↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乳母になりたいので子宝ベーグル片手に婚活した件について。  作者: あゆま3


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/28

私のはじめての狂気~人形は狂気を愛と呼ぶ~

いつもありがとうございます。

今回もよろしくお願いします!

路地裏、夜


暗くすえた匂いがする路地裏に、ジグルド様が現れました。

シルエットしか分からなくても、その声で分かりました。

私の冷たく固いタイルに押し付けられた身体は、火を灯したように熱くなりました。

暗く見えるはずがないのに、網膜に焼き付けるように一点集中して目を向けました。


「誰だお前! どっかいけ!!」


男の肩の食い込んだ指先に皮膚が粟立ちました。

鼻をつく香りに吐きそうになりました。

男は唾を撒き散らしながら、ジグルド様に怒鳴りつけました。

酒で赤くなった顔をさらに赤くして、男は更に私の肩に指を沈めました。

私は、顔が歪み、痛みで声が出せませんでした。


「どこかへ行くのは……お前だ!」


張り上げ、近づいて来るジグルド様。

足を止めて、左手を男に向けてかざしました。

すると、一瞬にして目の前から男が消えました。

私は、庇うように掴まれた肩を手で押さえつけました。

触れるだけで痛みが走り、その場に膝をつきました。

小さな石が血がにじむ膝に食い込んで、痛めつけていきました。


「うわああ!!」


高い場所から、男の声が聞こえました。

声のする方へ視線を向けると、両手足を懸命に大きく振り続ける男が宙を舞っていました。


「下ろせー!!」

「……失せろ。」


ジグルド様の低く、腹の底から出る怒声に、私は全身の筋肉が縮こまりました。

軽いボールのようにそのまま男は表通りに吹き飛ばされました。

そして、屋根の高さから急降下し、尻餅をつきました。


「ぐわっ!!」


地面にたたきつけられた音は、ただ事ではないことを物語っていました。

ジグルド様は、まだ腕を男に向けたままで、鼻で笑いました。

その笑い声にその場の空気が凍てつき、私も喘ぐような呼吸しかできないのです。

危機を察知した体はピクリとも動かないのです。


「もう一回行くよ?」

「ひぃぃぃ!バケモノ!!」


金縛りが解けたように男は、四つん這いになって離れていきました。

立ち上がり、腰に手を当て、転倒しながらどこかへ逃げていきました。

次第に、男の影が見えなくなりました。

男の背中からジグルド様の方へ目を向けました。

前髪を掻き上げ、魔眼を晒しました。

暗い路地裏にそれは、星のように輝いて見えました。

私は、ため息が漏れました。

膝の力が抜けてしまって、地面にお尻がつきました。

身体は、ガタガタと震え腕を身体に巻き付けました。

顔に熱が集まってきて、鼓動も苦しくなるほど胸を打ちました。

自然に瞼も目尻も下りて、口は中途半端に開きました。


「カミラ、なぜここにいる?」


責めるような厳しい声でした。

しかし、私はなにも言えませんでした。

背筋はゾクゾクと震えました。


ーージグルド様が来てくれて、嬉しい、だなんて……


私は熱い息を吐きました。

ジグルド様からは、厳しい視線が刺すように向けられました。


「……っ、ジグルド様……」

「……」

「会いたかった……」


私の声は甘く響きました。

それは、この路地裏にはふさわしくない響きでした。

ジグルド様は更に視線を鋭いものにして、口は一文字に結ばれました。

ひれ伏したくなる圧力を皮膚に感じました。

こめかみから、汗が一筋流れていきました。

腹に力を入れて、ジグルド様に視線を留めました。

しかし、縮こまる身体に限界に近いことを知らせました。


「……カミラは人形になりたいの?」

「わたしは、ジグルド様のお側にいられるなら……」

「怖くは、ないの?」

「……」

「カミラ?」

「……本望ですので」


ジグルド様から、なにも返ってきませんでした。

私は、呼吸の音だけを聞きました。

冷えていた指先を握り込んで掌に爪を立てました。

痛みが走りましたが、息が吸えました。

ジグルド様の瞳が揺れて、それが星の瞬きのように見えました。


「狂ってる……いや、狂わせたか……」

「いいえ。ジグルド様」

「……」

「狂っているくらいがちょうどよいのです。」

「そんなはずはない!」

「私は、それほどジグルド様を求めているのです。」


滑らかに舌が動くことに、伝えきれなかった想いを乗せて言葉を紡ぎました。


ーーもう怖くない。だって、ジグルド様さえいてくれれば……


肺に空気をたっぷり取り込みました。

震える体も、力の入っている肩もほどけていきました。

ジグルド様は肩を落として、視線を私から逸らしました。

そして、くすっと一度笑うと、一歩一歩踏みしめるように、私に近づいてまいりました。

私の目前で立ち止まると、金の魔眼が私を照らしているように見えました。

絡めることはできませんが、その輝きに見入ってしまいました。

私は首を傾げました。

ジグルド様に向けて、手を大きく広げました。


ーー私は……ジグルド様を信じ切れなかったんですね……そんな自分を責めすぎていた。だから、あんな人形ことに……


「ジグルド様、さぁ。」


腕を振りました。

ジグルド様は動きませんでした。

それでも、私はそのまま腕を出し続けたのです。

ジグルド様は、気に入らないと言わんばかりに、顔まで背けてしまいました。

私はこみ上げてくる笑いを堪えきれずに、息を漏らしてしまいました。


「ぷっ……クスクス……」

「笑うな!」

「あははは!」


再びその金の目が私に向けられました。

頬が緩み切ってしまいました。

いよいよ込み上げる笑いを、止められなくなってしまったのです。

ジグルド様が、私の手首を取って、引き上げました。

そして、軋むほど抱きしめました。

私は、鼻からたっぷりと香りを取り込みました。

ムスクの香りが広がって、肩口に顔を押し付けました。

体温が全身に伝わっていって、合わさった胸から鼓動が重なりました。

それは、無くしたものを取り戻したように熱を生み出しました。

背中に腕を回して、滑らかな肌触りのシャツを指先でなぞりました。


「俺が、捕らわれたのか?」

「え?」

「俺がカミラを捕らえたと思っていたのに……」

「今更ですか?」


再び笑いが、込み上げてきました。

なかなか止まりませんでした。

両頬を掌で挟まれて、ジグルド様が唇を押し付けてきました。

少しかさついている唇は以前と一緒でした。

ムスクの香りが頭の芯を痺れさせました。

そして、私はそっと瞼を閉じたのです。

最後までありがとうございます。

あと少し。寂しいですが、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。