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愛さない事を誓いなさい。  作者: 鈴木べにこ


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12ー2.

 ロビンの告白から一夜明けても、アネットの頭は混乱したままだった。


 朝になっても顔の熱は引かない。



「・・・無理。」



 鏡の前でアネットは頭を抱えた。


 ロビンに告白された。


 しかも、自分がイーサンを好きだと知った上で。



『あなたが私を好きじゃなくても、私はあなたについて行きます』



 思い出すだけで胸がざわつく。


 あんな真っ直ぐな想いを向けられた事がなかった。



『あなたは旦那様がお好きでしょう』


『なら何故、伝えないのです。』



「なんであんなにも真っ直ぐなのよ!あの男は!」



 頭の中は一晩経ってもまだパニックだ。



「人事だと思って!」



 告白してきた男に対してよくわからない怒りが湧いてきた。


 そしてふと思った。



 「顔に出やすいってよく言われるけど、旦那様に旦那様が好きな事はバレてないわよね?」



 そこまで考えた瞬間、アネットは勢いよく首を振る。



「ま、まさか。」


 

 今度は顔が青くなる。



 「もし・・・気づかれていたら。」



 あの無口な旦那様は、何を思っていたのだろう。



 「死んじゃう・・・。」



 色んな意味で。


 両手で顔を覆う。




 コンコン



 ノック音が響く。


 アネットがびくっと肩を揺らした。



「はいっ!」


「朝食の時間だ。」



 イーサンの声だった。


 心臓が跳ねる。


 恐る恐る扉を開けると、イーサンが立っていた。


 いつもの無表情。


 けれど今日はどこか疲れて見える。



「お、おはようございます。」


「・・・ああ。」



 短い返事。


 そのまま並んで食堂へ向かう。


 沈黙が気まずい。


 以前なら平気だったのに、今は駄目だった。


 ロビンの言葉が頭から離れない。



『旦那様の事で頭がいっぱいでしょうから』


「(その通りすぎるのよ・・・。)」



 アネットはちらりとイーサンを見る。


 横顔は相変わらず整っていて、感情が読めない。


 でも最近は少し分かるようになっていた。


 眉が少し寄っている時は機嫌が悪い。


 視線が長い時は何か考えている。


 そして今のイーサンは。


 明らかに何かを考え込んでいた。



 食堂へ入ると、いつもいるはずのロビンの姿はなかった。


 アネットが少し周囲を見る。



「えっと・・・ロビンは?」


「休みだ。」


「え?」



 アネットが驚く。


 ロビンが休むなんて珍しい。


 イーサンは短く言った。



「昨日、色々あったからな。」



 アネットの顔が一気に熱くなる。



「っ!!」



 イーサンはじっとアネットを見た。



「何かあったのか?」


「え?」


「お前達。」



 心臓が止まりそうになる。


 まさか、聞かれていた?


 アネットの顔色が変わったのを見て、イーサンは小さく目を細めた。



「・・・やっぱり何かあったな。」


「な、何でもありません!」


「顔赤いぞ。」


「これはその・・・!」



 言葉に詰まる。


 イーサンは静かに視線を逸らした。


 そしてぽつりと呟く。



「ロビンは屋敷を出るらしい。」



 アネットは息を呑む。



「本当に?」


「ああ。」


「・・・そうですか。」



 アネットの胸が痛む。


 ロビンは本気だったのだ。


 イーサンはそんなアネットを見ていた。


 その横顔は、どこか寂しそうだった。



「お前も。」


「え?」


「出て行くんだろう。」



 低い声。


 アネットは言葉に詰まる。



「・・・契約ですから。」


「そうか。」



 それきりイーサンは黙った。


 朝食が運ばれてくる。


 静かな食堂。


 ナイフとフォークの音だけが響く。


 折角の食事もアネットは全く味が分からなかった。



 一方。


 イーサンもまた、ほとんど食事へ手をつけていなかった。


 頭の中がぐちゃぐちゃだった。


 ロビンが屋敷を出ると言った時。


 理由を聞かなくても分かった。



「(あいつはアネットを追うつもりだ。)」



 そして恐らく。


 昨夜、想いを伝えた。


 だから今朝のアネットはあんな顔をしている。


 胸の奥が重い、苛立ちにも似た感情。


 だが同時に自分には何も言う資格がないとも思っていた。



 三年前。


『お前を、愛するつもりはない。』


 そう言ったのは自分だ。


 契約を望んだのも。


 終わりを決めたのも。


 全部、自分。


 だから



「(今さら・・・。)」



 アネットに“行くな”なんて言えるはずがない。 



「旦那様?」



 アネットの声で我に返る。



「どうかしましたか。」


「いや・・・。」



 イーサンは少し黙った。


 言葉が出ない。


 本当は聞きたい。


 ロビンをどう思っているのか。


 一緒に行くつもりなのか。


 少しでも引き止める余地はないのか。


 これらの喉まで出かかった言葉を、イーサンは飲み込んだ。


 言えない。


 今さらそんな事を言えば、卑怯だ。


 アネットは契約を守ろうとしている。


 なのに自分だけ感情で縋るなんて出来なかった。



「何でもない。」



 結局、それしか言えなかった。


 その言葉にアネットは少し寂しそうに笑う。



「そうですか。」



 その笑顔がイーサンの胸を抉る。


 イーサンは静かに拳を握った。


 初めてだった。


 言いたい言葉があるのに。


 どうしても口に出来ないのは。


 


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