わたしのはじめての賭け~運命をかえられるのでしょうか?~
ここまで、本当に本当にありがとうございます。
感謝感謝です!
では、どうぞ!
レオンの屋敷、お嬢様の部屋
お昼前の高くなりつつある日が差し込む頃。
お嬢様は唸り声が聞こえそうなほど、顔を歪ませていました。
逆に私は、微笑んでいました。
お嬢様の指先が私の手の甲に沈んでいて、痛みを感じました。
「カミラはもうおかしくなっているのよ! お願い! 目を覚まして!」
「……いいえ。私はおかしくなど、なっておりません。……人形のようになりますので。」
「その口ぶり……まさか……!」
「……はい。」
お嬢様の表情が無くなりました。
「私はそれでも幸せでした。でも、ジグルド様は“普通”の幸せを望んでおります。ですから、その方法を調べているのです。」
私は、表情を変えませんでした。
お嬢様の視線は、まるで別人を見るかのようでした。
「情報が欲しいのね。」
「……はい。」
ため息をつかれました。
「……私が知っていることは、魔眼と目を合わせた騎士団長様が大切な人の記憶を無くしたことだけよ。」
「騎士団長様が……?」
「ええ。人形のようになるなんて、知らなかった。」
身体を前のめりに倒しました。
意図的に上げていた、口角も下がっていきました。
「ただ……騎士団長様は、大切な人のキスで思い出すわ。見つめ合ったままキスするの。」
「見つめ合って……。」
「ええ。目を閉じたら、だめ。」
私は息を飲みました。
ーーこれが成功するのか、わかりません……でも、やってみるしかないのです。まずは、団長様の話を聞かないと……
顎を引きました。
「騎士団長様に、お話を聞きたいのですが……」
しかし、私の言葉にお嬢様の顔色が無くなっていったのです。
お嬢様は私の手を離し、口を両手で塞いだのです。
「お嬢様……?」
私は眉をひそめました。
お嬢様は、塞いだ口の奥でブツブツとなにかを呟かれていました。
私は、首を傾げました。
いくら待っても、お嬢様はそのままでした。
「お嬢様まさか……嘘を?」
私の声は微かなものでした。
しかし、お嬢様は長い髪を揺らして首を横に振りました。
「……誰にも言うつもりはなかったけど。」
お嬢様の表情が引き締まっていきました。
その強い視線に喉が鳴りました。
「……カミラは私を信じる?」
背中にゾクリとした悪寒が走りました。
ーーそれを知れば後戻りできない。
そう告げる覇気に、半歩後ずさりました。
けれども、拳を握って囁いたのです。
「ジグルド様のためならば、どんなことでも。」
お嬢様は一度唇を噛むと、ゆっくりと口を開きました。
「私は……私は、前世の記憶があるの。」
動けませんでした。
ーー前世?
「私の夢の中の話は、全部前世の記憶よ。今まで、嘘をついてごめんなさい……」
お嬢様はうつむき加減でぽつりとつぶやいたのです。
唇は噛んでいて、厳しい視線を足元に送っていました。
ーー前世の記憶? ならば、もっと知っているはず……!
私は、一歩踏み出しました。
「では、騎士団長様の件は……もしや?」
「未来の話よ。この世界は前世の本の中のことなの。」
「でしたら!ジグルド様のことも!?」
気が付けば、お嬢様の手を握っていました。
お嬢様は、視線をそのままに力なく首を振りました。
息が止まりました。
「ジグルド様の事はわからない。ごめんなさい……」
私は足元から頭のてっぺんに向けて、鳥肌が押し寄せるように立ちました。
そして、手を離して一歩後ずさりしました。
ーーそんな……でも、試してみないことには……
私は、身体の空気を全て吐き切りました。
「お嬢様。」
お嬢様と目が合いました。
「……私が戻らなければ成功だと思ってください。仮に戻ってきたら……その時は、一緒に別の方法を考えてくださいませんか?」
ーーもう、お嬢様にしか頼めないのです。
返事は待ちませんでした。
私は退出の挨拶をして、早々に部屋を後にしたのです。
その足音はやけに大きく響いて、後戻りできないことを知らせているようでした。
ジグルド様の屋敷、お昼
私は肩で息をしていました。
レオン様のお屋敷を出るまでは歩いていました。
次第に早歩きになっていって、気が付いたら駆けていました。
門の前で乱れた呼吸を大きく吐きました。
なかなか治まらない呼吸に奥歯を噛みました。
いつもでしたら門は勝手に開きますのに、ピクリとも動かないのです。
そのまま待ちましたが、いくら待っても同じでした。
背中に冷たい汗が流れました。
ーーまさか……魔法が解除されてしまったのです!
心臓が暴れて、汗が噴き出しました。
ーーどうすれば……叫ぶ? いいえ、それでは……
治まりつつあった呼吸が大きく乱れました。
なにも浮かばず、時間だけが過ぎていきました。
次第に私は笑いが込み上げてきました。
抑えようとしました。
しかし、堪えきれず噴き出してしまったのです。
「ふふふ……はははははは!!」
お腹がねじれるほど、笑いが止まらないのです。
お腹を両手で抱え、上体を屈めました。
それでも、止まらず目尻に涙まで滲んできたのです。
酸素が不足してきて、ひーひーと息をして、また笑いました。
「何がそんなに面白いんだ!!」
一瞬息を止めました。
込み上げる笑いを身体を揺らして、無理矢理止めました。
上体を起こして、目尻の涙を指先で拭いました。
門の先へ目を凝らしました。
そこには、前髪を下ろしたジグルド様が腕を組んで立っておりました。
その顔は真っ赤だったのです。
その姿を視界に入れた瞬間に、我慢の限界に達してしまいました。
私は、吹き出してしまったのです。
「ぷっ……あはははは!!」
ーー止まらない。苦しい。でも……なにが面白いのか、わからないのです。
私はお腹を抱えて再び足元に視線を戻しました。
ジグルド様がだんだん近づいてくる音が聞こえてきて、視界に土に汚れた靴が入り込みました。
「ひーひー!!」
笑いを止めたくて、必死に空気を吐き出しますが加速するばかり。
遂に、ジグルド様に二の腕を掴まれたのです。
その指は力の配慮など一切なく、痣ができそうなほど掴まれたのです。




