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15/20

第15客 大黒柱


初夏の風が鈴の音を運び、

ついでにお客さんも連れてきた。


「いらっしゃいま…え?」


若い男女が入ってきた。

それにしても若い。


「おーなかなかええ雰囲気じゃの」

おっさん臭いセリフを吐く女の子を見る。


栗毛色のゆるふわカールの髪がなびく。

思わず見とれてしまうほど、とっても可愛い。


「信じられん、今テスト期間中だ。

カラオケなんか来る奴の気が知れてる」


あんたも入ってきてるじゃないか。


文句をいう男は、猫毛でスラっとした体形。

いや、細すぎないか君?


それにしても彼もかなりのイケメンね。


「よっしゃー歌うぞー!」


あなたは元気ね。


この中で誰よりも日焼けをして健康的な女の子。


あれ?この子達の制服って、

田舎県でもかなり偏差値高い学校よね…。


「おねーさんすみません。3人なんですけど、

部屋開いてますか?」


「あ~ここは居酒屋…」

って今は昼カラか。


「ちょっと部屋が満室で、

そこのカラオケカウンターでもいいかしら?」


まさか高校生が来るとは、

本当にお客さんの行動が読めないわ。


「全然どこでもオッケーです!

フリータイムの飲み放題で!」


また満室!やった!

あ、そうだ。学割とか導入しても…

ってまだ気が早いわね。



3人はカウンタに座りカバンから教科書とノートを取り出した。


「あ!学校に筆箱忘れた」

「お前は一体…言うだけ無駄か、ゴリラには」


元気な子がイケメンを睨む。


「ゴリラ上等!」


力コブを見せつけながら堂々たる姿って、

なんじゃそりゃ。


「じゃあミツキ、筆記用具貸して!」

「嫌じゃ!そいつから借りればええじゃろ」


良いじゃないかわいい彼女、貸してあげてもさ。


「ん~まあそうよね、ってことでテラス、貸せ」


返事を待たず筆箱から筆記用具を奪った。


「んじゃあ私からね」

「さっそく歌うんかい!」


元気な女の子がデンモクを操作する。

その横で黙々とイケメン君が筆を走らせる。


歌い終わるやいなやかわいい彼女に絡み始めた。


「ほら~ミツキも歌いなさいって」

頬にマイクを突き付けるかの勢いでマイクを差し出す。


というか、この三人どんな関係?

男一人女二人とハーレム状態だ。三角関係??


テレビに映っていてもおかしくないくらい、

かわいい彼女が選曲をしている。


「うあ~また塩麹マシュマロ?」


「だから年寄りと言われるんだ」

ぼそっとイケメンがつぶやく。


「誰がババアじゃコラ!」

イケメンは丸められた教科書で射抜かれた。


角当たったよ!?痛そう…


その後も歌ったり勉強したりと学生らしい事をしている。

というかなぜうちの店に来たんだろう?


「ねえねえ君たち聞いてもいい?」


筆を止め三人は顔を上げる。

こう面と向かってみればみんな容姿がいい。


「なんでうちのお店来てくれたの?」


イケメンが口を開いた。


「城はいい、城とはだれでも居座りたくなる」


ん~名前が良いってこと?


「ま~た意味わからないこと言ってバカテラス」


テラス君、尻に敷かれすぎじゃないか君は?


「いやの、なんかいい雰囲気じゃなって。古風で」


かわいい彼女、良いこと言ってくれるじゃないか。


「ヒカリ、いつまで精神年齢100歳超えているのよ」


なんちゅう突っ込みじゃ。


「なんかすみませんね、変な奴らばっかりで」


大丈夫、君も十分ヘンだという事は伝わっているわ。


「あのですね?駅前のダリーッスも満席で、

どこか良い場所ないかな~ってふらふらっと歩いてたら、

ここにたどり着いちゃいました」


酔っ払いの言い訳にしか聞こえない。


「若き者たちよ、腹は減ってないか」


ヌルッと現れ、私の横から黒川が話しかけた。


「え~、空いているけど…あんまりお金なくて…」

パラパラっとメニューを見ている。


そうよね、高校生だもんね。


「特別に俺様特性の賄い、

黒川スペシャルをワンコインで食べさせてやる。

常連には1200円で出しているんだぜ」


元気な子は顔を上げた。


「ホント!?」

キラキラした目で黒川を見つめる。


「じゃあ私大盛り!ミツキは?」


腕を組みながら悩むかわいい彼女。

年頃だもんね、普通盛りか小盛か、いろいろ悩みはあろうて。


「ワシも大盛りじゃ!テラスはどうするんじゃ?」

大盛りか、お腹と相談していただけか。


「我は普通盛りで」

華奢な体系の人はやはりそれほどの食欲だ。


「じゃあお兄さん、大盛り三つで!」

「大盛り三つね、はいよ」


いいのかい?黒ちゃん。

それでいいのかい?イケメン君。



黒川は5分ほどで戻ってきた。

いらないと言っても振る舞っていたのかもしれないな。


「おんちゃん達も、よくここで勉強したよな」

「あ~したね!みなみもしてたね」


うるさいはずなのに、集中できないはずなのに、

なぜだか筆が進むんだなこれが。


「おいしそ~いただきます!」

四分割してしまいそうな勢いで元気な彼女が箸を割る。


こうしてみると、ランチの風景が懐かしい。


「ん!?ナニコレ!?ちょーおいしい!」


その顔よ。

夜では見られないその顔がいい。


「これは…シェフはどなただ」

「どう考えたって俺だろ」


男どもは何やってんだか。


「おねいさん、これ、ミンナノミカタでアップしていいかの?」


SNSか、SNS…それは頼もしい!


「いいよ、竜宮城ってハッシュタグもつけてね」


客層が若くなる雰囲気も違うし、

アプローチの仕方も変わる。


頭ではわかっていたけど、盲点だったわ。


その後三人は歌ったり、喋ったり、

肝心のテスト勉強はどうだったんだろう。


それにしてもイケメン君もつらいね。

頑張れイケメン。



利用料金が安いからかわからない。

しかし他店と比べても、うちの店が有利なのはそこしかない。


意外とお客さんが入ることに驚きを隠せずにいる。


物珍しさの可能性も拭えない。


機器が古いから本気で歌いたい人は来ない。


「ぬか喜びできない状況なのよ、わかる?」


ANNNA'S BAR で不安の矛先をぶつけていた。


次の手を打たなければ。

飽きられてしまう前に、ボロが出る前に、

いや本当にボロいんだけど。


「乙姫、新しいパートさん来るんでしょ?

方向性決めとくべきよね」

「そうなのよ~どうすればいいのよー

助けてよーあんなちゃ~ん」


難しいよう。

どうやってここまでお店を続けてきたのよ~。


「ん~黒川さんくれるなら考えてあげてもいいわよ」

「良いわけないでしょーが!ばーかばーか!」


カクテルを飲み干した。


「ほーらもう帰れ帰れ、あんた明日早番でしょ?」


背中を押されるがまま、初夏のぬるっとした風が、

私を包んで温めてくれた。



昼カラの店番は案外やることが少ない。


といってもがっつり時間が取れるわけじゃない。


「かおるさん、クジラの間にドリンク三つお願いします」


新人のパートに指示を出し、グラフを眺める。


一月も運営すると来客の傾向が見えてきた。


背後に立つみなみが画面を覗いてきた。


「ママ、やっぱり主婦層が圧倒的に多いですね」

「そうなのよ、しかもサブスク会員は圧倒的に主婦なのよ」


本当に読めないもんだ。


お年寄りの憩いの場として用意したのに、

まさか主婦の井戸端会議の会場にされるとは思わなかった。


「さすが主婦よね、制度やお金や時間の使い方が上手い」


つまりサブメニューはほぼ頼まれない。


「感心している場合じゃないですよ!

時間単価めっちゃ低いじゃないですか」


痛いよ~今私ナイーヴなのよ、みなみちゃん。


「でもこれなら土日の昼カラ、来月からやっても良さそうね」


よーし、料金表仕上げちゃおう。


「あのさ…」


黒川が物腰低く話しかけてきた。


「どったの」


何かあったわねこれは…


「冷凍庫のコンセントが抜けててさ、

率直に言うと夜まで食材が持たねぇ…」

「なんですって!?」


思わず立ち上がる。

勢いで椅子が壁まで転がってしまった。


「どうする…?」

「どうしましょ…?」


みなみの方を二人してみてしまった。


「え?わたし?ですか?」


黒川も悪い男だ。

社員になりたての年頃の娘に判断をゆだねるなんて。


「つ…作ってランチで出しちゃうってのは…」


おー。


「それだな」

「それね」


時間は…まだ11時。間に合う!


「みなみ!お米炊いて!

黒ちゃんは超特急で仕込んで!」


黒板に書いた本日のおすすめの文字を消す。


「特別ランチ、黒ちゃんの賄ランチ、

え~と…700円でいいかな?

黒ちゃん、700円で平気?」


ぼちぼち~と返事が返ってきた。

よし、あ、どんなメニューか聞いてこなきゃ。



私は黒板を持って三階に上がる。


二度ノックする。


「失礼します。本日限定で特化のランチをご用意できるのですが、

ご注文されるお客様はいらっしゃいますでしょうか?」


「どんなランチですか?」


よし来た!


「当店一のシェフが作る、普段は夜営業の常連に、

しかも気まぐれでしか提供していない幻の賄丼です。

普段1200円のところ…今日だけ大サービスの700円で提供します。

そして、ランチメニューとして副菜もお付けします!」


黒板をテーブルに置く。


「あ、じゃあ私頼もうかしら」

「あ、私もください」


よし!


「ありがとうございます。

提供に少々お時間かかってしまいますが、お待ちください」


この調子で残りの部屋も回ろう!



特別とか特価という言葉に弱いのだろう。

勿論私も弱い。


半解凍された食材も使い切り、急場を凌いだ。

それにしても、主婦はランチを食べてくれるんだな。


「いや~一時はどうなるかと思ったぜ。

誰だよコンセント抜いたの」


あれ?

昨日酔って…この店寄ったんだ。

何かに躓いてなんか厨房で倒しちゃって…


「だだだけど、木曜日としては過去一の売り上げになるんじゃないかしら?」


言わないでおこっと。


この日のピンチが風向きを変え、

思わぬ方向に転がったという事は、

まだ誰も知らない話だ。




がしゃーんと更衣室でなにかが起きた事を知らせる。


「あ…かおるちゃんまたやった?

おんちゃん見てきたほうがいいぜ?」


新しく雇った昼パートのかおるさんは、

おっとりした見た目、おっとりした喋り方、

言い方を選ばずに言うと、どんくさそうな主婦だ。


優しくコンコンとノックする。


「だ、大丈夫ですですかぁ?」

静かにゆっくりと扉を開ける。


「え、あ、ててて店長、ごめんなさいぃぃ」


彼女の横に外れたロッカーの扉が倒れている。

なにしたらこの扉取れるの?


「だ、大丈夫ですかかおるさん?怪我はないですか?」


足に落とした様子もないのでそこまで心配はしてない。


「わ、わたし昔から不器用なんですよぉ

今日も靴下左右間違えちゃってぇ恥ずかしくて恥ずかしくて…」


ドジ、というのかもしれない。

一昨日も子供に弁当持たせるの忘れたとか言ってたっけ。


しかし、そんな彼女にも人一倍できる事がある。


「店長ぉ、ソフトドリンクの発注量まとめておきましたぁ!」


とにかく物覚えも早ければ記憶力もずば抜けている。


「かおるさんありがとうございます。

また土曜日お待ちしてますね!お疲れ様です」


実に良い人材だ!

なんでこう、いい人ばかり集まるんだ竜宮城は!



たくさんのお客さんと、

たくさんの従業員がこの店の柱となり、

ここまでそびえ立って来たのだろう。


次の世代へバトンを繋ぐのは、私たちだ。







※

「現世もつらいね」から、

高校生になった?ヒカリ・テラス・ミツキの三人が来店してくれました。




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