第七章 黄金の林檎
北方の地は雪に閉ざされていた。
吹雪の中、レオンは何度も足を止めた。
「荷物を持つ」
リュシアが言う。
「いい」
「足元がふらついてる」
「いいって言ってる」
強い声を出してから、レオンは自分で嫌になった。
ガルドが黙って二人の間に入る。
「俺が持つ」
「ガルド」
「若い頃、お前の荷物を持たされた借りがある」
「持たせた覚えはない」
「俺はある」
有無を言わせず荷物を奪う。
三人は白い山脈を越えた。
かつてならレオンは先頭を歩いた。
今ではリュシアが先を歩き、ガルドが最後尾からレオンを見守る形になっていた。
ある夜。
二人きりで火を囲んだ。
リュシアは眠っている。
「なあ、ガルド」
「何だ」
「獣人はどれくらい生きる?」
「豹族なら九十年前後だ」
「お前は?」
「六十」
「怖くないのか」
ガルドは焚き火を見つめた。
「死ぬことか?」
「ああ」
「怖い」
「そうか」
「だが、それでいい」
「何がいいんだ」
「生き物だからな」
レオンは眉を寄せた。
「それで納得できるのか」
「納得などしていない」
「じゃあ」
「納得しなくても死ぬ」
あまりにも簡単な言葉だった。
「俺は嫌だ」
「そうだろうな」
「お前は簡単に言うな」
「簡単じゃない」
ガルドが自分の手を見る。
肉球の周囲に白い毛が増えている。
「俺にも息子がいる。孫もいる。死ねば会えない。嫌に決まっている」
「だったら」
「だが俺が死ぬから、息子の時間が始まる」
「意味が分からない」
「お前にはまだ分からん」
「同い年だろ」
「お前は昔から馬鹿だからな」
「喧嘩売ってるのか」
「買える体力があるならな」
レオンが睨む。
ガルドは笑った。
◇
黄金の林檎は存在した。
三人は北の果てに広がる谷で、それを見た。
陽光を浴びると金色に輝く、美しい林檎だった。
レオンは震える手で一つをもぎ取った。
「これが……」
「食べても不老にはなりませんよ」
森の管理人である老婆が言った。
レオンの手が止まる。
「何だって?」
「普通の果実です。美味しいですがね」
「だが、この森の木は三千年生きていると」
「森はね」
老婆は一本の古木を撫でた。
「木そのものは百年か二百年。古い木から枝を取り、若い木に接ぎ木をする。それを何千年も繰り返している」
「同じ木じゃない」
「そうでしょうか」
「違うに決まってる」
「なら、どこから違う木なのでしょう」
老婆が笑う。
「この枝は千年前の木から直接つながっています。実の味も同じ。魔力の性質も同じ。さて、これは別物でしょうか」
「……」
「人は、この森が三千年続いているのを見て、木が三千年生きていると思ったのでしょう」
レオンは黄金の林檎を見た。
美しかった。
だから余計に腹が立った。
「またこれか」
「レオン」
「また、受け継ぐだの残すだの」
林檎を握りしめる。
「俺は俺でいたいんだ」
果汁が指の間から滴った。




