私の初めての出会い②~私、そんな本求めておりません!~
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図書館2階
私は、案内された通り中央にある大きな螺旋階段を登りました。
最後の階段を踏んで、視線を上げました。
廊下の先に扉が見えました。
視野を広げますと、備え付けの椅子に座って新聞を読んでいる人や、本棚の前で本を読んでいる人。
はたまたたくさんの本を抱えて、並んでいる本を指差している人がいました。
私は、乱れていた息を止めました。
早歩きで廊下の先へ進み、ドアノブに手をかけたのです。
ひんやりとしたそれを下ろして、ドアを押したのです。
キィ…
古びた蝶番の軋んだ音がしました。
そこにも、床から天井まで壁面びっしりの本。
部屋の中央にも本棚が2列ありました。
本棚の間から見える奥には、柔らかそうなソファーが数脚見えました。
ーーさて、出会いの部分のみを読んでいきます。
一番近くの本棚の前に立ちました。
目に飛び込んだ桃色の本を本棚から引き抜きました。
指先で本を捲りました。
その本は、姫と隣国の王子が結婚する話。
気が付くと、最後のページを捲っていました。
ーーあれ?最後まで読んでしまいました……時間がない!次こそ出会いだけ……。
本を戻して、隣の本を手に取りました。
指先でページを捲りました。
今度は、学園で出会った男女のお話で最後は婚約しました。
本を捲る手を止めました。
そのページは最後のページだったのです。
--はっ!また……途中で止められない……。全部読みたくなってしまう……
それに、目が合っただけでお互いが恋に落ちるのかも理解できません……
思考は停止しました。
指先も止まってしまいました。
次の本に手を伸ばしましたが再び同じ展開。
しかし、途中で止めればいいものの最後まで読んでしまいました。
ポケットの時計を取り出して、確認すると既に4時間も経っておりました。
ーーこれでは全く時間が足りません。
指先が冷たくなりました。
本を持つ手に力が入り、指先が歪みました。
次の本に移るべきか考えました。
でも、身体が動かなくて……
その場に座り込みました。
ーーやはり、私はダメなのでしょうか……
わざわざお休みまでいただいてますのに……
もうお嬢様は私をクビにするのでしょうか……
頭では、動き出さないといけないと分かっていました。
しかし、行動に移せません。
ーーこのままでいいのか、ほかの手を考えるべきか、わかりません。
誰に相談するべきでしょうか?
様々な疑問が頭に浮かびましたが、答えを出せなくて……
天井を見上げました。
「お姉さん、その本よりこっちの方がいいんじゃない?」
後ろから男性の声が聞こえてきました。
身体が飛び上がりました。
--そうだ、ここ、図書館。なんてことを……!
胸に手を当て、勢いよく立ち上がりました。
私は大きく息を吐きました。
そして、スカートの塵を手で払った後に振り返りました。
そこには、ボサボサな上に前髪で顔の半分が見えない背の高い男性が。
口元は、無精ひげが生えていました。
年齢不詳で、洋服は光沢があって高級そうではありますが、シワシワ。
靴も汚れていました。
その男性が一冊の本を、私に差し出していたのです。
私は思わず、後退りしました。
引きつった顔をどうにか口元を緩めました。
「あ、あのお気持ちだけで十分です……」
声は揺れていました。
--怖い!なに、この人。怖すぎます……!
私は腕を自分の身に巻き付けました。
一応は好意ですので、お辞儀はしました。
振り返って、別の本棚に移動しました。
そして、本棚を見上げました。
「え?面白いと思ったんだけどな…。」
背後で残念そうな口調が聞こえてきました。
胸が締め付けられましたが、そもそもここは恋愛小説が収納されている部屋。
ーー男性がいるなんて……!お かしい。でも、私はここで本を参考にするしか……もう……
本棚に視線を集中させました。
今度の棚の本は、先ほどの本棚より色が落ち着いていました。
手触りも先ほどより滑らかでした。
本も引っ掛けた指先に力が入りました。
そのまま目の前にある本を引き抜きました。
本に思考を集中させました。
主人公は公爵夫人で、公爵様から冷遇されているシーンから始まりました。
ーーこの本も参考にならないのです……
しかし、思考とは裏腹に指先はページを捲ったのです。
その本は主人公が若い護衛騎士と火遊びを楽しみ、肉欲の日々を過ごすという話でした。
あまりに直接的な性表現に顔が赤くなりました。
心臓は跳ね上がって、目に涙が溜まりました。
ーーなんです?! この本は……! でも……止まらない。
本を閉じて本棚に戻した時、胸の鼓動が早くて……
胸の前に拳を握って、本棚に寄りかかりました。
「ね! やっぱりお姉さんそういうの求めてたんでしょ?」
声のした方へ視線を送ると、先ほどの男性。
口元は笑っていました。
心臓が止まりました。
手には3冊の本が。
その本を差し出されました。
視線を本と男性の顔の間で往復させました。
この時の私は思考はまとまらなくて、通常の判断ができませんでした。
震える指先で、なんと本を受け取ってしまったのです。
「そんなお姉さんはこの本! おすすめだから。俺は毎日ここにいるけど感想は来週でいいから。じゃっ!」
男性は早口で喋り、二っと笑った後に片手を挙げました。
そして私の反応を待つことなく、部屋から出ていったのです。
視線を渡された本に下しました。
その本は、先ほど読んでいた本のように紙質が良かったのです。
--み、見ていた……? 勘違いさせてしまったのでしょうか……欲しいのは、純粋に出会いの参考になるようなものだったんですが……でも、折角薦めていただけましたし……
本を開こうとしましたが、頭の奥が重く感じました。
瞬きの回数も増えていました。
私は、一つ溜息をついて、手に持った本を抱えて部屋を出ました。
階段を下りて、カウンターに視線を止めました。
そこには長蛇の列。
館内には、閉館を知らせる鐘の音が響いていました。
ーー借りずに帰りましょうか……でも、参考になるかもしれませんし……
足は最後尾に向かっていました。
--お嬢様も恋愛小説をよく読みますし……もしかしたら面白いかもしれません。
私の並んだ後も、次々と後ろに人が立ちました。
行列は解消されることはありませんでした。
しばらく待つと、自分の番になりました。
カウンターには、最初来た時に本の場所を教えてくれた女性がいました。
私は手に持っていた3冊をカウンターに置きました。
女性は慣れた手つきで本を開きました。
「初めて利用するのですが、この本3冊を借りたいのですが……」
「はい。初めてですね。この貸出カードに日付と名前を記入してください。」
女性はカードを取り出すと、私の前に3枚のカードを差し出しました。
ペンを持って、名前を書こうとした時。
本のタイトルが目に飛び込んできました。
・淫らな奥様は騎士と朝日を見る♡
・絶倫旦那様は夜まで待てない♡
・侍女は旦那様に一晩中指導される♡
私の指先は止まってしまいました。
しかし、後ろから待っている方の視線が背中に刺さりました。
「うちの蔵書、恋愛小説が多くて人気なんです!」
跳ねるような女性の声。
ーーは!早くしないと迷惑に……
息が乱れそうになるのを噛みしめました。
震えるペン先で記入していきました。
その文字はヨレていました。
女性が本を私に差し出してくれました。
その優しそうな視線も、鼓動を乱しました。
耳まで熱くなってきました。
私は、本を奪うように胸に抱き込みました。
そして、駆けるように図書館を後にしたのです。
--私、そんな本求めておりません!
最後までありがとうございます。
次回も楽しみにしていただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします。




