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7-2ご令嬢は迷走中

レティと別れた後、セナはジャスミンとお茶を飲んだ。

ジャスミンは気さくで明るくて、あんな事があったあとでも、彼女と話していると自然と笑みがこぼれた。


すると、部屋の扉がノックされた。ベイズが返事をして扉を開けると、ヘルが立っていた。ヘルは、失礼する、と言うとツカツカと部屋に入ってきた。彼女の後ろには数名の熊の獣人が立っている。


「ヘル?な、何事…?」


セナはヘルと熊の獣人たちを眺めて動揺する。ヘルは、セナの隣に座ると、じっと目を見つめてきた。


「ねえセナ、私の頼みは遂行しているの?」

「頼み?」

「フェンリルお兄様と仲良くすることよ」

「え、あっ」


固まるセナを、ヘルは無言で見つめる。背中に汗を流すセナに、ヘルは小さくため息をついて、まあいい、と言った。


「今日でやきもきすることも終わるから」

「え?」


セナが首を傾げると、熊の獣人たちがセナの周りを囲んだ。熊の獣人たちは、硬直するセナの両手を、ロープを使ってものすごい手際で拘束してしまった。


「え、えっ?!」

「あっ、セナ様…!」


ベイズが口元を手で覆って目を丸くする。そんな彼女を無視して、セナは熊の獣人たちに抱えられる。ヘルはすっと立ち上がる。


「…ヘル、これは?」


ジャスミンが首を傾げて尋ねると、ヘルは、強硬手段、と返した。


「この時期のお兄様なら、セナをベッドに転がしておけば引っかかる。番問題も全てクリア」

「あら、ヘルにしてはかなり雑な作戦ね」

「セナが来るまで、色々小細工を使って唆してきたけどお兄様は駄目だった。今はセナがいる。それならこれくらい雑でも良い」

「な、ちょ、ちょ、ちょっと!!」


暴れるセナを無視して、ヘルは部屋から出た。熊の獣人たちも、セナを抱えて部屋から出てしまう。搬送されながら、セナは慌ててヘルに話しかける。


「どっ、何処に行くのよ!」

「フェンリルお兄様の部屋」

「なんで…」


問いかけてすぐ、そういえばフェンリルが今は、例のあの時期なのだということを思い出す。


「ちょっと、まさか…」

「つい最近、セナにお礼を言われただけでフェンリルお兄様はあの様子だった」


ヘルは珍しく口角をほんの少しだけ上げる。セナは、そんな彼女にぎくりとする。


「捕縛したセナをベッドに転がしておけば、…どうなるかは言うまでもない」

「ちょっと、ちょっと待って!!」

「もう十分に待った。それはお兄様も同じ。セナはフェンリルお兄様の所有物。いつまでも文句ばかり言っては駄目。身の程をわきまえて」


ヘルにそうぴしゃりと言われて、セナは閉口する。


「(…だから…、だからフェンリルの探してた人とかいうのは私じゃないんだってば…!!)」


セナはそう言いたくなるが、しかし、どうせ国に帰されるなら、怒らせてからではないといけないので言えない。

セナがもどかしい気持ちでいた時、曲がり角で誰かが騒ぐ声と、女性の悲鳴が聞こえた。熊の獣人たちは、セナをヘルのそばに下ろすと声の方に向かった。ヘルも熊の獣人たちの後に続く。セナも慌てて追いかける。


騒ぎの中心には、ヴァーリと、彼に腕をつかまれる女性、そして、それをなんとか抑えようとする女性の父親がいた。彼らを囲む獣人たちは、騒然としている。


「おやめくださいヴァーリ様…!」


父親は、娘をなんとか自分の方に取り戻そうとする。しかしヴァーリはその父親を蹴り飛ばすと、女性を自分の方に引き寄せた。女性は目に涙を浮かべて悲鳴を上げる。


「煩い、俺の言うことが聞けないのか?」

「…お、お、恐れながら殿下、フェンリル陛下からは、拒否をする許可をいただいております。殿下にはもう話が通っていると伺っております」


父親にそう言われて、ヴァーリは眉をぴくりと動かす。その威圧感に父親は震え上がるが、しかし、娘をなんとか取り戻そうと、娘の体を抱きかかえて、ヴァーリから引き離した。娘は震えながら父親に抱きつく。


「…フェンリルの許可があるからってなんだ?あ?俺様がその女をよこせと言っているんだ。なぜ聞けない?」


ヴァーリは静かに怒りながら、父親に威嚇する。周りもその父親も、彼の様子に怯える。がしかし、父親は呼吸を何度も繰り返すと、懸命な様子でヴァーリを見上げた。


「陛下のお言葉が絶対です。陛下のお許しがいただけた以上、娘を殿下にお渡しすることは拒否させていただきます」


父親は、そう言い切った。周りは父親の態度に静まり返る。ヴァーリは青筋を立てながら、父親にゆっく近づく。父親は、短い悲鳴を上げながらも、必死で娘を守ろうとする。

ヘルに仕えている熊の獣人が、ヴァーリの元へ向かおうとするが、それをヘルが止める。セナが、なぜ止めるの、と尋ねた時、周りがすっと道を開ける姿が見えた。そこから、フェンリルが現れた。


「…兄さん、もう止めるんだ」


フェンリルはそう、ヴァーリに話しかけた。ヴァーリは、ギロリとフェンリルを睨みつけた。


「…これはこれは陛下…」

「今日は昼間も騒ぎを起こしたと聞いています。これ以上何かするつもりなら、もう庇えません」

「庇う?!はは、心外なこと、私はこれまで、陛下と言え弟に尻拭いをさせていたとでも言いたいのですか?」

「そう言っています」


フェンリルの言葉に、ヴァーリは歯を食いしばる。周りが静まり返る中、一人の獣人が、ヴァーリを見て吹き出した。周りにいた獣人たちは、顔を青ざめさせてその獣人を見る。吹き出した獣人も額にじんわりと汗をにじませて、顔色を悪くしていく。

ヴァーリは、笑った獣人を睨みつけると、彼の方に大股で歩み寄る。そして、その獣人の首元を掴んだ。


「お前、笑ったな?この俺様を笑ったな?!」

「…もうやめろ兄さん」


フェンリルが、獣人を掴んでいたヴァーリの手を払った。解放された獣人は、土下座をして、額を地面につけて平謝りをした。

ヴァーリは、うるさい!!と怒鳴ると、怒りのままフェンリルに殴りかかろうとした。フェンリルはそれに動じず、彼を冷静に見据える。既のところで、ヘルが連れていた熊の獣人が、ヴァーリを押さえつけた。ヴァーリは苦しそうに埋めきながら暴れる。がしかし、数人の熊の獣人に押さえつけられては、彼も敵わなかった。

フェンリルは、静かにヴァーリを見下ろした。


「…頭に血が上っている。しばらく自室で大人しくしたほうが良い」


フェンリルはそう言うと、ヴァーリに背中を向けて歩き出した。ヴァーリはその背中に、憎そうに吠える。がしかし、フェンリルは振り返らない。


「…部屋に連れて行って」


ヘルの命令に、熊の獣人たちは、ヴァーリを抱えて彼を連行していった。

セナが呆然としていると、ヘルが、セナの手首に巻かれたロープを切った。


「…残念だけど、それどころじゃなくなった」


ヘルはそう言うと、フェンリルの後を追いかけて歩き出した。

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