私のはじめての穏やかなデート~本当に彼でいいのでしょうか?~
いつもありがとうございます!
デートいきますよ!
よろしくお願いいたします。
私は唇をこすりながら走っていました。
息は切れて、足はなかなか上がりません。
ーー応援するって言っていましたのに……なんであんなこと……
屋敷を捉えた時、足が止まりました。
膝に手をつきますと、額から汗が地面に落ちていきました。
呼吸が整うまで、私はそこから動けませんでした。
それからは、仕事に打ち込みました。
何か言われる前に、先回りして用意したり、念入りに確認したり……。
ライラは私の顔色を何度も見ていました。
その視線に私は気付いていましたが、あえてなにも言わなかったのです。
これがデートの日まで続いたのです。
デート当日、レストラン
私は今お嬢様のお薦めで白いワンピースを着ていました。
髪も編み込みして、濃いブルーのリボンで飾っていました。
目の前には、ライラの紹介で会うことになったジョーさん。
ジョーさんは笑うと目尻が下がる方でした。
視線を彷徨わせると自然豊かな山林が一望できました。
私たちはテラス席で、鳥のさえずりを聞きながら会話を楽しんでいました。
「本当にカミラさんみたいな綺麗な人が僕と会ってくれるなんて……嬉しいです。」
視線を下げて頬を染めていました。
私もつられてしまいました。
「ありがとうございます……私も、嬉しいです。」
口角を上げますが、笑えているかわかりませんでした。
「ライラから聞いた時は、嘘かと思って……侍女をされているとか……」
「ええ、生まれた時からお嬢様に仕えています。」
「僕みたいなレンガ職人にはもったいない……」
「いえ、ご縁、ですので……」
ーー素敵な方。でも……ジグルド様……
ジョーさんにわからないように、少しだけ唇を噛みました。
長めの息を静かに吐くと、目の前の皿に視線を止めました。
お店一押しのハンバーグはたっぷりのデミグラスソースが掛かっていて、肉の甘い香りがしました。
フォークで突きすぎて、ハンバーグは崩れてしまいました。
口に運び咀嚼しましたが、なかなか喉を通りません。
ーー彼と……家庭を築くなら……だめ、全く想像できない。
ついに、私はフォークとナイフを置いてしまいました。
「カミラさん、どうしました?」
視線を上げると、ジョーさんは首を傾げていました。
「ちょっと、緊張しちゃって……」
「はは……僕も……です。」
「……」
鳥の声だけが耳に届きました。
「ところで……カミラさん。こんなこと、聞くのもどうかと思ったんですが……」
「なんでしょうか?」
「ライラから、すぐにでも結婚したい事情があると聞いています。」
「あぁ……はい……実は、お仕えしているお嬢様にお子様ができましたら、乳母になりたくて……それで、早く結婚したいのです。」
言葉の途中で、全身に鳥肌が立ちました。
ー……結婚するなら、ちゃんと話さないと。
「じゃあ、僕、頑張らないといけないですね。」
息が止まりました。
顔を上げると、目が合いました。
ジョーさんは、頭に手を当てて頬を染めていました。
「っ!」
ーーなんで?!ジグルド様のことが思い浮かぶの?
胸が締め付けられて、その前で手を組みました。
ーージョーさんの方がいい家庭が持てる。あんな正体不明の危険な男なんて……!
頭を振りました。
「カミラさん?」
「い、いえ……ちょっと……はしたなかったかなって。」
「そうですか……」
私は、ジョーさんに分からないようにそっと息を吐きました。
顔は笑っていても、食事はまるで砂を噛んでいるようでした。
そして、食事が終わり、店の外に出ました。
ただ食事しただけですのに、私の身体は重く鉛を引きずっているようでした。
私たちは、店先で向かい合いました。
「カミラさん、今日はありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとうございました。すみません……緊張しちゃって……」
「僕の方こそ、女性と食事なんて初めてで……あの、僕、もっとカミラさんとお話したいんですけど、この後、どうですか?」
「……」
ジョーさんは顔を真っ赤にして、拳を握りしめていました。
私は、身体が固まってしまいました。
頑張って作っていた笑顔もとうとう青ざめて表情が抜け落ちていく感覚がしました。
ーーあの時と一緒……でも、この方はあの騎士とは違う。
息を吐きましたが足は震え始め、一歩後ずさりしました。
ーーだめ、もう耐えられない。
走り出そう足を出した時、私の名前を呼ぶ声が聞こえました。
「カミラさん!」
振り返るとそこには、手を挙げて駆けてくるライラ。
「ライラ! どうしたの?」
「ちょっと心配になったので!」
「ライラ、僕、今からカミラさんを誘おうと思って、」
「ジョー兄さん、最初のデートでがっついちゃダメ!今日はこれで、また今度デートしたら?」
「え? ……そうか、残念だ。わかった。じゃあ、また今度にするよ。カミラさん、楽しかったありがとう。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
ジョーさんは肩を落として、小さく手を振って帰っていきました。
小さくなる背中を見送った後、私はライラに振り返りました。
「ライラ、なぜいるのです?」
ライラは大きく体を揺らしました。
視線を泳がせ、微かに口を動かしていました。
「えっと……ごめんなさい! ずっと見ていました!!」
ライラは、頭が膝につきそうなほど身体を折り曲げました。
私は目を見開きましたが、身体の力を抜きました。
「ありがとう……緊張しちゃって……今日は本当に疲れた……」
「そうですよね!いつもと違うことしたら、疲れますよね!!」
ーー本当はジグルド様のことでいっぱいで疲れたなんて言えない……
「心配してくれてありがとうライラ。せっかくの休みでしたのに……」
「カミラさんのためなので!」
「ふふっ……私は気分転換して帰るから。これで子供にお菓子でも買ってあげて?」
私は心ばかりをライラに差し出したのです。
ーー早く……一人になりたいのです。それに……いろいろ聞かれても、答えられない。
「え、そんなつもりでは…!」
「いいえ、だめよ?それとも……先輩に恥かかせるの?」
「ううっ…、ありがたく頂戴します。」
「ふふっ」
私は、ライラの手に心ばかりを握らせました。
それから、私はライラと別れ、ただ道を進みました。
ただ、見たこともない道でした。
慣れない靴のせいで靴ズレを起こして、小指が痛みました。
ーー痛い。でも、止まりたくない。わからない。ジグルド様のことばかり頭に浮かんでしまう……
気付けば見たことのある道に出ました。
一度歩みを止め、靴を眺めました。
爪が食い込むくらい拳を握ると、顔を上げ、一歩踏み出しました。
その先を踏み込むように進んで行ったのです。
しばらくすると、ジグルド様のお屋敷を捉えました。
ーーわからないならば、直接会うしかない! この気持ちがなんなのか、はっきりさせます!
門の前まで来ると、立ち止まりました。
心臓が締め付けられるように痛みました。
それがだんだんと身を裂くような痛みに変わっていきました。
私は胸の前で手を組み、強く握りました。
ーーついに、来てしまった……
急に足が竦んでしまいました。
回れ右をして、一歩踏み出そうとしました。
「カミラ!」
私の名前が呼ばれたと同時に、背後から体温を感じました。
ムスクの香りがして、息を飲みました。
ーージグルド様……
回された腕は強く、私を逃さまいと食い込みます。
ジグルド様は、息が乱れておりました。
私は何度か身体を捩りましたが、その腕はビクともしませんでした。
そして、遂に身体の動きを止めました。
「ジグルド様、お止めください。」
抑揚のない、冷たい声。
その言葉とは裏腹に、心臓が壊れそうなほど高鳴っていました。
「なんで? 逃げるでしょ?」
いつもの茶化した言い方ではない、真剣な声が耳に届きました。
「……私は、逃げません。お願いです。離してくださいませ。」
「本当に?」
「はい。」
「約束だよ。絶対に、絶対!逃げないで。」
「……」
私は静かにうなずきました。
抱き付かれていた腕がほどかれ、代わりに右手首を掴まれました。
掴まれた手首が軋んで痛みました。
ーーどうして?わからない……私をどうしたいのかも……
最後までありがとうございます。
次回、楽しんでいただけるように頑張ります。




