第四章 勇者の敵
王都から戻ったあと、レオンは図書館へ通うようになった。
魔法。
錬金術。
神学。
古代文明。
禁術。
最初はリュシアにも何を調べているか話さなかった。
だが三か月もすれば、隠せるはずがない。
「不老不死?」
湖畔の家の机に積まれた本を眺め、リュシアは眉を寄せた。
「ああ」
「本気なの?」
「本気だ」
「そんなものが本当にあると思ってる?」
「魔王だって伝説だった」
「魔王は実在したでしょう」
「不老不死だって、世界中に伝説がある」
レオンは地図を広げた。
「東方の果て、蓬莱山。そこには仙人が住んでいて、不老の霊薬を作るという」
「昔話よ」
「北方には黄金の林檎。食べた者は老いなくなる」
「神話ね」
「西方の大陸には、三千年に一度実をつける蟠桃がある」
「それも伝説」
「伝説でも、三つある」
リュシアは黙った。
「魔王討伐の旅を始めたとき、勝てると思ってたか?」
「思ってなかった」
「俺もだ」
レオンは笑った。
「だったら同じだ」
「違うわ」
「何が」
「魔王は倒すべき敵だった。不老不死は――」
言いかけて、リュシアが口を閉じる。
「何だ」
「……自然に逆らうことよ」
「自然だから諦めろって?」
「そうじゃない」
「じゃあ何だ」
声が少し強くなる。
リュシアが目を伏せた。
レオンはすぐに後悔した。
「悪い」
「……私のため?」
「半分は」
「もう半分は?」
レオンは答えられなかった。
死ぬのが怖い。
そんな言葉を、魔王を倒した勇者が口にするのが怖かった。
◇
一週間後。
「それで、また旅に出るんですか」
カインが呆れたように言った。
「頼む」
「五十三歳にもなって?」
「お前は五十五だろ」
「私は自分が老人に近づいていると理解しています」
ガルドが大きな腕を組む。
「俺は行く」
「早いな、おい」
「面白そうだ」
「お前、昔からそうだよな」
「魔王城より危険な場所はないだろう」
カインが額を押さえた。
「二人とも、まったく成長していませんね」
「行かないのか?」
「誰があなたたちの怪我を治すんです」
レオンが笑った。
「決まりだな」
リュシアは少し離れた場所から三人を見ていた。
嬉しそうに地図を囲む夫。
若い頃と同じ顔をしている。
だからこそ、胸が痛んだ。
レオンは敵を見つけたのだ。
魔王を倒した勇者にとって、それは幸せなことだった。
問題なのは。
今回の敵には、剣が届かないことだった。




