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最終話-2ご令嬢が見た夢

服と靴の発注をして時が経ち、完成したものがセナのところへ届いた。

セナはベイズに手伝ってもらい、早速届いたワンピースを身に着けた。


着替え終わり、セナは大きな姿鏡に自分の姿を映した。まずは、自分の年相応の落ち着いたデザインのものを着てみた。


「はああ…!すてきですセナ様…!」


ベイズが頬に手を添えて、うっとりとした様子でそう褒める。セナはそんなベイズを見て、嬉しくて頬を赤くする。

たしかに、自分で言うのもなんだがよく似合っていた。落ち着いた色とデザインが、自分の容姿によく馴染んでいて、自分の良さをよく引き立ててくれているように感じる。


「へえ、似合うじゃん!」


着替え終わったのに気がついたのか、ラビが覗きに来た。ラビは新しい衣装を着たセナを見て、うんうん、と頷く。


「よく似合ってるよ。セナ様のくせに」

「…くせにとは」


セナはそう言ってから笑う。ベイズが、楽しみですね、と両手を合わせて微笑んだ。


「これを着て陛下とデートだなんて…!」

「(で、でででデート?!)」

「あれ、もう一着作ったんじゃなかった?」


ラビが首を傾げる。セナは、ふふん、と鼻を鳴らす。


「もちろん。こっちは私の夢の集大成よ」

「…夢の集大成?」

「ああ!楽しみ!」


セナはそう、胸を躍らせながらベイズと共に着替えに向かった。






「こ…これは…」


セナは、鏡に映った自分に絶句する。自分の夢を詰め込んだふりふりひらひらのワンピースは、絶望的に自分に似合っていなかった。

さすがのベイズも、感想に困っている。ベイズを困らせていることに罪悪感を抱いていると、ラビがひょこっとやってきた。


「あ、着てみたんだ……。え、変」


ラビにばっさりと切り捨ててもらったことで、なぜか救われた気がしたセナだった。


「変だよセナ、本当に似合ってないよ」

「…ええ、今深く身にしみてる…」

「こういう服はもっと甘い顔立ちじゃないと…、ベイズみたいな」


ラビに急に振られて、ええ?とベイズは目を丸くする。セナは、うん…、と考え込む。


「ベイズ、1回これ着てみて」

「えっ、ええ?わ、私がですか?そ、そんなの恐れ多いです…!陛下からセナ様への贈り物なのに…」

「お願いベイズ!私にとりついた悪霊への鎮魂だと思って…」

「え、ええ…?」


セナは困惑するベイズを無理やり連れ込み、自分が着ていた夢のドレスを彼女に着せた。


「お、おお…」


セナは、自分の着たかったドレスを見事に着こなすベイズを見つめる。ベイズは恥ずかしそうに頬を赤くすると、ど、どうでしょう…、とはにかんだ。


「可愛い。めちゃんくちゃに可愛い!」


セナはつい心からの声が漏れる。褒められると思っていなかったらしいベイズは驚いて目を丸くすると、そ、そんなに見ないでください…、と恥ずかしそうに目を伏せた。


「うん、ベイズにはよく似合ってるよ。セナ様、こればっかりは仕方がないよ。どちらのほうが顔が整ってるとかそういう話ではなくて、顔の系統の問題だから。この服たぶん、セナ様がもっと幼かったとしても似合ってなかったと思うよ」


ラビがズバリと言う。それが胸に刺さるがしかし、セナはそのとどめをいつか誰かに刺してほしかったようにも思った。


「(…自分が着たくて仕方がなかった服を着る別の人を、褒められた。似合うことを素直に喜べた)」


セナは、ベイズを見つめながら、そう嬉しく思う。大好きな彼女に対してだからできたことかもしれないけれど、これで一歩、人を羨んで恨む人生から解放されるための道のりを歩けたような気がした。


「…この服、ベイズにもらってもらおうかな」


セナが言うと、ベイズは、えええ?!と目を丸くした。


「い、いけません…!陛下からセナ様への贈り物なのに…!それにこんな上等なもの、下働きの私なんかにはもったいないです…!」

「まあ、服的にはベイズに着てもらったほうがいいんだろうけど、倫理的にどうなんだろう?」


ラビがジト目でセナを見る。セナは、う、と言葉に詰まる。


「…まあ、陛下ならいいよって言いそうじゃない?」

「そりゃそうおっしゃるだろうけどさ、人の好意を踏みにじってない?」

「こ、これは私に取り憑いた悪霊への鎮魂だから!ベイズに着てもらうことで浄化されるから…!」


セナはベイズの方を見て、そして、いつもよりさらに綺麗な彼女に微笑む。


「私から陛下に頼んでくるから、この服はベイズに着てほしいな。お友達や恋人と素敵なところへお出かけするときに、着てくれたらうれしい」


セナは、ベイズの手を握ってそう頼む。ベイズは非常に困惑した後、い、いいんでしょうか…、としどろもどろになる。セナは、もちろん!と目を輝かせる。ベイズは困惑しながらも、しかし最後には嬉しそうにはにかんで、ありがとうございます、と返した。そんな彼女を見て、セナは嬉しくてつられるように笑った。















夕方、公務を終えたフェンリルが部屋にいるという情報をラビから仕入れたセナは、恐る恐る彼の部屋に向かった。


「どうしたんだ?」


執事に入れてもらったお茶を飲みながら読書をしていたらしいフェンリルは、セナの登場に少し驚いた顔をした。


「あの、えっと…」

「とりあえず座るといい」


フェンリルはそう言って、自分の隣に座るように促した。セナは一瞬緊張が走った後、ぎこちなく隣に座った。


「その、前に作っていただいたお洋服が届きました。ありがとうございました」

「ああ、もう届いたのか」


フェンリルは目を細める。セナはおずおずと、その、と呟く。


「一着は、私の夢を詰め込んだんです」

「夢?」

「ずっと着たかったけど、そんな若い女性が着るようなものはおかしいって言われて、ずっと着られなかったものです」

「なら、これからは存分に着たら良い」

「それがその…全く似合わなくて」

「似合わなくても構わないだろ。人にどう思われるかだけが重要じゃない」

「それがその、自分でも歪だって思うくらい変で。…もう着るのも恐ろしいくらい」


セナの言葉に、なんだそれは、とフェンリルは小さく笑う。セナはそんな彼を見つめて、そうしたら、と話を続けた。


「そうしたらそれが、ベイズにはよく似合ったんだす」

「ベイズに?」

「…これまでだったら、他の人が自由に私の着たかった服を着ているのを見て恨めしかったのに、彼女だったらそうは思わなかった。彼女だからかもしれないんですけど、それでも、これから私、人をうらやんでばかりの人生をやめられるんじゃないかって、思ったんです」


そう言ったセナの目を、フェンリルは真っ直ぐに見つめた。そしてゆっくりと、そうか、と優しい顔で言った。


「それでその、その服、せっかく作ってくださったのに申し訳ないんですが、ベイズにあげてもいいですか?」

「ああ、君の好きにしたらいい」


フェンリルはそう返す。セナはその返事にほっと安心する、がしかし、すこしの罪悪感に苛まれる。


「も、もう一着の方はとてもよく似合ってました、とっても!」


セナは、そうやけに元気に言う。フェンリルは、そうか、と微笑む。


「それは、出かけるのが楽しみだな。ところで、どこに行きたいんだ?」


フェンリルはセナに尋ねる。セナは、うん…、と考える。


「…お花の綺麗なところ…」

「花?」

「景色のきれいなところがいいです」


セナがそう言うと、わかった、とフェンリルは優しく返した。


「それでは、失礼します」

「もう帰るのか?」


立ち上がろうとしたセナに、そうフェンリルが話しかける。セナは、え?と首を傾げる。フェンリルはそんなセナを見つめて微笑む。


「今日はあまり緊張していないな」

「あ…」


ベイズにあのワンピースを渡してもいいか、ということを聞くことに一生懸命だったため、そこまで意識がまわらなかったことにセナは気がつく。セナは、ほ、ほんとうですね…、と苦笑いした。すると、セナの頬に手を添えたフェンリルが、そっとキスをした。

セナは目を丸くしながらそれを受ける。フェンリルは何度もセナにキスをしながら、ゆっくり彼女を押し倒す。

セナは自分を組み敷くフェンリルを見上げる。フェンリルはセナを見つめて首を傾げる。


「…今日はいつもみたいに嫌がらないんだな」

「え?それは…、」


セナは目を伏せて口ごもる。フェンリルに見つめられることでどんどん頬が赤くなる。フェンリルはそんなセナを愛おしそうに見つめながら、頬に手を添え、顔にかかった髪を優しくどかす。


「それは…、私は献上されてきた身ですから…」

「…うん?」

「私には何も言えません…」


セナの言葉に、フェンリルは一時停止する。


「(…今更、それを君が言うのか…?)…つまり、このまま続けても構わないのか?」

「…陛下におまかせします…」


そう言ってから、セナは羞恥心から両手で顔を覆った。


「(…だ、だめだ、は、恥ずかしい…!本当にこのまま事が進んだらどうするつもりなの私…!いや、どうもしようがないけれども…)」

「…ま、待ってくれ、それでは俺が悪者みたいじゃないか」


フェンリルはセナを押し倒した体勢から慌てて起き上がる。セナは、倒された体勢のまま、え?と首を傾げる。


「いや、え?じゃない。これではまるで俺が悪者だ。君に立場を利用して無理強いをしているみたいだ」

「(…散々襲いかかってきた人が今更それをいう…?まああれは、番になったほうが私のためと思っていたからか…)…でも陛下、いつも私の所有権は自分にあるって…」


セナは体を起こしながらそう尋ねる。それを聞いたフェンリルはまた一時停止する。セナはそんな彼を心配そうに見つめる。


「…陛下?」

「…それはそうだ」


フェンリルはそう言うと、セナを抱きかかえて、彼女を自分のベットの上に運んだ。そして、彼女をまた押し倒した。セナはフェンリルは、自分が組み敷く彼女をじっと見つめた。


「…前に、花がどうとか言っていなかったか?」

「え、え?」

「こういう時は花が咲いてないと…、とか」

「え?あ、あれはイメージの話で…」

「それと他にもなにか言ってなかったか?」


フェンリルはそう言って、セナの上からどくと考え出した。セナは困惑しながらも彼の隣りに座る。


「(…前に私のややこしい夢の話をしちゃったから悩ませちゃった…)」

「…今日は適切ではない。やめておこう…」


フェンリルはそう言うと、考えすぎて疲れたのかベットに横になった。セナは、隣で寝転がるフェンリルを見つめる。


「(…私のために、色々考えてくれてる…)」


そう気がついた時、セナは胸がきゅっと締まるのを感じた。切なさからではない。高鳴るような胸のときめきからだ。この人は自分の事が好き。そう意識すると、どんどん心臓の鼓動が速くなる。


「(…こ、これが所謂゛きゅん゛というもの…)」


セナは胸に手を当てて、昂る感情から唇を噛みしめる。フェンリルはセナの方を見上げると、どうした、と尋ねた。そんな彼を見つめて、いえ、とセナは頭を軽く振る。


「(…好きだと言われたからときめく、というのはあまりにも単純すぎるだろうか…)」

「どうした?」


フェンリルは起き上がると、考え込むセナの頬に触れた。自分の方に優しく、そして心配したような顔を向ける彼に、セナの瞳が揺れる。


「(…こんなふうに誰かに心配してもらったこと、今まで一度もなかったな…)」


外が恐ろしいからと自分を閉じ込めた両親は、ただただ自分を利用しようとしていただけで。表面上は優しく振る舞ってくれていた他の人達も、裏では自分のことを嘲笑っていて。


「(思えば最初からずっと、この人は私のことを考えてくれていたな…)」


価値観の相違はあれど、目の前の人はいつも自分のことを考えてくれていた。この人を好きになる理由などそれで十分すぎるし、そもそも人を好きになることに理由なんか必要ないのだ。


「…お出かけが、とっても楽しみだと思って」


セナはそう言って微笑む。そんなセナに、つられるようにフェンリルは笑う。


「期待しておいてくれ」

「はい!」


セナは心からの笑顔が溢れる。すると、目を丸くしたフェンリルの頭にふわふわの耳が出現した。


「(あ、あっ!!)」


セナは目ざとくそれに察知すると、ふたつのもふもふを凝視する。フェンリルは慌てた様子で頭をかくと、それらを戻してしまった。


「(…だからなぜしまう…っ!)」

「…夕食の時間だな。一緒に取ろう」


フェンリルは柄になくいそいそとベットから立ち上がる。セナはその背中を眺めながら、はい、と頷いた。

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