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23 彼女が見ていたもの

「御影くんはさ」

 白金さんはメンズコーナーでズボンを物色しながら、低い声で言った。

「……日向さんに、どういう風に見られたいの?」


「んえ?」

 どうって……。


 俺は戸惑い混じりに答える。

「別に、変じゃなければ……」


「あ、そう」

 白金さんは冷めた声で言った。

 だが、怒っているわけではなさそうだった。


 そして白金さんは、黒いシンプルなズボンを2つ手に取った。

「……これ、試着」


 俺は白金さんが持っている2つのズボンを交互に見た。

「それ、2つとも同じやつじゃん!?」


 白金さんの眉間にしわが寄る。

「サイズ違うの。ピッタリ合う方にして」


「はあ……」




 そして俺は白金さんに言われるがまま、服を揃えた。

 グレーの重めなTシャツ、紺色のシャツみたいなジャケット。

 そしてそれを着てみる。


 全身鏡に映った自分の姿を見る。

 悪くはない、けど。

「……なんか、そんなにキマってなくない?」


 俺は首を傾げて白金さんを見た。


 白金さんは真顔で俺の全身を眺めていた。

「うん。だって変じゃなければいいって言ってたじゃん」


「は!?」

 俺は目を見開いた。

 これ、総額1万ちょいしたよな!?


 白金さんは少しだけ目を細めて笑った。

「でも似合ってると思う。清潔感あるし、印象は悪くないよ」


 俺は胸がくすぐったくなった。

「……あ、そう。そうならいいです……」


「じゃ、日向さんとのデート、楽しんで」

 白金さんは冷ややかに俺を見上げて、その場を去ろうとした。


 引き留めないと。

 なぜか、咄嗟にそう思った。


「白金さん、ありがと」

 俺は思わず大きめの声を出した。


 白金さんも驚いて立ち止まる。


 俺は白金さんを見て続けた。

「……お礼する。アイス、行こう」


 白金さんは心底驚いたように口を開けて固まった。




 フードコートのテーブルで、俺と白金さんは向かい合って座った。


 目の前で、白金さんは黄色いアイスを食べていた。

 ジト目で、黙々と。


 俺はしばらく白金さんを観察していたが、ふと手元のアイスが溶けかけているのを見て、急いで口の中にかきこんだ。


「っ……」

 頭痛。


 白金さんは俺を見てクスリと笑った。


 俺は目を逸らしてため息を吐く。


 しばらくして、白金さんの静かな笑い声が止んだ。


「なんかさ。御影くん、変わったよね」

 その声が、胸に深く刺さった。


「変わった……?」

 俺は白金さんの顔を見る。


 白金さんは俺の顔を覗き込むように見つめた。

 まるで、頭の中――いや、俺の魂の中身まで見るように、深くめり込む視線。


 俺がこの世界に来た時と、同じ目をしていた。


「……気のせい、だと思う」

 俺の声は震えていた。


 彼女にはお見通しなのだろうか。

 俺が、本当は御影大輔じゃないということが。


 手元のアイスのカップが汗をかいていた。

 俺は最後の一口を食べて、カップをテーブルに置く。




 俺は白金さんと別れた後、しばらく動けなかった。


 銀髪が揺れながら、華奢な背中が次第に小さくなっていく。

 その姿を、ぼんやりと見つめていた。



 彼女の姿が見えなくなった途端、糸が切れたように、周りのざわめきが耳に流れ込む。

 学生たちや家族連れが、俺の脇を通り過ぎて行った。


 ショッピングモールの正午を知らせるアナウンスが、遠くで鳴った。




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