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乳母になりたいので子宝ベーグル片手に婚活した件について。  作者: あゆま3


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9/28

私の初めての核心~そういう視点もありますのね~

こんにちは。

今回もよろしくお願いします!

~早朝、使用人の部屋


遂にお休みの最終日になってしまいました。

昨日はお昼過ぎに図書館にまいりましたが、私が転倒しそうになったところ男性に抱き寄せられるというアクシデントが起きたことによって図書館を出てしまい、一切情報収集ができなかったのです。

挙句に、どこに行けばいいのか何をすればいいのか見当もつかず町中を散歩して回って1日が無駄に終了してしまったのです。

これでは、お嬢様に申し訳なさすぎて明日出勤できないのです。

それに、動揺して飛び出すように図書館を後にしましたので男性に助けてくれたお礼も十分に言えなかったのでございます。

それに、目的の一つであった感想をお伝えすることができませんでした。

これでは、人として私自身が許せないのです。

今日は図書館に行って男性にお礼と本の感想を伝えたら、お嬢様にいいお知らせができるようなにか一つでも結果を残さないといけないのです。

ですから、本日は子宝ベーグルを買って図書館に行くことにしたのです。



~図書館

私は恋愛小説の部屋に向かうため、足早に図書館の2階を目指しました。

右手に持つバッグの中には購入したベーグル。

図書館に食料品を持って入るのはいかがなものかと思いましたが、1秒でも時間が惜しいのでお屋敷に戻らずに図書館に来てしまいました。

部屋の前で紙とインクの香りを肺いっぱいに吸い込んで、大きく息を吐くとドアノブに手を掛けます。

思い切ってドアを押せば、今日は目の前に例の男性が本を眺めて選んでいるようでした。


「あ、あの…。」


口の中はカラカラなのに、バッグを持つ手は湿って頭はカッカします。

勇気を出して出した声はか細くいつもの私ではございません。

ただ、お礼と感想を言うだけなのに、なぜこうなってしまうのでしょう。


「あ、昨日のお姉さん!大丈夫だった?」


「いえ、あ、はい…。昨日は助けていただいてありがとうございました。ちゃんとお礼も言えず申し訳ございません。」


私は邪険にされてもおかしくない態度をとりましたのに、男性は逆に心配してくださいました。

想像と違う態度に、躓きながらなんとかお礼を言い、頭を下げました。

頭を下げた状態で床を見つめながら、少しほっとして私はバッグを落としてしまったのです。


「ああ!」


床に散らばるバッグの中身。

急いで拾い集めようとしますが、ベーグルの包みが男性の目の前に落ちてしまったことに気づいてしまったのです。

男性はゆっくり包みを拾い上げ、私に差し出しました。


「これ、ロッソの店のだろ?」


「わっ、わかりません…。“子宝ベーグル”で有名とだけしか…。」


30を過ぎた女がいきなり荷物を落としたと思ったら、荷物から子宝ベーグルが出てきたとしたら、どう思われるのでしょう。

私は一気に血の気が引いていくのを感じ、冷たくなる指先でベーグルを受け取りました。


「お姉さん、子供欲しいの?」


「…乳母になりたいのです。」


小さくぽつりと出た言葉にはっとしましたが、戻すことはできません。

乳母になりたいから子供が欲しい。

これが私の使命であって、なにも恥じることはないはずですのに、とてつもなく恥ずかしいことを申し上げている気がしてベーグルの包みを握る手に力が入ります。


「なんで?」


「お嬢様のためです。」


そうです。お嬢様のために乳母になりたいのです。

お嬢様の安寧な日々を少しでもお支えできれば、私は幸せなのです。

私は髪に隠れて見えない男性の目であろう辺りに目線を上げました。


「ちがうでしょ?」


なにが違うのでしょう。

お嬢様の幸せは私の幸せ。

誰に何を言われようともこれは変わりません。

私は首を傾げ、眉間に皴を寄せました。


「自分のためでしょ?」


「…。」


「自分がお嬢様の一番になりたいから、乳母になりたいだけ。違う?」


ほぼ初対面の人間になぜそんなことを言われないといけないのでしょう。

確かに、レオン様にお嬢様を取られたような寂しい気持にもなりました。

けれども、お嬢様の幸せそうな顔を見ますと、レオン様にお任せしてよかったんだと安心するのです。

なのに、私がお嬢様の一番になりたいがために乳母になりたいと思われているなんて心外なのです。


「私はただお嬢様の幸せを願って…。」


「そういうの、偽善っていうんだよ?」


私が最後まで言葉を発することなく、鋭いナイフが心に突き刺さりました。

私がお嬢様にしてきたこと、すべてが偽善だなんてそんなはずはございません。

お嬢様が笑えば、私は嬉しかったですし、お嬢様が泣けば、私は苦しかったのです。

だから休まず、お嬢様の笑顔を守るために人一倍配慮してきました。

立ちはだかる壁があるのならば壊すのをお手伝いさせていただき、茨の道があるならば共に歩んでまいりました。

ですのに、そのすべてが“偽善”の一言で済まされるなど、私のアイデンティティはなんなのでしょうか。

私のしていることは、お嬢様にとって全て“偽善”だったのでしょうか。


「そんなはずは…。」


「逆の立場で考えてみてよ。お姉さん、もう適齢期過ぎてるよね?行き遅れの侍女が急に乳母になりたいって言ったらどう思う?」


「…。」


確かに、行き遅れの侍女がいきなり乳母になりたいなどと言い始めたら、私なら止めるでしょう。

出産は命がけだと言いますし、なにより母親のように親しんできた侍女が我が子と同じくらいの子を自分のために産むとなると無理して欲しくないのです。

ただ近くで控えてほしいと思うのです。

男性の言葉がまさにその通りで、私はお嬢様の立場で物事を一切見てこなかったことに、頭が真っ白になりました。

一度でもお嬢様が私に乳母になってほしいと言ったことがあったでしょうか。

一度もなかったのです。

お嬢様のお見合いのあの日、レオン様と仲睦まじい様子から勝手に乳母になることが使命だと決めつけて、何も成果もないまま、ただ1週間の休みを貰っただけなのです。

結局、私は自分のことばかりでお嬢様のことを考えていなかったのです。


「でも、私は…結婚して、子供が欲しいのです…。乳母になりたいのです…。」


霞んでいく視界の中で、自分のためだったとしても、やはり乳母になりたいという気持ちは変えられなかったのです。

いいえ、諦められなかったのです。

生まれたあの日から、小さな手で私の指をしっかり握ったあの時から、お嬢様は私の宝物なのです。

例えそれがお嬢様の求めるものではなかったとしても、お嬢様の一番側で控えたいのです。

零したくないのに、零れてしまった涙は頬を伝い床に落ちていきます。

世間的に見ても、乳母になることは厳しいとは私も気づいております。

気付いておりますけれども、止められないのです。

物語のように都合よくいいタイミングで素敵な男性に出会えて結婚して子供を産むなど、それができる年齢はとうの昔に過ぎ去ってしまいました。

だから、今こんなにあがいているのです。

零したくないのに、零れてしまった涙は頬を伝い床に落ちていってしまいました。


「ごめん、言い過ぎた。」


男性は私の顔を袖口で乱暴に拭いました。

私は突然のことに動けず、涙は袖口に吸い込まれていきました。

乱暴に擦ったので赤くなった目元はヒリヒリして、男性の袖口もお化粧でドロドロに汚れてしまいました。


「お召し物が!申し訳ございません…!」


男性のお召し物の汚れを見て、急いでバッグからハンカチを出して押さえますが汚れは全く取れませんでした。

シワシワですが、高級そうなこのお召し物を弁償するとなると私のお給金ではとてもできそうにありません。


「いいよ…。一回帰って着替えてくるよ。お姉さんも染み抜き得意?」


「えっ…はい…。侍女をしておりますので…。」


「じゃぁちょうどいい。服そんなに持ってなくてね。染み抜きしてくれる?」


「私でよければ…。」


結局私は図書館でなにも収穫することなく、男性のお召し物の染み抜きをすることになったのです。



最後までありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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