わたしのはじめての賭け~運命をかえられるのでしょうか?~
ここまで、本当に本当にありがとうございます。
感謝感謝です!
では、どうぞ!
~レオンの屋敷、お嬢様の部屋
お昼前の高くなりつつある日が差し込む頃。
唸り声が聞こえそうなほど顔を歪ませたお嬢様と微笑みを絶やさない私が対峙しておりました。
お嬢様の指先が私の手の甲に沈んでいて、血を止めていました。
「カミラは……魔眼でもうおかしくなっているのよ!目を覚まして!」
「いいえ、おかしくなどなっておりません。目を合わせますと人形の様になりますので。」
「その口ぶり……おかしくなったことあるのね……」
「ええ。私はそれでも幸せでしたが……ジグルド様が“普通”の幸せを望んでおりますので……そのために私は動いております。」
お嬢様はそんな大きな声も出せるのだなと思いながら、私は一切表情を変えませんでした。
穏やかな笑みを崩さない私を見て、お嬢様の表情はさらに険しくなっていきました。
まるで別人を見るような顔になっていったのです。
「……私が知っているのは、魔眼と目を合わせた騎士団長様が大切な人の記憶を無くしたことだけよ。カミラが人形のようになるなんて……」
「騎士団長様が……?」
聞いたことがない情報を一言一句漏らさないよう、身体を前のめりにしたのです。
意図的に上げていた口角も下がっていきました。
「ただ……騎士団長様は大切な人のキスで思い出すわ。目を合わせたままキスするの。」
「見つめ合って……。」
私は前回のループで目を合わせた瞬間から体の自由は奪われ、徐々に意識が遠のいていきました。
ジグルド様とそれをするとなると、私の意識がどこまで持つのかという問題があるのです。
また、ジグルド様は私が人形になることを極端に恐れています。
目を合わせてくれるかどうかも分からないのです。
途中で目を逸らしてしまいそうな気がいたしました。
「騎士団長様にお話を聞きたいのですが……」
実際にキスする前に、ご本人から話を聞きたいと思ったのです。
しかし、私の言葉にお嬢様の顔色が無くなっていったのです。
お嬢様は私の手を離し、自らの口を手で塞いだのです。
「お嬢様……?」
まさか、お嬢様に限って嘘をつくとは思えなかったのです。
それにお嬢様は、塞いだ口の奥でブツブツとなにかを呟かれていました。
私はなぜそんな態度を取られるのか理解できず、首を傾げました。
「お嬢様まさか……嘘を?」
信じたくはありませんでしたが、お嬢様の様子からはもう答えはそれしか思い浮かばなかったのです。
しかし、長い髪を揺らして首を横に振り、否定したのです。
「……誰にも言うつもりはなかったけど……カミラは私を信じる?」
試すような視線が私の瞳に問いかけました。
その瞬間、背中にゾクリとした悪寒が走ったのです。
それを知れば後戻りできない――そう告げる覇気に、半歩後ずさりました。
けれども、願いを叶えたい一心で拳を握り、かすれた声で囁いたのです。
「ジグルド様のためなら……。」
お嬢様も緊張されているのでしょう。
お嬢様の喉元が上下に動き、そして唇を噛むとゆっくりと口を開きました。
「私は……前世の記憶があるの……」
「前世……?」
「私の夢の中の話は、全部前世の記憶よ。」
「……」
お嬢様の告白は妙に納得できるものでした。
なぜならお嬢様の夢の中の話は、突拍子もないものばかりなのに、全て理にかなっていたのです。
疑問に思うことはあっても、偶然だろうと思い込んでいました。
「今まで、嘘をついてごめんなさい……」
お嬢様はうつむき加減でぽつりとつぶやいたのです。
唇は噛んでいて、厳しい視線を足元に送っていました。
私はお嬢様の嘘などどうでもよかったのです。
むしろ私たちの未来のためにもっと情報が欲しかったのです。
「まさか、騎士団長様の件は……」
「未来の話よ。この世界は前世の本の中のことなの。だから……カミラの事はわからない。ごめんなさい。」
私は足元から頭のてっぺんに向けて鳥肌が押し寄せるように立ちました。
この世界は本の世界で、お嬢様は未来を知っている。
私の事はわからないと言っておりましたが、試す価値があると思いました。
闇雲に動くより、成功した例に倣った方がよいと思ったのです。
それにジグルド様の完全に閉ざされそうな様子からも、すぐに試した方がいいと思いました。
「お嬢様、私が戻らなければ成功だと思ってください。仮に戻ってきたら……その時は一緒に別の方法を考えてくださいませんか?」
今まではお嬢様には頼られてばかりで、それが私の生きがいになっていました。
今度は逆で恐れ多くも私がお嬢様に頼むなんてと思いましたが、お嬢様にしか頼めないのです。
前世の記憶は、私たちの運命を果たして本当に変えられるのでしょうか。
わからないですけど、なにもしなければ運命は変えられません。
私は、うつむいたままのお嬢様を残して部屋を後にしたのです。
その足音はやけに大きく響いて、後戻りできないことを知らせているようでした。
~ジグルド様の屋敷、お昼
私はお嬢様の部屋を後にして、足早にジグルド様のお屋敷まで訪れました。
お嬢様から得た情報を少しでも早く試したいと思いました。
気が付けば、マナーなど忘れ足が勝手に前に前に急ぐのです。
息が上がり、心臓の暴れる音が耳元にあるようでした。
足を止めたら最後、前に進むことができない気がして警告音のような心音を無視しました。
そうして見えた、古く大きなジグルド様のお屋敷はいつもより迫って来ているような気がしました。
一瞬たじろぎましたが、足は止められないのです。
そして門前まで一気に近づき足を止めると、上体を折って暴れる胸を押さえつけました。
少しでも早くジグルド様の顔が見たいのに、なかなか治まらない呼吸に奥歯を噛みました。
いつもでしたら門は勝手に開きますのに今日に限ってピクリとも開かないのです。
背中に冷たい汗が流れました。
この門はジグルド様の魔法で管理されていて、許可された人間しか通れないようになっていました。
開かないということは、ジグルド様が私に会いたくないということでしょう。
ジグルド様の拒絶に、過去の使者の様に声を枯らして訴えるべきかと思いました。
記憶の中にあるジグルド様は私に応えて門を開けることはなかったのです。
ならばと頭の中にあるヒントを探り出して最適な一手を考えようとしました。
しかし、私は込み上げてくる笑いを抑えることができず、笑ってしまったのです。
「ふふふ……はははははは!!」
お腹がねじれるほど、笑いが止まらないのです。
お腹を両手で抱え、上体を屈めました。
それでも、止まらず目尻に涙まで滲んできたのです。
苦しくて、でも面白くて止まらない私。
酸素が不足してきて、ひーひーと息をしてまた笑いました。
「何がそんなに面白いんだ!!」
一瞬息を止めて込み上げる笑いを無理矢理止めました。
上体を起こして、目尻の涙を指先で拭い門前に視線を移しました。
そこには、前髪を下したジグルド様が顔を真っ赤にして腕を組んでおりました。
その姿に我慢の限界に達し、私は吹き出してしまったのです。
「ぷっ……あはははは!!」
なにがそんなに面白いのか、自分でもわからないのです。
逆に止まらなくて苦しいのです。
私はお腹を抱えて再び上体を折りました。
ジグルド様がだんだん近づいてくる音が聞こえてきて、視界に土に汚れた靴が映りました。
「ひーひー!!」
笑いを止めたくて、必死に空気を吐き出しますが加速するばかり。
遂に、ジグルド様に二の腕を掴まれたのです。
その指は力の配慮など一切なく、痣ができそうなほど掴まれたのです。




