私の初めて触れる優しさ~なんでそんなに優しいのです?~
いつもありがとうございます!
今回もよろしくお願いします!
レオンの屋敷、夜
私は一度も振り向きませんでした。
背後から聞こえる靴音はジグルド様のもの。
気にせずに、せっせと歩みを進めました。
ーー許せない……あの話をしたのに!
裏口のドアノブに手を引っ掛けようとしました。
すると、ドアが開いたのです。
視線をあげると、そこにはライラがいました。
「カミラさんどうしたんですか?!」
「ラ、ライラ……」
「こんな時間に……! それに、その恰好! 汚れてるじゃないですか!」
ーー見られてしまいました……
自分の服を見ると、皴が寄っていて、ところどころ汚れていました。
口元が歪みました。
「知人の家に借りたものを返しに行っていて、ちょっと…。」
「ちょっとじゃないでしょ?!早く中へ!!」
ライラの顔は真っ青でした。
強く腕を掴まれ、ぐいぐい引っ張られ中に入りました。
ーーなぜこんなに優しくしてくださるのでしょうか?
少し腕を引いてみました。
しかし、さらに引く手が強くなりました。
「ライラ、私に構わないで、早く帰らないと……家族が心配しますよ……!」
ライラは立ち止まり、振り返りました。
「なんでそんな平気なんですか! 怖かったでしょう……」
「……」
ライラの目から涙が零れたのです。
私は息が止まりました。
「こんな時は無理しないでください!!」
少し肩の力が抜けました。
その肩にはズシリとした重みを感じました。
「私は……無理など……そんなことはっ」
「もういいです! 何も言わないでください! さっ、あったかい飲み物用意しますから、早くお部屋に行きましょう!」
ライラは私の背中に回り、掌で押してきました。
私は振り返りながら、口を開きました。
そして、両腕を掴みました。
「ライラ、ダメ、帰らないと……」
「カミラさんが大事な時に帰れますか!! 心配しないでください!!」
涙にぬれた頬が光り、また一粒頬に流れました。
私は首を振りました。
「いいえ、帰ってください! 私は大丈夫だから!」
「こんな状態のカミラさんを放っておけるはずないじゃないですか!? 私を人でなしにするつもりですか?」
「そんなつもりでは……」
「そうじゃないですか!」
「……」
ーー今まで一人で頑張って来たのです。今回も、大丈夫……
私は何も反応できませんでした。
私の腕を振りほどくと、掴みました。
そして部屋まで引っ張っていったのです。
使用人の部屋。
部屋に着くと、ライラは私をベッドに座らせました。
「カミラさん、私お茶用意してきます。ちょっと待っていてください。」
「……」
私の返事を聞く前にライラは出ていきました。
顎を上げて、天井を眺めました。
その天井は、あの日の木目ではなく、幾何学文様でした。
「私は一人で大丈夫。」
静寂に包まれた部屋で一人ポツリと呟きました。
ベッドに着いた手が、シーツを握りしめました。
私はただ、何もできずにそのままでした。
視線を下すと、荷物の中から本がチラリと見えました。
私は立ち上がり、一冊を手に取りました。
かなり読み込まれているようで、ボロボロでした。
開くと懐かしいタイトルが。
それは王子さまと女剣士の恋物語でした。
ある王子様は理想の王子を演じることに疲れ、市井に癒しを求めて飛び出します。
そこで出会った女は誰にも頼らない孤高の剣士。
王子は女と冒険に出ることにしたのです。
冒険では危機を度々迎えました。
女は一人で戦える限界を知り、二人は協力しはじめます。
だんだん近くなる距離。
合わさる呼吸。
気づけば、二人は恋をしていたのです。
冒険の最後、ドラゴンを倒した後、王宮に呼ばれた二人。
そこで王子は、自分が王子であることを告白し結婚を申し込みます。
女剣士は静かに頷き、二人は幸せに暮らしましたとさ。
女剣士の孤独の裏には、人に騙された過去がありました。
その過去を冒険を通じて王子様が癒していくのです。
私は本をゆっくり閉じたのです。
ーーこの本は何でしょうか……? でも、落ち着いた?
「カミラさん!」
扉が乱暴に開きました。
息を切らして、カートを押すライラがいました。
「……ライラ、そのような振る舞いはなりませんよ。」
「だって、カミラさんが心配で……! さっ、飲んでください。お風呂は沸かしてあるので、後で入りましょう!」
ライラは私の言葉を聞き流しました。
私は、お茶が満たされていくカップを眺めました。
差し出されたカップは湯気が立っていました。
一口、口をつけると、涙が頬を伝いました。
ーーおいしい、あったかい。でも、なんで?
ライラは私の隣に座り、背中を擦ってくれました。
その手は、温かかったのです。
「カミラさん、大丈夫、大丈夫……」
ーーライラ……ありがとう……
私はそのまま動けませんでした。
翌日の夕方、ジグルド様の屋敷前
辺りは夕日が赤く照らしていました。
私は、本が入ったカバンを片手に門の前で立っていました。
一歩、足が踏み出せずに、そこで門のカギを見つめていました。
ーー早くしないとまた暗くなってしまう。
視線を外すことはできませんでした。
「いつまでそこで立ってるの?」
私は声のする方へ顔をあげました。
二ヤリと笑う口元が目に飛び込んできました。
最後までありがとうございました。
ライラは、ほっとけない性格をしています。
ちょっとおせっかいなところがいいところです。




