さっきまで知らない人間だったのに、
たった数分の出会いで、家の中に招こうとする。
なんだ?この距離感…
家の中に手招きされた。
「ありがとう!でも私仕事だから行かなくちゃ」
ずきーん!
脳天から足のつま先まで電気が走った。
ような気がした。
これだ、これかもしれない。
「おばあちゃん、気を付けてね!ばいばーい」
私はそそくさとこの場を離れることにした。
買い物を終え一足先に店につく。
あれ?なんか…オイルっぽいにおいがする?
周りの地面を見回した。
どこにもこぼれている形跡はないし、
燃えている場所もない。
古い車が通るとこんな臭いがするので、
きっとそれだろう。
そして裏口から竜宮城へ入る。
「おはよう~今日予約入った?
黒ちゃん、備品買ってきたよ~」
そしてスタッフルームに行き座る。
考える。
この方法…合法だろうか?
ただ思いついてしまった以上、やってみるしかない。
午後4時、夕礼ミーティング。
「あのさ、私…良い案を思いついちゃったんだけど」
まずはみんなに相談してみることにした。
「困ったふりをして、助けてくれた人をこのお店に連れ込んで、
お客として迎え入れてしまうのはどうかな」
少々強引か。
あんなが口を開いた。
「詐欺じゃん!」
ですよね。
だがあんなも私も笑ってしまった。
「でもさ?うちはぼったくりじゃないよ?」
人の信用を失うようなことはしたくない。
黒川が腕まくりをして腕を組み、言った。
「限りなく黒に近いグレーだが、
ん~キャッチとはまた違うもんなぁ」
うちのナンバーワンシェフ黒川大河。
彼は私が店長になる前からいる従業員だ。
もうね、と私はぶちまける。
「なりふり構ってらんないのよ!
それぐらいピンチなわけさ!うちの店!」
そうよ、明日を生きるために、
必要なことなのよ。
「試しに、試しにやってみるのはどう?」
ん~とみんな顎に手を当てて考えているようだ。
ヌルッとアルバイトのみなみが手を挙げる。
「ママ、でも実際にどうするの?」
実演…してみるしかないか。
「黒ちゃん、そこに立って」
黒川はホワイトボードの前に立つ。
私は黒川に近寄る。
「あ、あの~すみません。ゲームセンター鬼ヶ島って、
場所わかりますか?」
勿論演技よ。
「え?鬼ヶ島?あ、実演ねこれ。
あの角を曲がって…」
「私土地勘無くて、
出来れば案内してくれると助かるんですけど…」
「え、あーじゃあ行こうか。いざ、鬼ヶ島へ」
私は振り返る。
「こんな感じ?」
おぉ~と拍手が起きた。
「ママ、でその後どうすんの?」
「道案内の途中で竜宮城の話を出すのよ。
あそこの店面白そうですねって」
そして仲良くなってうちの店に…
「うん、ぼったくりバーのやり口だな」
あんなの声にみんな頷く。
「そして、カウンター席に座らせて、
カウンター越しに積極的な接待をする」
一応合法なはずだ。
いや、果たしてそうか?
「ガールズバーだね」
あんなよ、間違いない。
「ま、何もしないよりか、やってみるのは有りかもな」
黒川はいつにもまして楽しそうな顔をしている。
「じゃあ…やってみる?」
果たしてうまくいくのかはわからないが。
私は自分に言い聞かせた。
「美味しい料理をだす。
変な請求もしない。
楽しい時間を提供する。
そして無理やり飲ませはし…それはわからないけど」
よいしょぐらいはしてしまうかもしれない。
「来るきっかけを、うちの店に来るきっかけが欲しい。
きっと満足させてあげられるわ」
それの何が悪いのよ!
こういうのをマーケティングと言うんじゃないの?
「お願いみんな!このお店を助けるために、
力を貸してくれないかしら」
私は頭を下げる。
それしかできない。
「まあ、俺達も無職になるのは厳しいしな。
みんなも何か良い案があれば言ってくれ」
それに、と黒川は付け足した。
「おんちゃんとこの店になんかあったら、
俺がおやっさんからぶっ殺されるからな」
「黒ちゃん…素直じゃないんだから」
よし、さっそくやってみようかな。
「よし、私と一緒に街に行きたい人!」
ソロっと手を上げた人が一人。
「はい、みなみ決定!私服に着替えて!」
二人で更衣室に入り、
軽い変装メイクをし、お店を出た。
「さすがに土曜日だから人が多いね」
「平日の昼間なんてゴースト商店街ですもんね」
みなみめ、的確でわかりやすい言葉ね。
「そうなのよ、だからうちもランチやめちゃったのよね」
はぁ、不安になる心をため息で飛ばす。
さーてどうしようか。
「よしみなみ。私の雄姿を見届けなさい」
指輪をつけていない、
気が弱そうな、
小さいカバンやリュックを持つ、
靴がきれいな男。
いた!あの人でいいや。
みなみに手で合図する。
「あの~すみません」
声を掛けられた男はきょとんとしている。
「サンゴ駅はどこにあるかわかりますか?」
「え、ああサンゴ駅はそこの路地を曲がって…」
よし、これはいけそうだ。
「あのぉ土地勘が無くて…もしよければ案内してほしいんですけどぉ」
ばーちゃんから教わった伝家の宝刀。
上目遣い!
「え、う、うん。いーよ」
ヒット!
お仕事何してるんですか。
などのコミュニケーションは朝飯なのよ。
そして歩みを進めて私は立ち止まる。
「へぇカラオケ居酒屋竜宮城かぁ
なんだかおもしろそうなお店ですね!」
実際良い店なんだけどな。
「そうだね、僕も来たこと無いなぁ」
これはいい。
「もし、お暇なようでしたら…一緒に入ってみませんか?」
男は頭をかきながら、うんいーよ。と返事をくれた。
しゃー!
当然私はがっつり変装メイクをしている。
先導して扉を開ける。
「いらっしゃいませー竜宮城へようこそ」
私はピースした。
「2名様ご案内しまーす」
当然カウンターに通された。
なじみのメニューを手に取る。
うん、そろそろ変えたほうがいいかしら。
油のべとつきが気になる。
カウンターのあんなが話しかけてきた。
「お二人とも当店は初めてですか?
お越しいただきありがとうございます」
そしてあんなからメニューが提示された。
「当店では、カウンターカラオケ、個室カラオケ、
カラオケ無しの3つのコースからお選びいただけます。
今日はどうされましょう?」
これは私が考案したコース。
滞在時間や目的を分けた。
だが、リピートに繋がっている実感はない。
「へぇ面白いですね!…さすがにカラオケ無しにしましょうか」
引くところは引く、リアリティを求めるため。
「うん、でも雰囲気もいいねこのお店。
スナックかと思ってたよ」
やはりそういう印象だよな。
だが立派な三階立てのスナックなんかないだろ。
そして、本当の仕掛けはここからである。
あんな、頼むわよ。
「優しそうな彼氏さんですね」
乗せる。
気持ちよくなった経験を積ませる。
そして、心地の良い店員の印象を植え付ける。
「え、あ、いやその…」
テンプレ通りの慌てようだ。
「ね、優しそうな方ですよね。
実は道案内してもらっている最中だったんですよ」
男は言う。
「あ、そうだ。駅にはいかなくていいんですか?」
「大丈夫大丈夫!今日は遊びに来ていただけなんですよ。
でも迷子になっちゃって…どうせ暇だったので!」
…このご時世そんなギャルがいるわけねーだろ。
今日私が捕まえたお客さん、
たまにこのお店に来てくれるようになった。
違う。
もっとだ。
もっとほしい。
罪悪感を帳簿に閉じ込める。
そんな中、みなみが捕まえてきた客、
この人が、新たな常連客となる。
浦島太郎。
通称ターさん。




