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14/20

第14客 昼カラはじめました


あと3日、

あと3日乗り切れば2日間休み…


みんなが、みんなが憂鬱に立ち向かいながら駅へ向ける足を、

家の窓から…眺めるのが至福なんだ。

ビールを飲みながらね…

よし!


「さあみんな!ゴールデンウィークもあと3日!

後半戦も予約は満席!頑張りましょう!」


稼ぐわよぉ!


幸いなことに連日満員御礼、

少しは休みにしても良いのでは…


葛藤しながらもなんとか耐え抜いた私たちは、

少し遅れたゴールデンウィークを満喫した。



休みの日以外にこんな時間に目覚ましをかけることはない。

真っ黒な軍団に紛れてアーケード街を歩いた。


「さてと、ちゃんとお客さん来てくれるかな?」


なんたって新サービスだ。

ゴールデンウィーク後の平日の昼間に来てくれるのだろうか?


生まれ変わった気がするこのお店のドアを開ける。

しかし目に映るのもので気分は元に戻る。


「ま、中身は何も変わってないしね~」

いつも通り3階から風を通した。


「さてと、マイクの充電漏れが無いかチェックしないとね」


閉店作業で一通り片づけはしたものの、

なんだろう。そわそわして確認せずにいられない。


全ての部屋を巡り、丸い椅子に腰をかけ、

カウンターに肘をつく。


「さすがに暇ね」

まだ8時だ、開店まで二時間もある。


すると奥から一人の男が歩いてきた。


「おい、おんちゃん早すぎない?」

「いや、まあ、なんか落ち着かなくて…」


そう言えば、新しい筆記用具を買ってもらった次の日は、

特に用もなく早く学校に行ったもんだ。


「んじゃ、仕入れ行ってくるわ」

「ほい~よろしく」


黒ちゃんはいつも通りの時間ね。


まあ彼の勤務内容は全く変わりがないからね。



触り慣れたデンモクを操作する。


「ん~お年寄りはどんな曲歌うんだろうなぁ

ちゃんと演歌とかこれ入ってんのかな?」


ろくに演歌歌手など知らないが、

おばあちゃんが好きだった塩麹マシュマロを検索してみた。


カウンターの奥の扉が開く。


「おはようございます」

「はろ~みなみ」


初日の勤務構成は社員で固めた。



あっという間に開店準備が終わる。

みなみは手慣れたように在庫を数え始めた。


9時45分、少し早いがお店のカギを開け、

カウンターの奥へと歩みを進める。


鈴の音が私の足を止めた。

き、来た!


「いらっしゃいませ!竜宮城へようこそ!」


お客様第一号は…!


「このお店、昼のカラオケ始めたんですね!

4人お願いします」


ド派手な服とパーマで身分証明。

そして杖を持ち、残りの余生を楽しむ方々…


とは正反対。


日傘を手に持ち、

明らかに主婦と見える4人組が来店してきた。


「きょ、今日から昼カラ始めました!

こちら料金表となります」


おじいちゃんおばあちゃんじゃなかった!


色々と不意を突かれたが、

お客様第一号という実感が湧き、

クラッカーでも打ちたくなる。



その後も、開店時間を待たずして訪れたのは、

6人のおじいちゃんおばあちゃんだった。


開店から1時間経過しないうちに、

満室状態となった。


…

おばあちゃん…ド平日に部屋が満室になったのなんて、

初めての事かもしれません!


両手を組み、目を閉じる。

ああ、ここで過ごした記憶が次々と蘇る。


「ま、ママ、大丈夫ですか!?お腹でも痛いんですか!?」


おのれ小娘、私の感動の涙を返しなさい。





新サービスを開始した初週は大満足の集客となる。


「あ~俺のまな板に冷食がぁぁぁ」


と嘆く黒川を横目に見ながら、

「市場から仕入れた魚だって凍ってるでしょうが」

「ど、どんな理屈だ!」


とド正論で黒川のプライドを蹴っ飛ばした。


だが、あてくし考案のサブスク加入者はまだ現れず、

地味に落ち込んだ。


簡単に上手く転がるのであれば、

世の中億万長者で溢れかえるよね。


そして迎えた土曜日、やはり疲労が拭われていないのか、

「乙姫さん…ごめんなさい…」

「大丈夫大丈夫、お客さんに風邪なんか移せないからね、

ゆっくり休んでちょうだい」


みなみは病欠となってしまった。


こうなるとやはりギリギリだ、

よかった、土日の昼カラオケは解禁しないで…


せかせかと無心になり注文をこなす。


ありがたいのか、寂しいのかはわからないが、

ノルマ達成ほどの極めて普通の土日の客入り状況。


「ふぅ~何とか乗り切ったわね」


客足も途絶えた日曜日の午後9時。

青い月曜日が近づいてくる。


「みんなありがとう、とりあえず仕入れもあるし、

黒ちゃんとゆずきとたくろうは上がって!

あとは里中君とみどりさんと私で何とかなるわ」


何とも言えない達成感に浸る。


お疲れ様~とみんなが帰っていく中、

黒川は疲れた~とカウンターに腰を掛け休んでいた。


鈴が来客を告げた。


「いらっしゃいませ~。あ、ターさんいらっしゃい!」

「お、たろうが来たなら、俺もたまには飲んでいこうかな、

疲れたし」


黒川とターさんは土砂災害の炊き出しの時に、

すっかり意気投合したらしい。


「んじゃ、おんちゃんビール二つ。

俺のは天引きしといて」

「ビール二つ、了解。

天引きの場合十一で利子が付くわよ?」


ジョッキに注いだビールを眺める。

ああ、私も飲みたい。


衝動を抑えつつ、ビールとお通しを出す。

配膳した時に、鼻が違和感を知らせる。


「あれ?なんかいぶされた匂いがターさんのほうから」


バーベキューか、一件目に焼鳥屋でも行ってきたのかな?


「ん?あ~今日昼間に火災があったでしょ?

消火してたんだ」


あれ?ターさん消防士だったっけ?

黒川が代弁してくれた。


「あ、そういえば消防団入ってるって言ってたっけ?」


あ、消防団のほうか。

どんだけ地域貢献が好きなんだターさんは。

ん?消防団…


「まあね、と言ってもまだ2,3年なんだけどね。

大河も入る?」


大河って…あ!黒ちゃん下の名前大河だ。忘れてた。


「いやいや、俺が入ったら店が回らないぜ」

「地域貢献してお金もすこし貰えるって、

結構いい気分になれるよ!準公務員」


お金も貰えるんだ。へぇ、

ただのボランティアじゃなかったんだね。


消防団とお金と言う言葉が、

脳裏で繋がった。


「ターさん!もしよければ消防団の宴会とか、

うち使わない?予算に合わせてセッティングできるよ!」

「お!おんちゃんナイスアイディア」


ターさんは目を見開いた。


「いいかもしれない!今度分団長に言ってみるよ」


ぶ、分団長ってなに?


「俺達もさ、なるべく地域貢献したくて、

お弁当とか宴会もなるべく個人店を選ぶようにしてるんだ」


ほほう。


「それはいい取り組みじゃん。

そういえば市役所の宴会とかもそうしてるって聞いたことあるな」


あーあれか、学校とかも地元の呉服屋使ったりするもんなぁ。

こうやって経済回るんだね。面白い。


「謎に潰れない呉服屋とか、町の電気屋の理由がわかったわ。

かく言う私たちも、お酒は酒屋さんから仕入れてるもんね」


そういえばとターさんは、

飲み干して言う。


「昼カラはどう?」

「おかげさまで順調な滑りだしよ。

でもやっぱりこのままのメンバー構成だとちょっと人手が足りないかな」


営業時間が6時間増える、

4日で24時間働く時間が増えると考えればそれはもう当然だ。

そして肝心のサブスク加入はまだゼロ人だ。


「コメントが難しいんだけど、働きすぎないようにね、乙姫ちゃん」

「複雑ね、複雑だけどありがとーターさん!」


「ん?俺にはないのか」

「大河は平気そうだもん」


それは言えてる。


「じゃあそんなターさんには、消防団の紹介料として、

賄い丼をサービスしますね!黒ちゃんの天引きで」

「やったー!ゴチで~す」


悪女!ボッタくり!など常連の前で言うなと、

黒川に言いつける乙姫だった。



翌週の昼カラも無事ノルマを達成と、

順風満帆すぎるスタート。


二週目にしてサブスク初会員となり、

№は4までカウントが進んだ。


「では皆さん夕礼を始めますが、

パートさんを二人雇う方向で決心しました。

もし知り合いとかがいれば紹介してください」


新たなサービスと新たなクルーで、

この竜宮城の歴史の一ページがまた積み重なることになった。



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