私の初めての挫折~お嬢様、ダメな私を叱ってくださいませ~
いつもありがとうございます。
今回もよろしくお願いします!
翌朝、客間の扉前
今朝の私は、目は腫れあがっていました。
頭にズキリと痛みが走って、まともに考えられません。
--泣きすぎました……みんなに心配かけてしまう……でも……休むわけにはいかない。昨日もお休みでしたし……私がいないと、お嬢様は困ってしまう。
私の目元はコンシーラーで厚めに隠しています。
そしてチークも強く入れ、眼鏡をかけていました。
目を閉じ、肺の空気を全て吐き切りました。
ポケットにある時計を取り出しました。
時計の針は起床時間を指していました。
再びポケットに戻すと、目の前のドアに拳を当てました。
コンコンコン
静かな廊下にノックの音が響きます。
「お嬢様、起床時間でございます。入室の許可をいただけますでしょうか?」
ーー目が痛い……頭もガンガンする。でも、侍女として完璧でなければならないのです。
背筋を伸ばし、拳を掌が白くなるくらい握りました。
「~~。、~~?、カミラ!?」
「!」
部屋の中から、お嬢様の大きな声が聞こえてきました。
体が跳ねました。
--ぼーっとするなんて!こんな初歩的なミス、侍女として失格です!!
「も、申し訳ございません。失礼いたします……」
目の前のドアを力の限り押しました。
頭を下げて、入室しました。
--このままでは……いけないのです。昨日の事といい、私は本当になにもできない……いっそお嬢様の侍女を辞めた方がいいのかもしれない。
下げた頭を上げられませんでした。
息を殺して、お嬢様の叱責を待ちました。
「……カミラ、どうしたの?もしかして……体調悪い?」
お嬢様の声は胸を抉りました。
--なにもできない私を……心配してくださるなんて……
鼻の奥がツーンと痛みました。
再び目には涙の膜ができてしまいました。
「もっ、申し訳ございません……」
声も涙声になってしまいました。
大きく一つ息を吐きました。
そして顔を上げ、お嬢様の方へ足を進めました。
今にも零れ落ちそうな涙は無視しました。
--お嬢様に仕えることだけに集中しないと。
「! どうしたのその顔!? もしかして……いじめられているの?」
「いいえ、違います! いじめられてなど……ございません……申し訳、ございません……」
顔を見たお嬢様は、目を見開いていました。
私は息が詰まりました。
--こんな顔をお嬢様にお見せするわけにはいかない……
私は、頭を深々と下げました。
「なにがあったの?」
「も、もうしわけ……ございません……」
お嬢様の優しい声が心に沁みました。
私は嗚咽が漏れてしまいました。
声も揺れてしまって、まともに答えられませんでした。
涙が遂に零れ、1粒床に落ちていきました。
一度零れた涙は次々と溢れ、床にシミを作っていきました。
ーー部屋を汚すなんて……侍女として失格なのです。でも、止まらない……
「……言いにくいことなの? 私じゃ、力になれない?」
お嬢様はベッドから足を下しました。
そして、私の目の前まで近づいてきました。
私の組んでいる手を両手で包み込んでくれました。
その指は温かかったのです。
「顔を上げて?」
すぐには従えませんでした。
私は奥歯を噛みしめ、ゆっくりと顔を上げました。
お嬢様と視線が合いました。
そして、優しく微笑まれたのです。
「私はね……、カミラが側にいてくれて、心強いの。いつも私を助けてくれて、本当に感謝してる。だから……私もカミラの助けになりたいの。だめかな?」
「お嬢様……」
涙が更に溢れてきてしまいました。
お嬢様のお顔が見えなくなりました。
--私はなんて幸せ者なのでしょう……
肩の力が抜けていきました。
「だからカミラ、教えて? カミラが泣いてると、私も悲しくなる……」
--お嬢さまを悲しませるなんて、私はお嬢様の幸せのために働いていますのに…。
私は視線を強めました。
重たい唇を開きました。
鼓動がうるさいくらい胸を打ちました。
「お嬢様……、私、結婚したいんです。」
「……え?」
「ですから、結婚したいと、思っています。でも……うまくいかなくて……私は……ダメなのです。」
お嬢様が息を飲む音が聞こえました。
瞳が揺れていました。
私は、息が漏れてしまいました。
--やっぱり……そんな顔しますよね……みんなと同じ。
「カミラって彼氏いるの?」
「いません。」
「……じゃあ、いくつになったの?」
「31歳になりました。」
ーーどうせ無理と言うんでしょう……年増ですから……
「31?全然、大丈夫でしょう?」
「え?」
「え?」
目を見開きました。
お嬢様も同じような顔をされていました。
視線が逸らせません。
「お嬢様……私、31ですよ?」
「ええ、31歳でしょ?」
「ええっと……25歳を過ぎますと結婚は……」
「知ってる。だけど、だから……?」
「へ?」
「25を過ぎても、結婚できるでしょ?」
「……」
言葉が出ませんでした。
涙も引っ込んでしまいました。
「私の前世……んんっ! 夢の中では、むしろ30歳前後で結婚する女性が多かったのよ。25までに結婚する人の方が少なかった。カミラは31でしょ?だったら全然大丈夫。結婚出来ると思うわ。」
お嬢様は目じりを下げました。
--私を勇気づけるためだとしても、夢の中のお話をされるなど……、なんてお優しい。
小さな頃からお嬢様はよく夢の中のお話をしてくれました。
手のひらサイズで四角い“スマホ”を使って遠くの方とお話したり、手紙を瞬時にやりとりされるのだとか。
お嬢様の夢には、いつも驚かされます。
そこでは私は行き遅れではないなんて……
まさに夢の中の夢。
「ぷっ…ふふふ。」
「え?なに?どうしたの?」
私は噴き出してしまったのです。
一度笑いだすと、次々湧いてきました。
--あぁ、やっぱりお嬢様の侍女でよかった。絶対に乳母にならないと!
「お嬢様、ありがとうございます。」
「いいえ、ごめんなさいね……あなたが結婚したいだなんて、今まで気づかなかった。甘え過ぎていたわ、私。カミラのこと、応援してるから!」
お嬢様は頬を緩ませました。
肩に手を乗せてポンポンと優しく叩いてくれました。
私の心が熱くなっていったのです。
その熱は全身を駆け巡り、頬を染めました。
「お嬢様、不甲斐ない私をお叱りくださいませ。」
「何言ってるの? カミラは素敵よ。自信持ちなさい。結婚なんてすぐにできるわ! でも……私がカミラを独占していると、出会いがないわよね……?」
「……」
お嬢様は早く口を動かしました。
私は口をはさめずに、閉じました。
「そうだ! 今日から1週間休みなさい!」
頬を染めたお嬢様は前のめりでした。
私は腰を逸らしました。
--一週間の休み?!
「お、お嬢様、さすがにそれは……お嬢様困りませんか?」
「そんなことより、カミラの出会いよ!! いつ、どこであるか分からないものよ。絶対に逃しちゃダメ!これは命令よ! 休みの間に1回でも出てきたら、休み延長させるから。」
微笑みながらも口調は強いものでした。
あまりの勢いに首を縦に振ってしまったのです。
「あ!」と思った時には遅く、お嬢様は満足げに頷きました。
--こっそり働こうと思ってましたのに、それも見破られました……命令ですし……それに、休みを延長されては、お嬢様が心配すぎて私が困ります!
「そうと決まれば、早速人が多いところにいってらっしゃい!」
お嬢様は、私の背後に回って出口まで押しました。
足が縺れましたが、なんとか堪えました。
首だけ振り返りました。
「承知いたしました! カミラ、出会いを探してきます!」
「そうよ!その調子!!」
出口に着くと、背中の手が下ろされました。
私は振り返り、深くお辞儀をしました。
「お嬢様、1週間お休みをいただきます。」
「カミラ、絶対見つけてきなさいよ!」
「承知いたしました!」
私は、お嬢様に一礼すると他の侍女に引き継ぐため足早に退室したのです。
最後までありがとうございました。
お嬢様、まさかの前世持ちです(笑)
また次回もよろしくお願いします!




