私のはじめての紹介~え?本当に紹介してくださるのですか?!~
食堂、お昼。
あの日からライラは私の近くでサポートしてくださるようになりました。
お嬢様が座学に向かわれましたので、その隙に少し遅い昼食を2人で取っておりました。
観光地になる前は【小麦だけの街】と言われていただけに、パンが本当に美味しいのです。
使用人ですのに必ず焼きたてをいただけますので、中はふわふわで、真っ白で輝いているのです。
湯気が立っていて、その香りに包まれながら一口をいただけることは本当に幸せなのです。
「カミラさん本当にパン好きですよね~!」
「す、すみません!はしたなかったですね…。」
「いいじゃないですか!私はそっちのカミラさんのほうが素敵だと思います!」
笑いながらライラも一口パンを噛りました。
なんでもない使用人の雑談だったとしても、私にとっては新鮮だったのです。
商会にいる頃は、視線を向けるだけで他の同僚は肩をすくめ下を向いていたのです。
まるで腫れ物を扱うような態度にいつからか業務連絡しか話さなくなりました。
それがトリティクムに来てからは、笑いながら食事を摂れるなんて。
本当にライラは優しいのです。
「カミラさん…ずっと言いたかったんですけど…。」
「ライラ、どうしたのです?」
ライラはもじもじとトマトをフォークでつついていたのです。
「まだ、乳母を諦めてないですか?」
ライラは何が言いたいのでしょうか。
やっぱりライラも無理だと言いたいのかもしれません…。
仲良くなったと思っているのは私だけで、実はライラはそうは思ってないのかもしれないのです。
私は無表情になって、口を開きました。
「はい。乳母になりたいです。」
「あのっ…実は…いとこのお兄ちゃんに会ってみて欲しくて。今年33なんですけど、親を亡くして兄弟を1人で育ててたら結婚のタイミングを逃しちゃって。いい人なんですけど…カミラさんどうですか?」
先日のこともあったから、ライラは口にするのを待っていたのかもしれないのです。
そんなライラが紹介してくれる人なのです。
きっといい人に決まっているはずです。
ジグルド様も慣れないといけないとおっしゃられていましたし、会った方がいいと思いました。
怖い気持ちもありましたが、前に進まないといけないのです。
「少しだけなら…ライラ。ありがとう。次の休みとかどうかしら…?」
「カミラさんありがとうございます!絶対お似合いだと思うんです!!早速にお兄ちゃんに連絡とってみますね!!」
それから、ライラはいとこのお兄さんの話をたくさんしてくれました。
親を亡くして、一人働いて兄弟を育て上げたこと。
兄弟は独り立ちして、一人暮らしなこと。
仕事はレンガ職人なこと。
趣味は花を育てることで、いつも家には花が飾っていること。
話を聞くかぎり、とても優しそうな人なのです。
私は、今度こそ前に向いて進みそうな予感に胸が高鳴ったのです。
しかし、いい人そうなだけに私のトラウマでどうにかなった時のことが怖かったのです。
きっと私は大丈夫なのです。
いいえ…、大丈夫でなければならないのです。
~サラお嬢様の部屋。
座学が終わり、お嬢様と先生にお茶のご用意をしてまいりました。
今日のお茶はお嬢様が東の果ての国より輸入した緑茶です。
色は緑色で、少し苦みがありますが独特の甘さを感じてすっきりした味わい、そんなお茶なのです。
お嬢様は特にこのお茶が気に入っておりまして、毎日1杯は求められます。
今日の先生は騎士団の軍医であられるウィル様でした。
ウィル様は中性的な独特の魅力のある殿方です。
話し方は女性のようですが、よく見るとのどぼとけがあるので男性と知りました。
「うわ~今日は緑茶なのね~!」
「先生知っているんですか?私、大好きなんです!」
私はお嬢様が仕入れる前までは知らなかったのですが、ウィル様はご存じのようでした。
勉強中頻繁に入室しようとするレオン様に注意するウィル様にお嬢様はすっかり懐いてしまいまして、仲の良い友人のように見えました。
お菓子はお嬢様のお好きなおだんごを。
ウィル様に差し出し、次にお嬢様に差し出そうとした時、お嬢様が口を開きました。
「あ、先生!カミラにいい人いないですか?騎士団の人以外で。」
「え~!騎士団以外~?騎士団ならたくさんいるわよ~。」
「カミラ、筋肉バカ嫌いみたいなんで。」
「お、お嬢様!!お口が過ぎますよ!!」
ウィル様は騎士団の方ですのにその発言はいただけないのです。
私は失礼を承知でお嬢様の注意をしてしまいました。
「まぁ、誰でも好みはあるものよ~。そうね…ちょっと待ってくれる?」
「いいえ、乳母になってもらわないと困るから最速でお願いします!」
「なっ!!お嬢様!そんなこと言わなくてもよろしいのです!!今度ライラに紹介してもらうのです!」
またまたお嬢様の爆弾発言に焦ってしまい、私も余計なことを漏らしてしまいました。
あ!っと思った時には遅く、お嬢様はニヤニヤとしました。
「へ~どんな人なの?」
「僕も聞きたい!恋バナ楽しいよね~!!」
身を乗り出す二人に後ずさりしますが、侍女がそんなことをしてはならないのです。
後退りしそうな足に気合を入れて、踏ん張りました。
「33歳のレンガ職人さんみたいです。両親を亡くされて、兄弟を働いて育て上げて、今は一人みたいです。」
「きゃー!いいじゃない!!いつ会うの?」
いつになく嬉しそうなお嬢様に、会うことにしてよかったと胸を撫でおろしました。
この笑顔を見るとどんなことも頑張れそうな気がするのです。
私も気が付けば、緩んだ顔になっておりました。
「次のお休みに会えるかライラに聞いてもらっています。」
「初デートね!カミラ、私が可愛くするから!!」
「私も応援してるわ~!」
お嬢様が拳を握って宣言されました。
こんなに応援されるのであれば、必ず結果を出さなければならないのです。
私の気持ちは燃え上がりました。
その後、お嬢様とウィル様にデート当日に着る服を着せ替え人形のように何度も何度も着替えて決めたのです。
~夕方、ジグルドの屋敷
私はライラの紹介が嬉しくて、さっそくジグルド様に伝えたくなったのです。
きっと褒めてくださるに決まっています。
足取りは軽く、風が背中を押してくれているようでした。
こないだは潜るのも憚られた魔法の門も、スキップするように通りました。
そのままお屋敷の前まで進み、ドアノブに手を掛けようとしたその時、ドアが勝手に開いたのです。
驚いていると、ジグルド様がそこに立っていました。
「いらっしゃい。今日は来る日じゃないよね?」
私は言い知らせができることが嬉しくて嬉しくて。
締まりのない顔で答えました。
「ジグルド様!私、殿方を紹介してくださるのです!」
きっと褒めてくださる。
そう思いましたのに、ジグルド様との間に緊張した空気が流れました。
ジグルド様のいつもニヤついている口元が、すっと一文字に引き結ばれました。
なぜなのです。
この空気に耐えられなくなって、ジグルド様の反応を待たずに口を開きました。
「同僚の親族で、とてもいい人みたいなのです。それで…、今度の休みに会えるかもしれないのです!ですから、本の片付け手伝えないかもしれません。」
早口になってしまいましたが、用件はお伝えできました。
未だに何も言わないジグルド様に、どうしたらいいのかわからず、手を擦り合わせました。
「その男の子を産むの?」
ジグルド様の声は氷のように冷たかったのです。
いつもの茶化すような口調ではなかったし、褒められると思っておりましたのでその反動は大きかったのです。
私は悪いことなどひとつもしておりませんのに、頭が真っ白になりました。
最短で乳母になろうと思えば、紹介してくださる男性と結婚して子を儲けることが最適でしょう。
しかしながら、まだ会ってもいない男性の子供を産むイメージが全くわかないのです。
「…まだ会ってもいないのでわかりません…。」
「そんな気持ちで会うの?会ったらもう結婚しないと間に合わないよ?」
「…。」
ジグルド様の言っていることは、ごもっともなのです。
抱き締められるだけでも緊張してどうにかなりそうな私には、無理と言われているようでした。
私は奥歯を噛みしめました。
無反応になった私の腕をジグルド様は掴んで、強い力で引き寄せられました。
引き寄せられるまま、ジグルド様に近づき
唇が重なったのです。
「んんっ!いやっ!」
いきなりのことで私はジグルド様を突き飛ばして、走って逃げたのです。
屋敷に戻る道中、唇を袖で拭いました。
口紅が付いてしまうことも構わず、何度も何度も強く…。
そしてなぜか涙が零れて、こんなことになるならジグルド様に言わなかったらよかったと後悔したのです。
ですが、どうしてこんなに胸が苦しくなるのか、私には分からなかったのです。
最後までありがとうございます!
次回、デート行きますよ!
お楽しみに。




