第十章 四人から二人へ
西方から戻った翌年。
ガルドが死んだ。
戦いではない。
故郷で孫たちに囲まれながら、朝食の後に眠るように亡くなった。
その知らせを聞いたレオンは、長い間何も言わなかった。
葬儀には多くの獣人が集まった。
棺の周囲では泣いている者より笑っている者の方が多かった。
孫たちがガルドの昔話をする。
「お祖父ちゃん、魔王軍の将軍を一人で倒したんだって」
「知ってる!」
「でも魚が苦手だったんだよ」
「嘘だ!」
レオンは少し離れた場所で聞いていた。
ガルドの息子が近づいてくる。
「父から伝言があります」
「伝言?」
「勇者に言っておけ、と」
「何て?」
「『まだ分からんか、馬鹿』」
「……あいつ」
レオンは吹き出した。
笑った。
そして泣いた。
魔王を倒した四人は、二人になった。
正確には。
人族の勇者と、エルフの魔法使い。
夫婦だけになった。
◇
湖畔の家。
夜。
レオンは暖炉の前に座っていた。
六十五歳。
膝には毛布。
杖なしで歩けるが、昔の剣を振ることはもうない。
「なあ」
「何?」
「俺、格好悪かったな」
リュシアが本から顔を上げる。
「いつの話?」
「最近全部」
「具体的に言って」
「不老不死探して世界中走り回って」
「別に格好悪くないわ」
「三回も騙された」
「誰にも騙されてないでしょう。勝手に信じただけで」
「余計悪いな」
リュシアが小さく笑う。
「私は嬉しかったけど」
「何が」
「私と一緒にいたいから必死になってくれたこと」
「半分だ」
「え?」
「お前のためって言ってたけど」
レオンは自分の手を見る。
節が太く、皺だらけになった手。
「半分は俺自身だ」
「……」
「死ぬのが怖かった」
初めて口にした。
「勇者なのに」
「勇者だって人間よ」
「魔王と戦うときは怖くなかった」
「嘘」
「少しは怖かった」
「毎晩震えてたじゃない」
「見てたのかよ」
「同じ野営地にいたんだから分かるわ」
レオンは頭を掻いた。
「じゃあ昔から格好悪かったんだな」
「知ってる」
「お前な」
「それでも結婚したのよ」
リュシアは椅子から立つと、夫の隣に座った。
「私は、あなたを若いまま愛したかったわけじゃない」
「……」
「若いあなたも好きだった。今のあなたも好き」
レオンは妻を見る。
妻は変わらない。
だが、変わっていないと思っていたのは自分だけなのかもしれない。
表情。
話し方。
沈黙の意味。
すべてが、少しずつ変わっていた。
「見えないだけ、か」
「何?」
「いや」
レオンは妻の手を握った。
「俺の負けだ」
「誰に?」
「時間に」
「勝つ必要なんてなかったのよ」
「勇者には難しい考え方だな」
「だから馬鹿なのよ」
「ガルドみたいなこと言うな」
二人は笑った。




