第五章 東方、蓬莱山
勇者パーティが再び四人で旅をするという噂は、瞬く間に各地に広がった。
魔王が復活したのではないか。
新しい災厄が現れたのではないか。
王国から使者まで飛んできたが、事情を話すと使者は微妙な顔になった。
「不老不死、ですか」
「ああ」
「世界の危機では?」
「ない」
「国家からの支援は?」
「いらない」
「……承知いたしました」
東方へ向かう旅は半年以上に及んだ。
海を渡り、砂漠を越え、高山地帯へ入る。
途中に現れる魔物は、かつての四人にとって敵ですらなかった。
「右から三匹」
リュシアが杖を振る。
雷光が走った。
魔物三体が一瞬で黒焦げになって倒れる。
「俺の出番は?」
「ないわね」
「せめて一匹残せ」
「危ないでしょう」
「誰に言ってる」
「五十三歳の夫に」
レオンが顔をしかめる。
その日の野営地で、ガルドが笑った。
「立場が変わったな」
「うるさい」
「昔はお前がリュシアを守っていた」
「今も守れる」
「そういうところですよ」
カインが湯を沸かしながら言う。
「何がだ」
「老いを認めないところ」
「認めてる」
「なら息を切らしながら山道を駆け上がるのをやめなさい」
レオンは返事をしなかった。
蓬莱山と呼ばれる山へたどり着いたのは、旅立ちから八か月後だった。
山頂近くに、小さな集落があった。
そこで四人は、一人の老人と出会った。
「不老の仙人様ですか?」
カインが尋ねる。
老人は首をかしげた。
「仙人?」
「ここには千年以上生きる薬師がいると」
「ああ」
老人が笑った。
「それなら私じゃ」
レオンの目が輝いた。
「本当か!」
「ただし千歳ではない。七十一歳じゃ」
「……は?」
老人は自宅に四人を招いた。
壁には十三人の肖像画が並んでいる。
「我が家では代々、ホウライという名を継いで薬師をしておる」
「代々?」
「私は十三代目ホウライじゃ」
レオンの顔から表情が消える。
「初代は?」
「八百年ほど前らしい」
「不老では」
「ないな」
「霊薬は?」
「長生きする薬ならある」
「どれくらい」
「身体に合えば十年ほど寿命が延びるかもしれん」
老人は淡々と答えた。
「それを旅人が勘違いしたのじゃろう。八百年前から同じ名の薬師がおり、長寿の薬を作る。なら八百年生きている仙人だ、とな」
「……そんな」
レオンが呟く。
八か月。
海を越え、砂漠を越え、山を登った。
その先にあった答えがこれだった。
老人は十三枚の肖像を見上げた。
「じゃが、わしは初代を知らん。初代もわしを知らん。それでも技術だけは八百年残った」
レオンは何も言わなかった。
「人は死ぬ。しかし、残せるものはある」
「俺が欲しいのはそれじゃない」
思わず口から出た。
老人は静かにレオンを見た。
「そうか」
それ以上は何も言わなかった。
帰路。
レオンは一度も蓬莱山を振り返らなかった。




