私の初めてのお宅訪問~な、なんですの?このお屋敷!~
こんにちは!
いつもありがとうございます。
楽しくなってまいりましたね!
では、続きをどうぞ!
私は、例の男性の足元に視線を置いて歩いていました。
まだ午前中とあって、街には多くの人が行き交っていました。
しかし、男性を避けるように通り過ぎました。
ーーみんな避けてます。怪しい……ですもんね。私、従者だと思われたくないのです。
私は3歩後ろ程度を歩いておりましたので、ぶつかることはありませんでした。
視線を男性の背中に移しました。
背中にも無数のシワが寄っていました。
ーー服の質は良さそうなのに……もったいない。私なら、こんなシワシワのシャツなんて断じて出しませんのに。
足を踏み出す速度を落とし、男性との距離を広げました。
急に男性の足が止まりました。
そして、私の方へ振り返りました。
視線を合わせました。
「歩くの速かった?」
「いいえ、そんなことはございません。」
ーー気づかれてしまいました……従者だと思われたくなかったから、なんて言えません……。
事務的に伝えようと口を開いたのですが、冷たい響きとなってしまいました。
私は、少しだけ頭を下げました。
視界から男性が消え、代わりに地面が入りました。
「ふぅん、そう。」
男性は何事もなかったように背中を向けました。
前に進みますが、心なしかスピードが緩くなっているように見えました。
ーーこんな私にも気を使っていただけるなんて……意外です。
その後も私は1歩後ろを付いていきました。
10分後、男性の後をついて歩いておりましたら、だんだん人が少なくなっていきました。
大きなお屋敷が立ち並ぶエリアに足が進んで行ったのです。
私の足はだんだん重くなっていきました。
ーーこんなところ……やはり、怪しい。帰った方が……でも、シャツを汚したのは私ですし……。
ただ男性の足元に視線を固定して、足を動かし続けました。
男性の足がピタリと止まりました。
私は、視線を足元から上げました。
男性は首を横に向けました。
「ここだよ。」
目の前にはツタが這っている大きなお屋敷がありました。
外壁は白で風格のある建物でした。
私は、男性と屋敷を2度視線を往復させました。
ーーここ? 随分立派。この方は……本当になんなのでしょうか……
男性は慣れた手つきで門に手をかざしました。
すると淡い光を発して、勝手に扉が開きました。
私は目が点になりました。
「え?!魔法?!」
「そうだけど。なに?」
「……」
口元は一文字で表情は読めませんでした。
私は圧に口を閉ざしてしまいました。
ーー初めて見ました! 魔法なんて……
今度は目を皿にして門と男性の間を何度も往復させました。
ーーなかったように言いますが……魔法は、一握りの人しか使えないのです……私は、とんでもない男性の家に来てしまったのかもしれません。
男性が門をくぐりました。
私の足はまだ動きませんでした。
「なにしてるの?いくよ?」
「は、はい!」
奥歯を噛みしめ、男性の後ろについて門をくぐったのです。
門をくぐると背後で門の閉まる音がしました。
慌てて振り返ると、今度は鍵がガチャリと閉まったのです。
私は目を凝らしました。
ーー本当に閉まってる。勝手には帰れなくなってしまいました。
足がすくみました。
男性へ視線を移すと、玄関近くまで足を進めていました。
従者のお出迎えはありませんでした。
ーーこんな立派なお屋敷であれば、使用人は沢山いるはずです。なのに、一人も出てこないなんて、おかしいのです。
私は眉をひそめ、首を傾げました。
私とは対照的に男性には迷いがありませんでした。
玄関の扉に腕を伸ばすと、自ら押して開けました。
「散らかってるけど、気にしないで。」
「……」
ーー散らかっている? いや、きっとそう言うだけですよね。
そのまま男性は足を進めました。
私もドアに手を掛け、屋敷の中に足を踏み入れました。
ゆっくり目線を家の中に移しました。
そこには、本、本、本。山のような本でした。
本が沢山乱雑に置かれていたのです。
「まぁ!!!」
腹の底から声を上げてしまいました。
息を飲みました。
視線を一点に留められないのです。
ーーあ、ありえません!! 使用人は何をしているのでしょうか?!
「こ、これは……使用人はどうしたのですか?」
込み上げてくる言葉を殺して、声を絞り出しました。
「いないよ。俺一人。」
「……は?」
「だから、一人。」
「……」
淡々とした返事でした。
私は、なにも言えませんでした。
ーー幻聴でしょうか?こんな大きなお屋敷に一人のはずが……でも、嘘をついているようには感じません。
「俺、誰かに世話されるの嫌いだから。」
「……」
静寂を破るように、男性は言いました。
口が開いてしまいました。
ーーやはり、身分は高い方なんですね。でも、平日に図書館にいるくらいですから、親の脛をかじって生きているのでしょうね。もう、これ以上関わらない方がいい。さっさと用を済ませて帰りましょう。
私は、拳を握り息を吸いました。
「早速ですが、シミ抜きいたします。お洋服をお召し替えいただけますか?」
「わかった。」
男性は首元に指をかけ、ボタンを2つ3つ外しました。
そして、裾を掴んで一気に捲りあげ、首を抜いたのです。
私は一瞬のことで反応が遅れました。
「ななななななな、何ですかっ!!!!」
私の口からは意味のない言葉が漏れました。
掌を目元に移動させ、視界を塞ぎました。
「え? なに?」
「ここここ、ここは玄関ですよ! 女性の前でそんな、そんな! はしたないことしたらいけません!!」
「あー、お姉さん、乳母になりたいって言ってなかったっけ? そんなんじゃ無理なんじゃない?」
「それとこれは別です!!」
「へーへー。」
男性は床にシャツを放り投げました。
頭をかきながら、本の隙間を縫って屋敷の奥へ消えていきました。
私は汗が噴き出ていて、暴れる胸を両手で押さえました。
それから、動けませんでした。
ーー見て……しまったのです。お腹が6つに割れていました……いや、いけない! 忘れないと……!
ふと、視線を床に下すと男性のシャツが目に入りました。
散らばる本の上に無造作に乗ったシャツ。
私はそれに近づきました。
指先2本で摘まみ上げると、腕に抱えました。
そして、改めて部屋全体を見渡しました。
ーーなぜ、こんなに本が……? これでは、心を休めることはできません。
膝を折って足元にある本を取りました。
開いて、ペラペラと捲ると、なにやら歴史書のようでした。
閉じて元に戻すと、また別の本を取りました。
捲ると、続きものの小説で上巻と書かれていました。
ーーまとまっていない……。せめて分類さえ分ければ読みやすいのに。
気が付けば次々と本を取り、本の分類をはじめていました。
積み上がる本。
散らかった本はなくなっていきました。
ーーシミ抜きしに来たのに。でも……気になるのです。片づけしないと……。
手に取った本の表紙を開いた時、足音が聞こえました。
「え! お姉さん、何してるの?! ちょっ、俺場所決めてたんだけど?!」
上ずった声の方へ首を傾けました。
そこには、新しいシャツを着て戻ってきた男性。
駆けて私のところまで来ました。
「本が玄関にあること自体がおかしいのです! 散らかっているじゃないですか!これでは本もかわいそうですし、整理しますよ!」
「え?! いやっ、お姉さん何しに来たの? シミ抜きでしょ?! 勝手に触らないでよ!」
「いいえ、私、決めました! 片付けさせていただきます!」
「え、なんで?! いや、シミ抜きだけでいいから!」
「こんな状況でよくそんなことが言えますね! ダメに決まってるでしょ!」
前のめりになって男性に詰め寄りました。
男性は仰け反って、口が一文字になりました。
なにか言いたそうに口が動きましたが、構いませんでした。
振り返って、本の表紙を開きました。
男性の視線がささりましたが、無視しました。
しばらく動かなかったのですが、散らかった本を手に取りました。
表紙を捲り、閉じました。
「これ、薬草図鑑なんだけど、どこに置けばいい?」
「一番奥です。」
「わかった。」
奥の積み上がった本の方へ足を向けました。
そして、そこに手に持った本を乗せたのです。
私は、口元が緩みました。
男性と私はこの後会話することなく、分類を続けました。
1時間後、玄関にもう散らばった本はありませんでした。
近くにあった本棚には、びっちりと整列している本。
ジャンルはさまざまで、外国語で書かれた本までありました。
ーーこれだけ本があるなら、図書館に行く必要ないのでは?
首を傾げますが、肩の荷がおりました。
「お姉さん、手伝ってくれてありがとう。床が見えたの久しぶりだよ。」
男性は本棚の近くで、数冊手に持っていました。
目元は見えませんが、視線を感じました。
ーー床が見えるの久しぶりというのは、いつから散らかっているのでしょう……聞きたくもないです!
口を閉ざしました。
男性が私に近づき、手に持った本を差し出しました。
「お姉さん、乳母になりたいんだろ?この本、オススメだから。持って帰って。」
「……」
本と男性を見比べました。
ーーこないだみたいな本だと、困るのですが……でも、せっかくの好意ですし……
視線が泳ぎました。
身体は半歩下がりました。
しかし、時間をかけて両手を差し出し、本を受け取ってしまいました。
「あ、ありがとうございます……」
「悪いけど、客が来る時間だから。帰ってくれる?」
「え? シミ抜きは?」
私は、一度瞬きをしました。
顔を背けられました。
「あー……自分でどうにかするよ。」
「あのっ……苦手なのですよね?」
「……」
息をするのも難しいくらいの空気が流れました。
ーー私が迷惑かけましたのに……片づけだって私が勝手に始めましたし……放っておけません。
「あのっ、私預からせてもらっていいですか?シミ抜きして、明日また持ってきます。」
ーー明日は仕事だけど、夕方以降は自由な時間ですし。その時間にここまで届ければ、いけます。
男性は顎を爪で掻きました。
「悪いけど、そうしてくれるか?」
「承知いたしました。」
「じゃあ、勝手に門を通れるようにするから、名前教えて?」
「私、カミラと申します。」
「俺は、ジグルド。よろしくね、お姉さん。」
ジグルド様は、二っと笑いました。
そして、門の方を指をさしました。
指先から淡い光の線が門の方へ向かって走っていたのです。
人生2度目の魔法。
声を上げそうになりましたが、唇を噛みました。
光が止まって、ジグルド様は私の顔を見下ろしました。
「これで門通れるから。悪い。本当に時間ないから、帰って!」
ジグルド様は私の背を掌で押しました。
私は足を縺れさせながら、お屋敷を出たのです。
一度振り返ると、すでに門は閉まっていました。
最後までありがとうございます。
本に囲まれた生活っていいですよね。
私は図書館に住みたいです笑
同志の方いらっしゃったら、連絡ください笑
では、次回もお楽しみに。




