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12/20

第12客 天災と炊き出し


風に押されてしなるシャッターがバシャバシャと私の眼を覚ます。


「あ~風か、強いなぁ」


シャッターを開けると、何事もなかったかのように光が差し込むが、

シャッターから滴る雨水で朝シャワー。


「うわー冷たい…シーツも濡れちった…」


まだ4月だというのに記録的豪雨は容赦なくこの列島を襲った。

今年の冬は雨量が少なく、列島の大地は乾ききっていた。


リモコンのボタンを押すなりニュースキャスターの声が、

今日初めて聞く人の声だ。


「え~昨晩降り続いた雨ですが、

田舎県田舎町に甚大な水害をもたらしました」


乾いた大地を潤し過ぎたのである。

雨量が少ない代償か、異常気象かはわからない。


私は黙ってスマホを操作し電話を掛ける。


「はろ~はに~」


…

「ぶっ飛ばすわよ」

お父さんが。


「ハイハイごめんって、どうされましたかお嬢様。

今日は仕入れ行かないよ」

「知っています。黒ちゃんテレビ見てる?」


電話の向こうでシャッターが開く音と、

バタバタと歩く音が聞こえた。


「今つけたぜ」


この反応は知らないか。

「すぐにニュースチャンネルに合わせて!」


スピーカーは振幅を止めたように、

急に静かになった。


「…やべえ…ばあちゃん平気か!?」


田舎県田舎町、彼のお母さんの生まれ故郷だ。


「ちょ!かけなおす!」

一方的に通話が途切れた。


…心配だ。

今日の行動は決まったも同然。


よし、まずはお店に行こう。

お店に向かっていると黒川にメッセージを入れる。



どこもかしこも水たまりだ。

今日中に乾くかわからない。


それほどこちらもで雨が降り続いた何よりの証拠だ。


大雨直後の時独特の磯の香りのような風を浴びながら、

お店の前で立ち止まる。


ぐるっと外観を一周見るが、

特に壊れている場所とかもないようだ。


一息ついて車のキーをお店のキーを金庫から出す。

なんと言うタイミングだ、スマホが鳴る。


「もしもしー」

「あ、おんちゃん、もう店?」


もちのろん。


「明日、1日付き合ってもらってもいい?」

「そのつもりよ、とりあえず迎えにいけばいい?」


返事を聞く前に車に乗り込む。


「わりーね!まだ市場は間に合うから、市場行こう」


ん~これが新車の匂いってやつね。


「ラジャ」


あ、スマホスタンド買っとくべきねと、

助手席に置いて車を走らせた。



黒川の住むアパート前に車を停める。

これ、駐禁切られたりしないよね?

と不安になれるのは私が被災していないからだろう。


コンコンとピカピカの窓をノックされる。

「わりーね、運転変わろうか?」


平気ですと、とっとと走り出した。


「ゲンさんと連絡とれたよ、手伝ってくれるって。

暇だからよって言ってた」


よかった、本当に助かる。


「お袋も行くって、だから明日は実家集合で」

「オーキドーク」


久しぶりだ。


「久々に行こうか」

「炊き出しね」


場所も場所だ。

行かない選択肢は取れない。


「あ、どうする?みなみちゃん声かける?」


人手は多い方がいい。

被災地では思わぬ人手が必要になる。


そうねと答えると黒川はスマホを操作する。


「あ、みなみちゃん?オレオレ、親戚のショウマ君です」


自称を君付けする間抜けな詐欺しなどいるか。


「黒川さん、それセクハラですか?」

「いやまて、良くないよこのご時世さ、

風評被害だ」


この男が非行に走らず、

女たらしのろくでもない人間に育たなかったのは、

きっと情熱をすべて料理とゲームに注ぎ込んで来たからだろう。


いうならば、私の父のお陰である。

せいぜい感謝しなさい。


「ごめんね出勤前に、ちょっとさ…」


かくかくしかじか、黒川は事情を説明する。


「みなみちゃん、ただのボランティアになっちゃうんだけど、

もしよければ明日手伝ってくれないかな?」


二つの返事が返ってきた。


OKということと、すぐ出勤しますという事、

本当にできの良い娘じゃ。


市場で炊き出し用の食材やカップを購入し、

お店に戻り、コンロやボンベを一通り準備した。



「今日は諸事情でお店を9時に閉めます。

まあ普通の火曜日なのでお客さんはそんなに来ないと思います」


今日は表はたくろう君とみなみに任せてみよう。


「じゃあたくろう君とみなみの二人で回してみて、

私と黒川さんとみどりさんは厨房で、

9時以降はお手伝いしてもらいます。解散」


明日何時出発かなぁ、

黒ちゃんに聞いておこっと。


「黒ちゃん、明日何時出発する?」

「あ~そうだな、時間決めてなかった」


田舎町までは1時間半ぐらいだったかな?


「被災して途中通れない道もあるかもしれないし、

一応二時間半見ておくか、ばあちゃん家の近くの公民館でやる」


炊き出しは公民館や学校などの、

避難所で行うことが大半だ。


うちもキッチンカーがあればもっと自由にできるかもしれない。


でも移動販売するほどのコンセプトは無い。


あ、移動型カラオケなんて…。

いやないない、それは無いわね。


「九時から配給するから…七時にはお店広げておきたいわね」


となると4時半出発か…。

とほほ。


でもこういう時ってなんかテンション上がっちゃうんだよね。


「黒川さん、ゲンさん来ましたよ」


お、きたきた。


裏口から私と黒川は表に行く。


「ゲンさん、助かったよ。本当にありがとう」

「構わねぇ、俺は暇だからよ」


炊き出しの時だけでなく、

ゲンさんは色んな事も手伝ってくれる。


祖父母が作ったネットワークは、

なんとしても大切にしていきたい。


「じゃあいつも通り、ゲンさんのミニバンには、

道具類積ませて貰おうかしら」


勝手にドアを開けて積み込む。

あれ?私ずうずうしい!?


「ん!ボンベ重い…」

頑張れあたし!まだ20代!


すると後ろから声をかけられた。


「あれ?皆さんどうしたの?

あ!乙姫ちゃん手伝うよ!」


男手キター!


「ああああターさんいらっしゃい。よっこらしょ」


積載オーバー…ほどは重くないか!


「ターさんごめんね?今日は9時までなの」

「そうなんだ、なんかあったの?」


実は…と炊き出しに行くことを伝えた。


あれ?ターさんってたしか…

ボランティアによく参加するって言ってたっけ??


「ターさん、もし明日予定開いていれば、一緒にいきます?」

「あ、お邪魔しちゃっても大丈夫ですか?

今月のシフトはちょうど水曜日休みなんですよ」


とんとん拍子に話が進んで、

ゲンさんの車には、ゲンさんとターさんとみなみと私。

常連さん号となる。


竜宮城号には黒ちゃんと黒ちゃんママと食材が乗る。


実に良いチームだ。

ゲンさんが車出してくれて本当に良かった。



ちゃちゃっとお店を締めて、炊き出しの仕込みもして、

私は年頃の娘のみなみを我が家に連れ帰る。


「お、乙姫さん、こんな広いおうちに一人で住んでるんですか!?」


まあね。


「おじいちゃんとおばあちゃんは亡くなってしまったし、

パパとママはイタリアに行っちゃったし、お姉ちゃんはどこほっつき歩いてるんだか」


最初は落ち着かなかったけど、

住めば都。


「まあリビングと自分の部屋しかほぼ使ってないけどね」


いつでも泊まりに来ていいよと付け加えておいた。



疲れているのに、眠いのに、

早く起きなければいけないという時ほど、

なぜだが寝れない。


私の心が幼いから?

なにか興奮しているから?


だが寝付けないでいるのは私だけではない。


「あの…聞いていいかわからないんですけど、

聞いてもいいですか?乙姫さん」

「うむ、苦しゅうない」


何だろう。お店の売り上げの事だろうか?


「乙姫さんと黒川さんって…つき…」

「ないない。そんな関係じゃないのよ」


そんなに距離感バグっているんだろうか。


「親戚…じゃないんですよね?」


親戚ではないけど、家族ぐるみだ。

なんならお風呂だって一緒に入ったことも何度もある。


「ん~まあそうね、血は繋がってはいないけど、

黒ちゃんは私の弟って感じだね」


「え!?弟??ん~そう言われてみると、

敷かれていますね」


敷かれている言うな。


「でも、お似合いだと思いますよ二人は」


こんなこと言われるのはお互い慣れっこだ。


「そう映るかもわからんけども、

私と黒ちゃんに至ってはそれは無いのよ。ホントに」


無理とかではない。

考えられないのだ。


「なんか不思議ですね。でも悪い人じゃないってのはわかります。

なんでモテないんですかね?」


彼が結婚したら、きっと私は…。

家族総出で結婚式に参列するだろう。


「まあ、あの人料理とゲーム以外に興味ないからね。

あれ?もしかしてみなみ、黒ちゃんのこ…」

「ないです。私恋人いますから」


まじ!?初耳なんだけど。


「では、おやすみなさい」


え?

ちょっと!そんなこと言い残して寝るなんて!


明日ぜ~ったい聞こう。




まだ太陽も出ていない中、

私たちは集合し田舎町まで向かった。


道中通れない道もあり一時間とまでは言わないまでも

通常より30分ほど遅れて到着した。



誰もが俯いて列に並ぶ。

その姿に生を感じないという表現が合うのだろうか。


「はい、こちら豚汁です」


子供の手を握る女性に渡す。


目線で追いかけていると、

二人は駐車場の車止めに腰をかける。


「熱いからふーふーしてね」

母が子に容器を渡した。


「ママ、あったかいね!」

と子供がこぼした笑みは、

この晴れ空の太陽よりも、明るかった。



隣の列を見ると、

ターさんの声が聞こえてきた。


「はい、カレー二つね。ちょっと待ってね」


ズボンが二色になっている人、

髪の毛がてっかてかの人、

目の焦点が合わない人、

様々な人が配給に並ぶ。


それでも暖かい物を口にした瞬間だけは、

みんな少しだけ人の顔に戻る。


その表情は、きっとみんなの胸に刻まれただろう。



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