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7-3ご令嬢は迷走中

「ヴァーリが、謹慎?」


あの騒ぎがあった翌日、ベイズに準備してもらった朝食を食べるセナは、ラビからの報告に目を丸くした。ラビは、うん、と頷いた。


「1日であれだけ騒ぎを起こして、未遂とは言え陛下に手をあげようとしたからね。…これまでの行いもあるけど」

「謹慎…、って、具体的にどうなるの?」

「しばらく自室で軟禁状態になるみたい。まあ、それだけで済むのなら御の字じゃない?過去の行いや直近やらかしたことを考えれば、もっと重い罰が下されてもおかしくなかったと思うよ」


ラビは、呆れたようにため息をつく。セナは、部屋に…、と呟く。


「(…部屋に長い間閉じ込められるなんて、…きっと辛いだろうな…)」


過去の自分の経験から、セナはヴァーリを気の毒に思う。がしかし、彼のしてきた非道な行為を思い出して、そんな気持ちはすぐに消え失せる。


「(…レティにあんなひどいことして。しかも昔、フェンリルに毒を持ってるんでしょ?…可哀想なんて思うほうがどうかしてるか…)」


セナは熱い紅茶にゆっくり口をつける。窓の外を見て、今日も天気がいいことを確認する。


「(…皇帝陛下に暴力を振るおうとしたことでこんな大ごとになるのなら、ナイフで刺そうとした私も本来裁かれるべきなわけか…)」


はたとそんなことを思い出し、セナは、ぐ、と胸を詰まらせる。


「(…さんざんあんな態度を取って、それでもお咎めなしなのは、陛下が私に好意を抱いているからか…)」


セナは頭を抱えたくなる。彼の勘違いだということが非常に困惑すべき点なのである。


「(…あの人が、最低最悪な男だったらここまで悩まかったかもしれない…)」


セナは頭痛すらしてきた頭に眉をひそめる。彼は間違いなく、好きになった相手にはとことん優しいのだ。冷たそうで、自分の意見を押し通すように見えて、セナが嫌がれば行動をやめるし、セナを大切にしようとしている気概が痛いほど感じられる。だからこそ厄介なのだ。


「(ああああ…、羨ましい…あの人の本物の想い人が羨ましい…)」

「セナ様、どうかなされましたか?」


心配そうなベイズと目が合って、セナは慌てて、何でもないの、と微笑む。

ラビは腕を組むと、とにかく、と言った。


「ヴァーリ殿下は、セナを使ってフェンリル陛下に嫌がらせをしようとしているところもあったから、これでセナは安心なんじゃない?こんな事になって、もう君に何かしようとなんかしないでしょう」


よかったね、とラビはセナに言う。セナは、え…、と声を漏らす。それにさ、とラビはため息をついた。


「粗暴でやたら偉そうだったし、皆彼を嫌ってたから、これで多少大人しくなると思ったら安心するね」

「え、あ、嫌われてたの?」

「当たり前じゃん、わかんない?」


ラビが耳をぴくぴくと動かして、眉をひそめて言う。セナは、内部事情ではよくわからないよ…、と呟く。


「(……嫌われているあの人の番にしてもらったら…)」


セナははたとそんな事を考えつく。


「(そうしたら流石の流石に、問題になるのでは?フェンリルだって、何とも思わずにはいられないでしょう)」


あれほどの好意を見せてきた相手に裏切られれば、これまで何をしてもセナを責めなかった彼も、黙ってはいないだろう。怒った彼がセナを処罰するなり国に送り返すなりした後に、セナが彼の想い人ではないということを明かせば、彼がこの件で傷つくことはない。セナも彼に対して罪悪感を抱かなくていい。


「(これは…、この案しかないのでは…?!)」

「セナ様、紅茶のおかわりはいかがですか?」

「あっ、ありがとう…」

「……」


ベイズにおかわりの紅茶を注いでもらうセナを、ジト目でラビが見つめる。セナはそんな彼に首を傾げる。


「どうかした?」

「…ねえセナ、なーんか悪巧みしていない?」

「あっ、えっ?!」

「顔に出てるよ。どんなよからぬことを企んでいるわけ?」

「た、企んでないわよ、やめてよもう!」


セナは背中に冷や汗をかきながら笑ってごまかした。












「(…いや、冷静になったほうがいい…)」


セナはソファーに深く腰掛けて腕を組み、深呼吸を繰り返した。


「(あの乱暴で野蛮な男の番になる?…いや、番という関係は長続きはしないだろうからいいとして、番になるための、その、いわゆるそういう行為を彼としなくてはならないのよ?できるの?そんなことが??)」


セナは、はっとして、両手で自分の体を抱きしめる。


「いや、無理、無理無理無理…!」


体中に鳥肌を立てながら、セナは頭を何度も横に振る。


「(何を馬鹿なことを考えていたんだか…)」


セナは頬杖をついてため息を吐いた。窓の外をぼんやりと眺めながら、セナは遠くの祖国のことを考える。


「(…大きな家の庭に、犬を走らせて、幸せそうなお父様お母様…。素敵なお家に嫁いだアナスタシア様…。子宝にも恵まれたアレックス……)」


その姿を思い浮かべると、セナの額に青筋ができる。握りこぶしを固くして、鼻でふんと息をする。


「(…いえ、復讐よ。彼らには目に物を見せてやらなくては駄目。このまま野放しに幸せにさせてはおけない…!)」


セナはその瞳に闘志を燃やす。がしかし、その方法がわからない。何をしても上手くいかず、思うようにいかない。ああ…、と項垂れた時、セナはふと、ヴァーリのことを思い浮かべた。


「…彼に頼むしかない…?」


ヴァーリも、フェンリルに復讐したいという気持ちがあるはずで、セナを彼への嫌がらせのために番にする意味はある。セナが話を持ちかければ乗るかもしれない。

セナはヴァーリの顔や姿を思い浮かべる、大きな体に無愛想な顔。乱暴な口調に行動。セナは思い出すだけで体が震える。


「(…ああもう、なぜ私はそんなことをしようとしているの?!ああ、ああ…)」


セナは頭を抱える。ヴァーリへの嫌悪感もすごいし、祖国への憎しみも溢れんばかりにある。


「(…そもそも、私、なぜこんな選択肢しかないんだろう…)」


セナは虚ろな目でそんなことを考える。本当ならば、普通に過ごしたいのだ。普通に暮らして、普通に恋をして、普通に生きていきたい。それなのになぜ今、こんな究極の二択に頭を悩ませなくてはいけないのか。

セナは頭痛がさらにひどくなって、眉をひそめた。


その時、ノックの後扉が開いた。入ってきたのはラビで、手には封筒を持っていた。


「セナ、手紙だよ」

「手紙?」


セナはラビから封筒を受け取る。赤い蝋が、王国の紋章の形で付けられている。宛名はウィズだった。


「殿下…?」


セナはそう呟いて封を開けた。ラビが少し眉をひそめてその様子を見つめた後、じゃあ僕行くから、と部屋から出た。セナはその背中にありがとう、と告げると、ウィズからの手紙を読み始めた。


「ええと…、゛セナ、元気にしているかな゛…」


セナはウィズの文字を目で追う。作物が豊富に取れた、だの、他国ともうまくいっていて、だの、そういった近況報告が書いてあった。

そして、セナの家はさらに大きくなり、飼い犬が1頭増えたことや、アナスタシアもご懐妊の兆候があることなども詳しく書かれていた。


「゛セナも王家の一員の自覚を持って、皇帝陛下にご迷惑をかけないよう、礼儀を尽くして過ごすように゛…」


手紙を持つ手を怒りで震わせながら、セナは一度深く呼吸をする。すると、追記、と書いてあることに気がつく。


「゛まだ決定ではないけれど、僕と同盟国の姫君セレーナとの婚姻が決まりそうだよ。また結婚式はセナも招待するからね゛……?」


セナは、はっと息を呑む。同盟国のセレーナ姫といえば、おしとやかで優しく、かつ教養があり、見た目も大変美しい女性である。そんな素敵な人と結婚するというウィズに、セナは嫉妬心がメラメラと湧き上がる。


「…やっぱり駄目。私は彼らに復讐しなきゃ気が済まない…!」


セナは手紙を握りしめて立ち上がる。そして、気合を入れるように鼻で息をする。


「もう迷うのは止める。やってやろうじゃないのよ復讐を…!ふわふわの恋愛なんか所詮夢よ、夢!夢は少女が見るもの…!淑女は現実的になるべきよ…!」


セナは手のなかに握りしめた手紙をゴミ箱に投げ捨てると、部屋に幽閉されているヴァーリと接触するための方法を模索し始めた。


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