第九章 最後の果実
カインの葬儀から二年後。
レオンは西へ向かった。
リュシアとガルドも同行した。
西方大陸の果てには、三千年に一度実るという蟠桃がある。
それを食べた者は神仙となり、不死になる。
これが最後だった。
レオン自身、分かっていた。
蓬莱山も駄目。
黄金の林檎も駄目。
おそらく蟠桃も同じだ。
それでも行かずにはいられなかった。
旅の途中。
宿屋で若い店員が言った。
「お爺さま、お部屋はこちらです。お孫さんもご一緒で?」
レオンは固まった。
店員が見ているのはリュシアだった。
「……妻だ」
「え?」
「俺の妻だ」
店員の顔が真っ青になる。
「も、申し訳ございません!」
「いい」
部屋へ入ってからも、レオンは無言だった。
リュシアも何も言わない。
鏡に映る二人。
六十四歳の男。
二十代前半にしか見えない女。
「親子ですらなくなったな」
「レオン」
「そのうち曾祖父と孫に見える」
「やめて」
「事実だ」
「そんなこと、どうでもいいでしょう」
「俺にはよくない」
レオンは鏡を伏せた。
◇
三人が蟠桃の地へ着いたのは翌年だった。
山奥の巨大な寺院。
そこでは百年に一度、桃の花を祝う祭りが開かれていた。
「蟠桃?」
老僧が首を傾げる。
「ええ。不老不死の桃です」
「ああ、あれか」
レオンは息を呑んだ。
「あるのか!」
「ない」
「……」
老僧が申し訳なさそうに笑った。
「昔、旅人がこの祭りを見たそうだ」
「祭り?」
「百年に一度。先祖と同じ衣装を着て、同じ料理を食べ、同じ歌を歌う。旅人は百年前にも同じ光景を記した文献を読んでいた」
「それで?」
「百年前と同じ人々が祭りをしていると思ったらしい」
レオンは座り込んだ。
「馬鹿みたいだ」
「レオン」
「全部、作り話じゃないか」
拳を地面に叩きつける。
「八か月かけて蓬莱山へ行った。北の果てまで雪の中を歩いた。今度は世界の反対側まで来た」
誰も止めなかった。
「魔王城の方が簡単だった」
レオンは笑った。
「剣で斬れば終わった」
笑いながら、涙が出た。
「何でこいつは斬れないんだよ」
リュシアが隣に座る。
何も言わなかった。
ただ夫の肩を抱いた。




