第14客 昼カラはじめました
あと3日、
あと3日乗り切れば2日間休み…
みんなが、みんなが憂鬱に立ち向かいながら駅へ向ける足を、
家の窓から…眺めるのが至福なんだ。
ビールを飲みながらね…
よし!
「さあみんな!ゴールデンウィークもあと3日!
後半戦も予約は満席!頑張りましょう!」
稼ぐわよぉ!
幸いなことに連日満員御礼、
少しは休みにしても良いのでは…
葛藤しながらもなんとか耐え抜いた私たちは、
少し遅れたゴールデンウィークを満喫した。
休みの日以外にこんな時間に目覚ましをかけることはない。
真っ黒な軍団に紛れてアーケード街を歩いた。
「さてと、ちゃんとお客さん来てくれるかな?」
なんたって新サービスだ。
ゴールデンウィーク後の平日の昼間に来てくれるのだろうか?
生まれ変わった気がするこのお店のドアを開ける。
しかし目に映るのもので気分は元に戻る。
「ま、中身は何も変わってないしね~」
いつも通り3階から風を通した。
「さてと、マイクの充電漏れが無いかチェックしないとね」
閉店作業で一通り片づけはしたものの、
なんだろう。そわそわして確認せずにいられない。
全ての部屋を巡り、丸い椅子に腰をかけ、
カウンターに肘をつく。
「さすがに暇ね」
まだ8時だ、開店まで二時間もある。
すると奥から一人の男が歩いてきた。
「おい、おんちゃん早すぎない?」
「いや、まあ、なんか落ち着かなくて…」
そう言えば、新しい筆記用具を買ってもらった次の日は、
特に用もなく早く学校に行ったもんだ。
「んじゃ、仕入れ行ってくるわ」
「ほい~よろしく」
黒ちゃんはいつも通りの時間ね。
まあ彼の勤務内容は全く変わりがないからね。
触り慣れたデンモクを操作する。
「ん~お年寄りはどんな曲歌うんだろうなぁ
ちゃんと演歌とかこれ入ってんのかな?」
ろくに演歌歌手など知らないが、
おばあちゃんが好きだった塩麹マシュマロを検索してみた。
カウンターの奥の扉が開く。
「おはようございます」
「はろ~みなみ」
初日の勤務構成は社員で固めた。
あっという間に開店準備が終わる。
みなみは手慣れたように在庫を数え始めた。
9時45分、少し早いがお店のカギを開け、
カウンターの奥へと歩みを進める。
鈴の音が私の足を止めた。
き、来た!
「いらっしゃいませ!竜宮城へようこそ!」
お客様第一号は…!
「このお店、昼のカラオケ始めたんですね!
4人お願いします」
ド派手な服とパーマで身分証明。
そして杖を持ち、残りの余生を楽しむ方々…
とは正反対。
日傘を手に持ち、
明らかに主婦と見える4人組が来店してきた。
「きょ、今日から昼カラ始めました!
こちら料金表となります」
おじいちゃんおばあちゃんじゃなかった!
色々と不意を突かれたが、
お客様第一号という実感が湧き、
クラッカーでも打ちたくなる。
その後も、開店時間を待たずして訪れたのは、
6人のおじいちゃんおばあちゃんだった。
開店から1時間経過しないうちに、
満室状態となった。
…
おばあちゃん…ド平日に部屋が満室になったのなんて、
初めての事かもしれません!
両手を組み、目を閉じる。
ああ、ここで過ごした記憶が次々と蘇る。
「ま、ママ、大丈夫ですか!?お腹でも痛いんですか!?」
おのれ小娘、私の感動の涙を返しなさい。
新サービスを開始した初週は大満足の集客となる。
「あ~俺のまな板に冷食がぁぁぁ」
と嘆く黒川を横目に見ながら、
「市場から仕入れた魚だって凍ってるでしょうが」
「ど、どんな理屈だ!」
とド正論で黒川のプライドを蹴っ飛ばした。
だが、あてくし考案のサブスク加入者はまだ現れず、
地味に落ち込んだ。
簡単に上手く転がるのであれば、
世の中億万長者で溢れかえるよね。
そして迎えた土曜日、やはり疲労が拭われていないのか、
「乙姫さん…ごめんなさい…」
「大丈夫大丈夫、お客さんに風邪なんか移せないからね、
ゆっくり休んでちょうだい」
みなみは病欠となってしまった。
こうなるとやはりギリギリだ、
よかった、土日の昼カラオケは解禁しないで…
せかせかと無心になり注文をこなす。
ありがたいのか、寂しいのかはわからないが、
ノルマ達成ほどの極めて普通の土日の客入り状況。
「ふぅ~何とか乗り切ったわね」
客足も途絶えた日曜日の午後9時。
青い月曜日が近づいてくる。
「みんなありがとう、とりあえず仕入れもあるし、
黒ちゃんとゆずきとたくろうは上がって!
あとは里中君とみどりさんと私で何とかなるわ」
何とも言えない達成感に浸る。
お疲れ様~とみんなが帰っていく中、
黒川は疲れた~とカウンターに腰を掛け休んでいた。
鈴が来客を告げた。
「いらっしゃいませ~。あ、ターさんいらっしゃい!」
「お、たろうが来たなら、俺もたまには飲んでいこうかな、
疲れたし」
黒川とターさんは土砂災害の炊き出しの時に、
すっかり意気投合したらしい。
「んじゃ、おんちゃんビール二つ。
俺のは天引きしといて」
「ビール二つ、了解。
天引きの場合十一で利子が付くわよ?」
ジョッキに注いだビールを眺める。
ああ、私も飲みたい。
衝動を抑えつつ、ビールとお通しを出す。
配膳した時に、鼻が違和感を知らせる。
「あれ?なんかいぶされた匂いがターさんのほうから」
バーベキューか、一件目に焼鳥屋でも行ってきたのかな?
「ん?あ~今日昼間に火災があったでしょ?
消火してたんだ」
あれ?ターさん消防士だったっけ?
黒川が代弁してくれた。
「あ、そういえば消防団入ってるって言ってたっけ?」
あ、消防団のほうか。
どんだけ地域貢献が好きなんだターさんは。
ん?消防団…
「まあね、と言ってもまだ2,3年なんだけどね。
大河も入る?」
大河って…あ!黒ちゃん下の名前大河だ。忘れてた。
「いやいや、俺が入ったら店が回らないぜ」
「地域貢献してお金もすこし貰えるって、
結構いい気分になれるよ!準公務員」
お金も貰えるんだ。へぇ、
ただのボランティアじゃなかったんだね。
消防団とお金と言う言葉が、
脳裏で繋がった。
「ターさん!もしよければ消防団の宴会とか、
うち使わない?予算に合わせてセッティングできるよ!」
「お!おんちゃんナイスアイディア」
ターさんは目を見開いた。
「いいかもしれない!今度分団長に言ってみるよ」
ぶ、分団長ってなに?
「俺達もさ、なるべく地域貢献したくて、
お弁当とか宴会もなるべく個人店を選ぶようにしてるんだ」
ほほう。
「それはいい取り組みじゃん。
そういえば市役所の宴会とかもそうしてるって聞いたことあるな」
あーあれか、学校とかも地元の呉服屋使ったりするもんなぁ。
こうやって経済回るんだね。面白い。
「謎に潰れない呉服屋とか、町の電気屋の理由がわかったわ。
かく言う私たちも、お酒は酒屋さんから仕入れてるもんね」
そういえばとターさんは、
飲み干して言う。
「昼カラはどう?」
「おかげさまで順調な滑りだしよ。
でもやっぱりこのままのメンバー構成だとちょっと人手が足りないかな」
営業時間が6時間増える、
4日で24時間働く時間が増えると考えればそれはもう当然だ。
そして肝心のサブスク加入はまだゼロ人だ。
「コメントが難しいんだけど、働きすぎないようにね、乙姫ちゃん」
「複雑ね、複雑だけどありがとーターさん!」
「ん?俺にはないのか」
「大河は平気そうだもん」
それは言えてる。
「じゃあそんなターさんには、消防団の紹介料として、
賄い丼をサービスしますね!黒ちゃんの天引きで」
「やったー!ゴチで~す」
悪女!ボッタくり!など常連の前で言うなと、
黒川に言いつける乙姫だった。
翌週の昼カラも無事ノルマを達成と、
順風満帆すぎるスタート。
二週目にしてサブスク初会員となり、
№は4までカウントが進んだ。
「では皆さん夕礼を始めますが、
パートさんを二人雇う方向で決心しました。
もし知り合いとかがいれば紹介してください」
新たなサービスと新たなクルーで、
この竜宮城の歴史の一ページがまた積み重なることになった。




