第十一章 輪廻の書
それからレオンは、不老不死を探すことをやめた。
代わりに、カインが遺した本を読み始めた。
輪廻転生。
魂は死後、世界の大きな流れへ戻り、やがて別の生命として生まれる。
だが宗派によって解釈は違う。
記憶は消えるという説。
わずかに残るという説。
善行を積めば人族に生まれ変われるという説。
そもそも人族になること自体に意味がないという説。
何一つ確かなことはなかった。
「これ、不老不死よりひどいな」
レオンが言う。
「今さら?」
「転生した証拠がほぼない」
「ええ」
「前世の記憶があるって言う子供の記録はあるけど、数百年に一人」
「そうね」
「その中でも詳しく覚えてるのは、ほんの少し」
「そうね」
「しかも同じ国に生まれる保証もない」
「ええ」
「同じ種族とも限らない」
「犬かもしれないわ」
「カインと同じこと言うな」
リュシアが笑う。
「猫なら飼ってあげる」
「嫌だ」
「可愛がるわよ」
「夫からペットに降格じゃないか」
「前世で夫だった猫」
「余計嫌だ」
そう言いながら、レオンも笑っていた。
やがて笑いが収まる。
「でも」
レオンが本を閉じた。
「ゼロじゃない」
「何が?」
「戻ってこられる可能性」
リュシアは夫を見る。
「何千分の一かもしれない」
「もっと低いかも」
「百万分の一」
「かもしれないわ」
「魔王討伐より低いな」
「比べるものじゃないでしょう」
「でもゼロじゃない」
レオンの目に、久しぶりに勇者の光が戻っていた。
「だったら、やってみるか」
「何を?」
「転生」
「あなた、死ぬのよ」
「知ってる」
「自分でやってみるって言うものじゃないでしょう」
「でも俺にできる最後の冒険だ」
リュシアは呆れた。
呆れて。
それから笑った。
「本当に、最後まで勇者なのね」
「おう」
「馬鹿」
「それも聞き飽きた」
その夜から、レオンは輪廻について学び続けた。
不老不死とは違う。
今の自分を永遠に残す方法ではない。
むしろ一度、自分を捨てなければならない。
何も持たず。
剣も。
名誉も。
肉体も。
記憶さえも失うかもしれない。
それでも。
もし少しでも残るものがあるなら。
黄金の林檎の枝のように。
次につながるものがあるのなら。
それに賭けてみようと思った。




