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乳母になりたいので子宝ベーグル片手に婚活した件について。  作者: あゆま3


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わたしのはじめての、運命の抗いかた~普通の幸せを望む王弟殿下~

頭を抱えるジグルド様の前髪は顔の半分を隠しておりました。

私は、その髪を震える指先で左右に分けたのです。

濡れた目元が現れ、金の瞳に陰りを落としているようでした。

ジグルド様の腕が力なく地に落ちたのです。


「運命なんて変えられない……また、同じことを繰り返す……ダメなんだ……!」


どこか遠いところを見るような目でした。


ーー苦しい……でも、


震える膝を隠すように、膝を折ってジグルド様の首に腕を回しました。

耳元にジグルド様の息遣いを感じて、私は不安をかき消すようにひっそり息を吐きました。


「ジグルド様は……私を幸せにしてくれないんですか?」

「……幸せにできないじゃないか! 俺は2回も狂わせた。この魔眼のせいで!! 俺は……もう、疲れたんだ。 俺の人生はこの魔眼で全てを壊していく……! 好きでこの眼に生まれたわけじゃない!! 俺が何をした……?」


呼吸は乱れ、叫んだ言葉は、私の胸を絞られるようでした。


「私は、その眼が好きです。何度壊されても……それでも幸せだと感じるほどに……」


目尻が下がりました。


「俺は普通の幸せがいいんだ……! 2人で笑いあって、時にけんかして……その普通さえも作ってやることができないっ!」


獣が牙を向いて叫ぶような声でした。

耳元で叫ばれた声は耳鳴りとなって、私の脳を震わせました。


ーー魔眼であるがゆえに、苦しんできたのですね……今回も、また、そのせいで……


私は手に汗を握り、背中に汗が伝っていきました。


「……では、私が普通の幸せをジグルド様に差し上げます。運命をねじ曲げて。」

「魔眼のことは……調べ尽くした。この世の本はほとんど読んだ。でも、何を読んでも答えはない。それをカミラがどうできるんだ!?」


早口で揺れるような声でした。

私は震えを隠すように、首に回した腕に力を込めました。


「私も調べます。一人でできないことは、二人でやれば良いのです。なにがあっても、私が付いております! それでも難しいなら、助けを求めれば良いのです。」

「魔眼は、この国の最終兵器だ。力を削ぐなど、そんな人は……いない……」


その言葉で一気に血が頭に上り、ジグルド様の肩を指が食い込むほど掴みました。

そして、肘を張って距離をとり、光を失った金の目を睨み付けたのです。


「そこから……そこから、這い上がるつもりはないのですね?」


息を押さえるように声を出しました。

ジグルド様の震えがピタリと止まりました。

視線が顎先まで上がりました。


「永遠に、お1人でそうしていたらいいです。私は、抗いますので。」


私はジグルド様の肩から手を離し、お腹に力を込めました。

血が全身を駆け巡り、燃え上がるようでした。

ジグルド様の縋るような視線を感じました。

私は無視しました。

立ち上がり、流れるような動きでカーテンシーをしました。


「ごきげんよう。ジグルド様、また。」


私は、完璧な笑顔を創り上げました。

力なく床に座り込んだジグルド様の顔は締まりました。

お手本通りのご挨拶は、静寂に包まれた部屋の温度を下げました。

ジグルド様は、そこからピクリとも動きませんでした。

ドアノブに手を掛け、開けようと引きますがあまりの重さに眉間にシワが寄りました。

両手にして、なんとかこじ開け、振り返ることなく歩みを進めました。

私の足音と、ドアの軋む音が異様に大きく鼓膜を震わせました。


「うわあああああ!!」


閉じたドアの奥でジグルド様の叫びが聞こえた気がしました。

私は、私のやるべきことのために視線を上げました。

そして、お嬢様の元へ帰っていったのです。


レオンの屋敷、お嬢様の部屋


ジグルド様を置いて図書館を後にした私は、すぐさまお嬢様のところへ向かいました。

図書館で初めてジグルド様に出会った日まで遡っていましたので、私は休暇中でした。

お部屋に入ると、お嬢様は豪華なティーセットの前でカップに口をつけていました。


「お嬢様、失礼します。」

「カミラ!」


私に振り向くお嬢様。

その頬は桜色でした。


「休暇中でしょ?嬉しいけど、ダメじゃない!」

「申し訳ございません。」

「今ここに来た、ということは……もしかして、いい出会いがあったの?」


お嬢様は私の姿を目に捉えると、紅茶の入ったカップをソーサーに戻しました。

首を傾げ、伺うような視線を私に送りました。

絹のようなストレートの髪がお嬢様の動きに合わせて、一房肩から落ちていきました。


「ええ、狂おしいほどのお方を……」


私の声は甘く、自らの鼓膜を震わせました。

私の言葉に陽だまりのようなお嬢様の笑顔が、潮が引くように消えていきました。

一方私は対照的に口角を上げ、これ以上ない笑顔でした。


「カミラ……」


瞬きもせずに私を凝視しました。


「……ダメ。諦めなさい。」


ただ事ではない雰囲気に、部屋の空気は立つのがやっとというほど重苦しくなりました。

お嬢様の命令は、予想通りでした。

私は、何事もなかったように口を開きました。


「それには……従えません。」

「……」


お嬢様の視線が鋭くなりました。


「私は、お暇をいただいてでも、彼を追いかけます。」


ーーあ、前にも、こんなことが……


お嬢様は信じられないと言わんばかりに目を見開きました。


「暇? ……カミラ、こないだ相手がいないって、出会いがないって……嘘ではございません。」


お嬢様の瞳は、揺れていました。

喉が上下するのが見えました。

私は引き続き微笑みを絶やさず、ゆったりと口を開きました。


「嘘ではございません。」

「……」


私の声が異様に大きく聞こえました。


「ただ……力が強すぎるのです。乳母にも、なれないかもしれません。」

「……どういうこと?」

「それだけの相手だと言うことです。」

「……」


お嬢様は息を飲みました。

そこから、お嬢様はなかなか動きませんでした。


ーーよかった、察していただけたようです……ならば、


「お嬢様、私はその方と添い遂げたいと思います。」


お嬢様が生まれて、今までに見たこともない目つきでした。

その瞳に私が映っていました。

それは先ほどより厳しく、全身を突き刺すようでした。

しかし、ジグルド様のことを想えばなんてことはなかったのです。

鼓動も跳ね上がることがなければ、息も吸えました。

胸を張って、なにも不安なことなどないのです。


ーーただ、目指すジグルド様との“普通”の幸せのために……


「もう……もう、決めたのね……」

「はい。」


静かに言いました。


「でも、カミラは戻ってきた。……私に、何をしてほしいの?」


お嬢様は息を大きく吐き出し、私から視線を外し、テーブルに落としました。

そして、右手で額を押さえつけ小さく首を振りました。

その様子に私はまた頬が緩んでいきました。


「お嬢様、魔眼。魔眼を聞いたこと、ございますか?」


低い声が二人の間で響きました。

再びお嬢様の視線が私に移り、目が零れそうになっておりました。


「まさか……王弟殿下?!」


私は、あえてなにも言いませんでした。


「そ、そんな!! 雲隠れしてるはずよ! なぜ……?」


お嬢様は両手をテーブルについて乱暴に立ち上がり、椅子が後ろに倒れました。

その音が嵐のようで、お嬢様の心情を表しているようでした。


「だめよ!! 絶対にダメ!! カミラがおかしくなる!!」


両手で私の手を取りました。

お嬢様の柔らかな手が私の固い手に食い込んで、熱を奪い取られるようでした。


「私が王弟殿下……ジグルド様を捕まえたのです。」

「……つかまえた?」

「はい。私は、ジグルド様と“普通”に幸せになりたいのです。ジグルド様も、望んでおります。」


お嬢様の顔はみるみる赤くなっていき、小刻みに震えておりました。

唇を噛んで、鼻の頭にシワが寄っていました。

私はまた、頬が緩んだのです。

最後までありがとうございます。

次回も楽しみにしていただけたら嬉しいです!


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