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11/20

第11客 布石


馴染みのある顔が、

二人の客人を連れてきた。


「いらっしゃい、ターさん…あ!

お友達の方連れてきてくれたんですね!」


前にお願い!お友達連れてきて!

と正直に言った甲斐があった。


「桃太郎と、金時です」


どうもと二人はお辞儀をする。


「ももさんに、きんさん、いらっしゃいませ。

どうする個室にする?」


「いや、カウンターでいいよ。

配膳も大変でしょ?」


「めっちゃ助かる!ささ、どうぞこちらへ」


二人はターさんを挟む形で着席をした。


「たろう、料理は君に任せた。僕はビールで」


ももさんはおしぼりで手をふく。

なんと右の手の甲には十字のアザがある。


「も、ももさん、その手の傷ってどうしたの?」


ああ、と ももさんは答える。


「なんかね、産まれた時からこうなっていたらしい。

じい様とばあ様がそう言っていたよ」


傷じゃ無くてあざなのかしら?


「きんたろう、このお店の特色と、

おススメメニューを教えて」


きんさんは、カバンから人形のような…

いやそれロボット!?


「カラオケ居酒屋竜宮城…検索します。

3代続く老舗で、コンセプトは楽しく美味しく。

おススメメニューは魚料理、そして本格的な割烹料理です」


喋った!なにこれどうなってんの!?


「ありがとうきんたろう。どうしよう…じゃあ…

俺もたろう君に任せた」


ロボットがテクテクとこちらに振り向いた。


「お姉さん、まこと失礼しかまつる質問ですが、

鉱物オイルは取り扱っていますでしょうか」


こ、鉱物オイルって!?


「なにバカな質問しているんだきんたろう。

居酒屋にあるわけないだろ!」


「そうですね、大変失礼いたしました。

いや失敬失敬」


何なのだこの変なロボットは…


「ご、ごめんなさいね、俺が開発したAIなんだ。

こんなに小さくても、途轍もない馬力を持ったロボットで、

車をどかすくらいなら出来るんだ」


それはすごい。

車って…1000kgぐらいありそうだもの。


「乙姫ちゃん、ごめんね。

注文なんだけど、ビール3つと、刺盛りと…」


ターさんのお気に入りメニューを振舞うようだ。

よし、黒ちゃんにサービス提供してって言っておこ。



お酒が進むにつれて、箸も進む、

そして口も先走る。


「たろう…料理すごい美味しい…」


あらももさん、良いこと言ってくれる。

その横できんさんもうなずいてくれた。


「こんないい店、もっと早く紹介してくれよ!」


そうだそうだと、きんたろうがスピーカーからヤジを指す。


「あ、いや、なんか自分の隠れ家的なね、

そう言う優越感があったんだよね」


その気持ちはわかる。

黒ちゃんの賄は私たちだけの特権。


「この景観もよい…エモーショナルだ」


…あれ?きんさんってお酒入ると人が変わるタイプかしら。


「でしょ?それも良いんだよね。秘密のお店って感じで」


そう思われていたとは知らなかった。


「いやでも、うちは結構ボロだからねぇ

若い子は入りづらいのかなって」


やはり改装したいが、

それができるだけの余裕な貯えがない。


「いやいや、これはこれでいいと僕は思う。

レトロってやつだな」


レトロ…なるほど。

ももさん、めっちゃ良いこと言ってくれる。


「そうそれ、レトロ!

それを売りにすれば結構若い人も来てくれるんじゃないかな?」


常連のターさんに言われてしまっては、

うちももう少しお店のコンセプトを明確化したほうがいいのかな。


「ああ、この料理…うちの仲間たちに持って帰りたい」


お持ち帰りか。


「そしたら、タッパーに詰めましょうか?」

「待て待て!動物にこんなの食べさせてはダメだろ!」


え?動物??


「たろう君、僕の手下を動物呼ばわりしないでくれ」


仲間ってさっき聞こえた気がしたけど…


「猿は別として、犬とキジは絶対にダメだろう。

きんたろう、猿、犬、キジの食べてもいい物を教えてくれ」


なんだか賑やかな人たちだ。

ターさんにこんな友人がいたとは驚いたな。



その後はカラオケ席に移動して、

閉店時間ギリギリまで宴を楽しまれた。



「あ~楽しかった。たろう君、僕もこの店来て良い?」

「あ、俺も来ようかな、な、きんたろうも楽しかっただろ?」


おおおおお!

リピーターゲット!

ナイスだターさん!

今度、黒ちゃんの一品ものサービスしちゃおう。


三太郎は肩を組みながらお店から出ていった。



時は満ちた。


8人全員が揃うこの瞬間、

客入りも良くない、いつもの金曜日。


私は7人から囲れ、逃げられない。


「それでは、全体ミーティングを始めます…

みなみ、この書をみなへ…」

「はっ」


彼女に託した紙は、1枚1枚手渡しで全員に配られた。


「我らが心のふるさと、

竜宮城の新たなサービスについて、

みなの意見を聞きたい」


黒川がすっと立ち上がる。


「いや、暗すぎんだろ!」

パチッと部屋の電気をつけた。


急激に光を吸収し、みんなの目が少し細くなる。

うえ、まぶし…と当の本人の口から洩れてしまったのは内緒だ。


「いやさ?なんかシリアスな雰囲気出るかなぁと思ってさ」

「いや、正直どうかと思います…」


相変わらずドライなんだから、みなみ!

でも事実プリントは全く見えなかった。


「このお店で、新たなサービス、

昼カラをやりたいと思っているの」


喝采はない。

唐突すぎるからね。


「今のところ平日限定、ターゲットはご敬老の方たち。

でもただやろうっていうのでは、正直うまみが少ない」


おっとその前にやりたい経緯ね。


「そもそもやりたい理由として、

設備投資が必要ないことと、夜営業への延長に繋げたいことと、

総合的な集客に繋げたいって所かしら」


里中が手を上げる。

彼のいう事は皆目見当がつく。


「途中ですみません、料理の提供って

どうするんですか?」


「割り切る…昼と夜でメニューを変える。

昼は冷食も使うわ。パートだけで対応できるように」


「えっ」

とみどりが言う。


「乙姫ちゃん、それ黒川くんが許可するの?」


驚いた顔の里中もうなずく。

よくわかってらっしゃるみんな。


「そりゃもちろん反対…」

言わせないわ。


「黒川さんからの反対意見がでましたが、

そこは仕方がないかと同意済みです」


なんて、まだ話し合い中だけどね。


「話を戻すわね?とりあえず今すぐにできること、

カラオケ専門店との差別化をしたサービスをやりたい」


黒川もみなみも不思議そうに私を見つめる。

だって話してないからね。


「カラオケサブスクをやる!」


ぱちん!とみなみは手をたたく。


「なるほど!それは面白いかもしれません!

カラオケのサブスクサービスは聞いたことがない!」


黒川も。あーたしかにと相づちをうつ。


「ま、平日限定だけどね。

なので、シフト調整したいんですけど、

みなさん大丈夫でしょうか?」


学生の二人は難しい。

残る大人メンバーでやってみるしかない!


いいでしょうかとみなみは手を上げる。


「シフト調整は問題ないとは思いますが、

さすがに人手が足りていないと思います」


眠そうな顔からはっきりとズバッと言ってくる小娘だね。

そこが彼女のいいところなんだけどね。


「いいよみなみ、そういう意見はバンバン頂戴。

人を新たに雇う方向で考えていますが、

正直、初動を確認しないと踏み込むのは難しい」


「しかし…」


みなみのスイッチ入っちゃった。

この場で話を詰めるのはよくないよね。


「ストップみなみ、一旦話し終わってから意見ください」


彼女が言いたいのは、

あんなが減った分人を雇える余裕があるってことだろう。


月、火、木のシフト調整は何ら問題はない。

そんなにお客さんも来ないだろうから人員増やすだけで済む。


金曜日の夜の客の流動数は読みようがない。


時間帯、年齢、グループのデータをレジで取っているが、

規則性がないし、天候によってもわからない。


そして、人員増に即決できるほど、

相変わらず売り上げに余裕がない。


「と言うわけで、初めの2週間は、何とか気合で乗り切りましょう

申し訳ありませんが、力を貸してください…解散!」



スタッフルームの丸椅子に座り、

腕を組み背もたれが悲鳴を上げる。


「ん~どうすっぺ」


天井のシミを数える。

ああ、いずれはきれいにしてあげたいわね。


ふと、天井から声が落ちてきた。

いや、そんな訳がない。


「乙姫、ちょっといい?」


急いで姿勢を正し、振り返る。


「あやさん、どうしました?」


パートのあやからの相談事は珍しい。


「昼カラオケの話なんだけど、

わたし平日ならできれば昼勤専属になりたくて…」


お、シフトの相談か。


「そうなんですか、

もし差し支えなければ理由を聞いてもいいですか?」


あやさんも古株だ。

3代目の創業メンバーでもある。


「あ、ほら私まだ子供が小さいじゃん?

幼稚園のお迎えの都合がいいのよ」


子供…か、

いやそれよりも今は…まあ平日なら問題ないか。


「確かにお子さんがいると、

18時30分からラストまでより、昼のほうがいいですよね」


旦那さんの仕事の都合でたまに遅刻もあるし、

という事は昼間のパート需要ってかなり高いってことか。


「すみません検討させてください。

ただ、月火木ならご希望には添えると思います」


ただ、古株のあやさんの時給を下げるわけにはいかない。

募集ではちゃんと昼夜で時給を変えましょ。



サービス開始後は流動を見るしかない。

流動を見てから募集を募る。


よし、後はなるはやでこれを…


コンコンとノックの音が響く。

扉は開いてるんだけどね。


「おんちゃん、俺達帰るぜ~」

「はいはーいお疲れ様。気を付けてね」


わ!

もう0時過ぎたのか!

しかし帰っている暇もない。

幸い明日は休みだ。


「おんちゃん、明日納車だけど忘れてないよな?」


あ!

「忘れてた…あぶな!」


たのむぜおい~と黒川は帰っていった。







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