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第18客 臨時休業


あれ?どこなのよここ…


真っ白な視界。

夢なのか、なんなのか。


「ん…んんん!あれ?身体が動かない」


金縛り?いや、そんな感覚ではない。


かろうじて動く首からゆっくり体を動かす。


私の腕にはなにやら管が繋がれている。

という事に気が付いた。


ここ病院?病院だ。


「あれ?私何やってたんだっけ…」


ぼんやりする意識のなか思い出す。


なんかあの日はやたらと黒ちゃんがしつこくて、

それでシフトを作っていて…


「ああ、目が覚めましたね」


カーテンから薄ピンクの装束をまとう人間が覗いてきた。


「ああ、まだ動かないでくださいね」


はい。と声を出すのがやっとだった。

再び体を倒して横になる。


ぼーっとしていたが一体どれくらいの時間が流れたんだろう。


時間…時間!?

大急ぎで身体を起こした。


「あれ!?今何時!?」

スマホ、スマホはどこ??


「何を探しているんだ」

「いや、私のスマホを…って黒ちゃん?」


彼は視線をそらした。

そういえばなんだか胸元がスースー…!?


慌てて両手で隠しながら、少しはだけそうになっている服を戻す。


「…みた…?見えた??」


黒川は首をブンブンと横に振る。


「正直にいいなさい」

「い、いや、着けてない事に気が付いたから急いで視線そらした。

ホント、これほんと」


ふう。


「ま、いいわ今更。何度もお風呂一緒に入ったことあるもんね。

子供の頃」


そんな空気を読まずにカーテンががばーっと開く。


「お、目覚めたようですね。ちょうど彼氏さんもいるようですから」

「彼氏じゃありません。…弟です。義理の」


私の言葉に黒川も必要以上に首を縦に振った。


「じゃあちょうどいいですね、乙姫さん、

過労と睡眠不足と脱水が重なってます。

あと2週間入院してください」


え?二週間!?


「先生!ちょっとそれは…私もう元気です!

ていうか今日って何曜日の何時ですか!?」


先生は左の腕を見た。


「今日は水曜日の夕方6時頃です。

だいたい一日近く寝ていましたね」


良かった。お店に穴をあけていない。

黒ちゃんの休日をつぶしてしまった。


「よかったぁ。じゃあ帰ります。点滴取ってください」

「あほか!」


黒ちゃん…声おおきい!


「ダメです。乙姫さんには二週間入院していただきます」

「それこそダメです!お盆休みが待ってます!」


それこそお店が回らなくなってみんな過労で倒れてしまう!


「だめですよ、本当に死んでしまいますよ??」

「乙姫」


黒川が先生の会話を妨げた。


「乙姫、休め」

「いや」


「迷惑だ。休んでくれ!」

「嫌だ!」


黒川は怒る様子もなくバツが悪そうな顔で喋り始めた。


「お前が頑張ると周りに迷惑がかかるんだ。

言いたくなかったんだけどさ」


…

どういう意味?


「お前が倒れた時、みなみはどうしたと思う?」


みなみ?

「みなみがどうかしたの!?」


黒川は私の顔を見ずに言った。


「責めていたんだ、自分を。

私がダメだから、私が頼りないからって」


そんな…

みなみは覚えも早くてよくできた従業員だ。


「お前さ、年頃の娘を泣かせるなよ。

竜宮城ってさ」


私のせいで…迷惑をかけてしまった?


「竜宮城はお前の、お前だけの店じゃない。

皆で運営してるんだよ。もっとクルーを信じろ」


竜宮城は…みんなで…


「安心しろ、約束するよ、お前がいなくても、

お盆休み乗り切って見せるって。

お前より長い間働いている従業員もいるんだからさ」


そうね…そうよね…。


「そんなに焦るな。ゆっくり休んで戻って来い。

お前だけでも、お前がいなくてもだめだ」


勝手に昼カラ初めて、ランチも再開して、

そして一人で勝手に倒れて…


なんて迷惑で自分勝手な店長だ。


「ごめん…ごめんね…」

「おいおい、あんまうつむくな、見えそう」


…!


「ヘンタイ!パパにいいつける!」

「ごめん、それだけは止めて、たぶん本当に殺される…」


さっと引いた涙をぬぐうと、

まあ、と黒川は言う。


「悪いと思っているならさ、今回はクルーを信じてゆっくり休め。

あとさ、ゴメンじゃなくてありがとうって言えよ?みんなには」


ありがとうか。

皆には日ごろ感謝しているつもりだったけど。


面と向かって言葉にしてきたことは少ないかもしれない。


「うんそうね…ところで黒ちゃん、お願いがあるんだけど」

「なんだ?」


いやその…


「パ、ノートパソコン持ってきてほしいんだけど…」

「パソコンで何するんだ?」


…


「し、小説でも書こうかなと思って…」

「嘘つけ、シフト作るつもりだろ」


ギクッ

「ダメですよね?先生」


黙ってうなずく先生。


「わかったわかった冗談だって。モンファイやりたいから、

ゲームもってきてぇぇ退屈すぎてたぶん死ぬ」


こんなに時間があるときはゆっくりモンスターファイトでもやって、

素材集めまくりたい。


「先生、ゲームはいいんですか?」

「ええ、かまわないですけど、消灯時間は守ってくださいね」


私は必要以上に頷いた。

「じゃ、店は大丈夫だから、ゆっくり休めよ。じゃあな」


振り返りもせず出て行った。

なぜだか、彼がいなくなると途端に寂しい。


次の日には仕入れ帰りに彼はゲームを持ってきてくれた。

着替えと共に。


「まさか…私の下着準備したのって…」

当然みなみが準備してくれた。


その証拠にみなみから、ゆっくり休んでくださいって、

手書きの手紙が添えられていたからだ。



私は大いに喜んだ。


「こんなにゲームに没頭できる日なんてたぶん一生ないかもしれない!」


初日はそれこそあっつあつの充電器が腰を温めながら、

没頭した。


しかし翌日。


「あ~なんだか目がシパシパしてきた…」


二時間のゲームで一時間の休憩が必要なほど、

目が疲れてしまう。


こんな贅沢な悩みをするとは思わなかった。


それにしても…

「だれかお見舞いぐらい来なさいよー!」


私って友達少ないのかな…。



三日目からは点滴も取れて歩いていいですよと言われる。


たった2,3日寝っ転がっていただけなのに、

病棟を歩くだけで乳酸がたまる。


「あ~私仕事辞めたら…すぐ死ぬかもしれない…」


退職すると一気に老けるという理由が分かった気がする。


そこに転倒などして怪我でもすれば、

みるみる身体が弱っていく。


これって、私のおばあちゃんが亡くなったパターンだ。


「今のうちから運動する習慣つけておこうかしら…」


この入院期間は自分を見つめ直す時間が多い。

食生活は正そう。

お酒は控えめにしよう。


だが退院して一週間もすれば、

胃も舌も元通り。



そして誰も面会に来ないまま、

退院日の、お盆休みの最後の日曜日を迎えた。


本当はあと3日ほどの予定だったが、

良判定をもらえたので入院期間が短くなった。


「二度と入院したくない。暇すぎてしぬ」


そんな捨て台詞を置いて病院を後にした。



二週間ぶりの我が家、

あれ?なんだか片付いている。


もしかしたらみなみが掃除しに来てくれていたのかもしれない。


ささっとカバンを置いてシャワーを浴びて、

薄く化粧をして着替える。


「さて、我が城の様子でも見に行くか」


まだ午後の二時前だ。

そこまで忙しくないだろうから、ついでにお昼作ってもらおっと。


途中でデザートを買って向かった。


堂々とお店の表口から入る。

私のお店なのに遠慮することはないだろう。


ああ、このカランカランという音が懐かしく感じる。


「いらっしゃいませぇ竜宮城へようこそー」


色艶のある声。

誰の声だ?


いや、聞き覚えがあるこれは…!


「え!?ちょっとちょっと!!

愛姫(えひめ)おねーちゃん!?

なんでいるの!?」


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