第十四章 勇者のいない家
勇者レオンの葬儀は、本人の希望とは違って大きなものになった。
国王が来た。
騎士団が来た。
各国から使節が来た。
かつて彼に救われた町の人々が、何日もかけて湖畔の町まで歩いてきた。
それでも遺体は、彼の希望通り町の共同墓地へ埋葬された。
墓石に刻まれた言葉は短い。
『レオン。夫。友。勇者』
リュシアが決めた。
勇者を最後にした。
彼は勇者である前に、自分の夫だったからだ。
◇
一年が過ぎた。
何も起きなかった。
二年。
何も起きなかった。
三年。
王都で勇者の銅像が建ったという知らせが来た。
リュシアは見に行かなかった。
四年。
湖畔の町に新しい学校ができた。
頼まれて、リュシアは週に二度だけ子供たちに魔法を教えるようになった。
五年。
レオンがいつも座っていた椅子を捨てようと思った。
できなかった。
六年。
庭の木が一本枯れた。
レオンが植えた木だった。
リュシアは枝を一本取り、若い苗木に接いだ。
作業をしてから、北の黄金の林檎を思い出した。
「同じ木、なのかな」
誰も答えない。
七年。
墓地へ行く回数が減った。
それを罪悪感に感じた。
八年。
町の子供から聞かれた。
「先生って、結婚しないの?」
「してたわよ」
「旦那さんは?」
「死んだ」
「寂しい?」
リュシアは少し考えた。
「寂しいわ」
「ずっと?」
「たぶんね」
それでも笑える。
それが自分でも不思議だった。
九年。
魔王討伐の記念祭へ招待された。
今回は出席した。
会場には四人の巨大な肖像画が飾られていた。
若いレオン。
カイン。
ガルド。
自分。
一人だけ、今も同じ姿だった。
昔なら、その写真を見るのが辛かった。
今は違う。
「みんな、若いわね」
自然に笑えた。
十年。
リュシアは百八十三歳になった。
外見はほとんど変わらない。
だが本人は知っている。
十年前の自分と今の自分は、同じではない。
時間は確かに自分の中にも流れている。
レオンが亡くなった十年は、それまでの百年以上よりも長く感じられた。
それでも。
生きていた。




