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乳母になりたいので子宝ベーグル片手に婚活した件について。  作者: あゆま3


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20/28

私のはじめての真実~知らない方がいいこと。~

今回もよろしくお願いします。


ジグルドの屋敷


お屋敷は一歩踏み入れたその場から本が積み上がっていました。

床はほとんど見えなくて、息が漏れました。

ジグルド様はすでに奥に進んでいました。

本と本の隙間に足を踏み出して、どんどん先に進んで行きました。

私もその足元を見逃さないように、視線を落として足を踏み出しました。


「きゃっ……!」


同じ隙間に足を踏み入れましたが、身体が傾いてしまいました。

握った手を引っ張りましたが、ジグルド様はピクリとも動きませんでした。


「大丈夫?」

「は、はい……すみません。」

「いや、いい。俺こそ気が急いでしまって……ゆっくりいくよ。」


振り返ったジグルド様の声は揺らいでいました。

私は、なにも言えませんでした。

ジグルド様は私の返事を待たずにまた一歩進みました。

今度は歩幅が狭く、ゆっくりとした足取りでした。

ジグルド様の手はわずかに湿っていました。

しっかりと指は絡まっていて、まるで逃さないと言わんばかりでした。

日光が大きな窓から差し込んだ廊下は、いつまででも本ばかりの風景が変わりませんでした。


ーーどこまで連れていかれるのでしょう……


私は、指先に力を込めました。

すると、ジグルド様は握り返してきました。

足に注意を払わないといけないのに、そちらも気になって、何度も手を引っ張る事態に陥りました。

それでも、どんどん奥へ進み、やっと一段と豪華な装飾が施された部屋の前で足が止まったのです。

ジグルド様は金色のドアノブに手を掛けました。

それは低く呻き、簡単に開いてしまったのです。


「カミラ、入って?」


ジグルド様がドアを押さえ、顔を傾けました。

私は唾を飲み込みました。


ーーここに入ったら……もう、戻れない気がする。でも、昨日、決めた。


ジグルド様の顔には、表情はありませんでした。

私は、息を詰めました。

そして、目を凝らし、髪で隠されている目元の辺りに注目しました。

その視線に応えるように、視線が返ってきたのです。

私は首筋に震えが走りました。

膝が屈しそうになりましたが、息を堪えました。

目を逸らしたくなりましたが、絶対に目を離してはいけない気がして、なお一層鋭い視線を送ったのです。


「……私は今から人形になるのでしょうか?」

「ははっ! なぜ、そう思ったのかな?」

「……今朝のこともありますので。」

「あ、逃げ出したことかい?」

「……」

「気にしてないよ。まぁ、次逃げ出したら分からないけど……」


瞬きを忘れました。


ーーこれは……本気です。あのまま、朝を迎えていたら私はもう外には出られなかったかもしれないのです……


金縛りに会ったように動けませんでした。


「まぁ、中に入ってよ! 俺だって緊張しているんだ……君がそんな反応するか……」

「い、いえ……私は……」

「ストップ。」

「……え?」

「ゆっくり話そう。」


握った手を胸の高さまで上げて、ジグルド様は指先の力を強めました。

痛みが走りました。

歪みそうになる顔を奥歯を噛んで耐えました。

ジグルド様は怒っていた肩を少しだけ落として、口元に微笑を浮かべました。

私も肩の力が抜けていきました。


ーー私に選択肢を与えています……こんな、私のために。


私は部屋に入らずに、ジグルド様に一歩近づきました。

ジグルド様は同じように一歩退いて、背中に扉が当たりました。

もう一歩足を踏み出しました。

ジグルド様はもう、後ろには引けません。

そこで、少しだけ顎を上に傾けました。

そして、瞳を閉じたのです。

すると、耳の下から顎にかけてジグルド様の少し骨ばった指先がなぞりました。

私は、身体が微かに跳ねてしまいました。

ジグルド様に固定するかのように顎を摘まれました。

心臓の音がジグルド様に伝わりそうなくらい、高鳴りました。

唇に柔らかな感触が触れました。

上腕にジグルドの指が食い込み、骨にまでその圧が届きました。

重なった唇が熱を奪い合うようでした。

離れる瞬間に吸われ、音がしました。


「……ねぇ、俺の話、聞いてくれる?」


ジグルド様の声は、低く重苦しい声でした。

私はゆっくりと首を縦に振りました。

視線を部屋の中へ移して、踏み入れたのです。


ジグルド様の主室


まず、中央にあるベッドが目に飛び込んできました。

シーツがシワだらけで昨夜の情事の残骸がそのままになっていました。

昨夜の記憶が蘇って来て、思わず目を伏せて床に散らばる本に視線を落としました。


「……」

「あぁ……昨日のままだね。」


背後からあっけらかんとした声が聞こえました。


ーーわざとこの部屋に招いたのであれば、これにも意味があるのでしょう。


私は、握り拳を作りました。

背後から蝶番が軋む音が響いて、扉が閉まる音がしました。

ジグルド様が私に近づいてくる足音がして、膝の力が抜け落ちそうになりました。

奥歯を噛んで、重い体を無理やり捻りました。

ジグルド様の口元は一文字でした。

息を最低限浅く繰り返し、手は血が止まって白くなるほど握りました。

ジグルド様は私の前で立ち止まりますと、力んで微かに震える私の手を取って指を絡ませたのです。


ーーあったかい……


強引な行動とは裏腹に、ジグルド様の手は微かに震えていました。

私はその手から視線を逸らせませんでした。

私の手がしっとりとしてきて、ジグルド様の手を濡らすのです。

頭上から息を吐く音が聞こえてきました。


「カミラ。」

「……はい。」

「もっと早い段階で伝えるべきだったとは思う。」

「……」

「君はもう気付いていると思うけど……俺は、むやみに種を蒔いたらいけない身分だ。」


ーーやはり……そう、でしたか……


無情にも淡々と話すジグルド様でした。

しかし、繋げた手に指がめり込んでギリギリと骨が軋んでいました。

その痛みが現実であると、知らせるようでした。

顔は、見れませんでした。

目を伏せて、散らばる本に視線を落としました。

どの本でもよかったのですが、傍らにあった借りたことのある子ども用の絵本が目に入りました。


ーー身分を隠した王子と冒険した女剣士は過去のトラウマを超えて、二人は身分を超えて結婚して幸せに暮らしたお話


以前、ジグルド様に貸していただいた本でした。

しばらく、二人は動けませんでした。


「カミラ、こっち向いてくれるか?」

「……」

「今から顔を見せる。ただ……俺の目と合わせないで欲しい。」


絵本から視線を再びジグルド様に引き戻しました。

ジグルド様の手が私から離れていき、両手が前髪の下に差し込まれました。

鼓動はもう壊れるのではないかというほどでした。


ーー怖い……でも、昨日、決めた。


立っているのがやっとでしたが、視線は逸らしませんでした。

指先が髪を上げていきました。

髪を後ろになでつけると、人外の美貌がそこにありました。

息が止まりました。

視線はとどまり続け、逸らすこともできません。

時間をかけて、瞼が持ち上がりました。

光の下で見えた伏せられたジグルド様の瞳の色は……

光を跳ね返すような、黄金瞳がそこにはありました。

金色の瞳を持つ男で、ジグルド様という名前。

紛うことなき、“魔眼持ちの王弟殿下”だったのです。

その瞳の輝きに、両膝が折れ床に着きました。

もう息の仕方も忘れて、迷うことなくその場で頭を垂れました。

体の先から全身が凍り付いたように冷えていき、痙攣に近い震えが全身を襲いました。


ーーま、まさか……王弟殿下だったなんて……! 消息不明だったはずですのに……なんで……?


「……っ、ご無礼を……いたしました。」


やっとの思いで出せた声は、ちゃんと言葉になっているのか分かりませんでした。

喉は締め付けられて、一音を発することさえも拒むのです。

目から勝手に落涙して、はっきりと目の前が見えなくなってしまいました。

呼吸は乱れて、それに伴って心臓も限界まで打ち鳴らして苦しいのです。

ただ、嗚咽だけは漏らさまいと奥歯を噛みしめたのですがガチガチと鳴って二人だけの静寂を汚していきます。

汚れたジグルド様の靴と無情にも絵本が視界に入って、その本を睨むように眺めました。


最後までありがとうございました。

ジグルド様の正体がわかりましたね。

人形は目を合わせればなっちゃう仕様です。

次回もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
え、大変な仕様ですね!?
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