私のはじめての理性の敗北〜顔を隠した支配者の手をとる?〜
急展開です。
よろしくお願いします。
ジグルドの屋敷
私の手首には、ジグルド様の指が巻き付いていて、引っ張られていました。
それは、ギリギリと音を立てるほど強い力でした。
足を縺れさせ、お屋敷の中へ踏み入れました。
そこは以前同様に本、本、本の山。
しかし、それが目に入ってきても私はなにもできませんでした。
ーー私……おかしい。ジグルド様にこうされて、嬉しいと思ってる。けど……私は、仕事しかできない、年増。迷惑でしか……ない。
呼吸が乱れました。
視線も上げられなくて、流れる床をただ見つめました。
一方ジグルド様は何も言わず、どんどん奥に進んでいきました。
ーーここを進めば……もう、元には戻れない気がします。
ジグルド様は、最奥の一際豪華な扉を開けました。
私は目を泳がせました。
手を引こうにも、強い力で阻まれどうすることもできませんでした。
部屋の中に入り、後ろでドアの閉まる音がしました。
ジグルド様はまだ、手を離してはくれませんでした。
「カミラ……他の男と会う君を、俺がどんな気持ちで待っていたかわかる?」
「……」
「嬉しそうだったね。楽しかったかい?」
低く、ゆっくりした口調で私に問いました。
手首を掴む指が更に食い込み、私は顔を歪めました。
「俺はね、カミラを人形のようにして、自分のものにすることもできるんだよ?」
「……え?」
「だけど、俺がカミラをそうしなかった意味、わかる?」
「……」
「わかってるよね?」
「……私は……そう、思われる理由がございません。年増で、憐れで……汚れた女。ですから、ジグルド様には……」
「そんなの関係ないよ? じゃあ、なんで今日、ここに来たの?」
「……」
「……来なければ、俺は諦めるつもりだったよ? でも、君が自らここに来たんだ。それなら……遠慮いらないよね?」
私は、何も言えませんでした。
でも、ジグルド様の手を……取ったのです。
ジグルド様の顔が近づいて、目を閉じました。
唇に触れる柔らかい感触。
私は、背中に腕を回しました。
そうして、共に一夜を過ごしたのです。
深夜、主室(ジグルドの部屋)
誰もが寝静まる時間。
私は、静かに目を開けました。
窓からほのかに差す月光が、ぼんやりと私たちを照らしました。
隣から寝息が聞こえてきて、上体を起こしました。
ジグルド様を捉えると、前髪が顔の半分を隠していました。
遂にその瞳を見ることはできませんでした。
ーージグルド様……
私は、長いため息をつきました。
身体は重く、頭が痛みました。
でも、熱くなる頬を止められませんでした。
ーー今までの人生でこんなに人に求められることは、あったでしょうか……
腕を自分の身に巻き付けました。
私は、身体の芯から震えていました。
ーーこれが幸せ? でも……ジグルド様を本当に選んでよかったのでしょうか……顔も素性もわからないこの方を……
息が詰まりました。
しばらく、シーツのシワを眺めて動けませんでした。
ーーもういっそ、人形のようになってジグルド様の側にいるほうが幸せかもしれません……
私は、頭を振りました。
そして、ジグルド様に気づかれぬようベッドから足を下ろしました。
落ちていた服を身につけ、お屋敷を去ったのです。
そう、窓から私の去る姿を眺めているジグルド様の射貫くような視線にさらされているとも知らずに。
その口元は、何かを呟いていました。
朝、お嬢様のお部屋
「カミラ! 昨日はどうだったの? 話聞かせて!!」
私が入室しますと、お嬢様はベッドの上で上体を起こしていました。
お嬢様は、両手を広げ甲高い声を出しました。
私は一瞬動きが止まりました。
「素敵な殿方でしたよ。でも……」
「でも? なに? タイプじゃなかったの?」
「いえ、私にはもったいない方でした。」
ーーこの口は……よく、言えます……
何もなかったようにベッドに近づきますが、その足取りは重かったのです。
お嬢様を見れなくて、焦点は定められませんでした。
ベッドの前までやっと近づけました。
「そんなことはないわ! カミラは充分魅力的よ!」
お嬢様が私の両手を取りました。
その指は柔らかく、温かかったのです。
私の固く、ささくれた手とは、違いました。
そっと手を、払いました。
「カミラ……?」
お嬢様の顔色が無くなっていきました。
胸がツキリと痛みました。
口元が歪みました。
「お嬢様……折り入って、相談がございます。」
「なに? どうしたの? あ! もしかして、いい人できたの?」
「いいえ……私を、帰らせていただけませんか?」
お嬢様の瞳が揺れました。
唇は微かに震えていました。
ーーお嬢様を……こうしてしまう私は、もう、ここにはいられないのです。
それに……ジグルド様とも離れたいのです。昨夜は、一時の迷いだったのかもしれないので……
しかし、お嬢様は一向に頷こうとしなかったのです。
拳を握り、震えておりました。
「お、お嬢様?」
「……わたしのせい?」
「え?」
「私が乳母になってって煽ったから、そうなったの?」
「い、いえ!そのようなことでは……」
「じゃあ、なに? 私のこと、そんなに信用できない? 私だけ? カミラと仲良しだと思っていたの?」
「……」
「なんでなにも言わないの? 何かなのか言ってよ! カミラ!!」
何も反応できませんでした。
時計の音だけが部屋に響きました。
「お嬢様は……狂おしいほど人を好きになったことはありますか?」
私から零れた言葉に、お嬢様の喉が上下したことが見えました。
ーーお嬢様に……なんてことを……でも今伝えないと、このままではもういられないのです。
「本当どうしたの?いつものカミラじゃない!」
「いえ、そんなことは……」
「……」
お嬢様が目を伏せました。
「お嬢様……」
「カミラは……そんな人ができたの?」
「……」
「そう。できたのね……」
お嬢様は長い息を吐きました。
「どこの人なの?」
「そ、それは……」
ーー言えない……ジグルド様のことを……
「ライラの紹介した人じゃないのね?」
「……」
「紹介しなさい。」
「え……?」
「私のカミラをこんなにした男を紹介しなさい! 私が見てやるっ!」
「お、お嬢様?」
「命令よ!!」
「は、はい……!」
お嬢様は叫びました。
私は全身の力がすっと抜けていくことがわかりました。
ーージグルド様をお嬢様に!? ……紹介できないかもしれません……。
「お嬢様、あのっ、危険かもしれません。お止めいただいた方が……」
「危険!? どんな男よ!!」
「いえ、そのっ」
「カミラ本当に大丈夫?悪い男に引っかかったの?」
「……」
「否定しないのね……」
お嬢様はベッドに戻って座り込みました。
「真面目なカミラがね……そりゃ、そうなるわよね……今まで男っ気なかったし……甘い言葉かけられたのかしら……ホストみたいな男かしら?」
お嬢様はブツブツと早口で独り言を呟きました。
「……申し訳ございません。ですから……私を帰らせていただけたら……」
「それは、だめ! カミラは私の侍女なんだから。いなくなると困る。」
胸が締め付けられました。
ーー困りました……
結局、お嬢様の命令には従うしかなく。
お嬢様の婚約者であるレオン様の出立を待って、ジグルド様のお屋敷に行くことになったのです。
表情には出しませんでしたが、身体は力んでいました。
最後までありがとうございます!
次回、ジグルド様VSお嬢様。
お楽しみに。




