私の初めて触れる優しさ~なんでそんなに優しいのです?~
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~レオンの屋敷、夜
ジグルド様が後ろから付いて来ていましたが、無視してお屋敷に入りました。
わざわざ送ってくださったのに、悪いかなと一瞬思いましたが、心の深部を晒してしまったこと、
からかわれたことがどうしても許せなかったのです。
あんな怪しい男になぜ私はペラペラとそんな深い話をしたのでしょう。
普通ならば疑うはずですのに、おかしいのです。
こそっと裏口から入ろうとした時、ちょうど退勤したライラとばったり出会ってしまったのです。
「!!!カミラさんどうしたんですか?!」
「…。」
見られてしまっては言い訳できません。
土で汚れたワンピースにお嬢様に綺麗にしていただいた髪はボサボサだったのです。
「知人の家に借りたものを返しに行っていて、ちょっと…。」
「ちょっとじゃないでしょ?!早く中へ!!」
ライラの顔は真っ青で、まるでライラが襲われたようでした。
強く腕を掴まれ、中へ引っ張られました。
私はこのお屋敷の侍女ではございませんし、先週出会ったばかりの私になぜこんなに優しくしてくださるのでしょうか。
少し腕を引いてみましたが、絶対に手を離してくれませんでした。
「ライラ、早く帰らないと家族が心配しますよ…。」
「なんでそんな平気なんですか!怖かったでしょう…」
ライラの目からぽつりと涙が零れたのです。
「こんな時は無理しないでください!!」
ライラの言葉に少し肩の力が抜けたのです。
その時、私はやっと自分の体に力が入っていたことに気が付きました。
もしかしたら、ジグルド様も男性ですので心の奥底では怯えていたのかもしれません。
「私は…無理して…ないのです…。」
「もういいです!何も言わないでください!さっ、あったかい飲み物用意しますから、早くお部屋にいきましょう!」
ライラは私の背中に回り、押してきました。
ライラは小さい子供もいる母なのです。
私などと部屋に行く時間などないのです。
私は振り返りながら、急いで口を開きました。
「ライラ帰らないと…」
「カミラさんが大事な時に帰れますか!!家族には別のメイドに伝えてもらいますから、心配しないでください!!」
涙にぬれた頬が光り、また一粒頬に流れました。
伝言したところで、家にはライラの代わりはおりません。
子供もライラを求めているはず。
「いいえ、なりません。家族は大事にしないと…。」
「じゃあ、誰がカミラさんの心の傷を癒すのですか!?サラ様はレオン様のところです。私しかいないじゃないですか!」
「…。」
1人暗い部屋でただぼぉっと、今日あったことを整理しようと思っていました。
自分を癒すためには、これが一番効果のあることなのです。
誰かに助けてもらおうとは思いませんでした。
今まで一人で頑張って来たのです。
今まで通り一人で整理して、一人で…。
あれ?おかしいのです。
あの夏の日のこと、こうやって忘れたのです。
私はさっき、自分のために乳母になって乗り越えると決めたばかりですのに、また同じことを繰り返すのでしょうか。
ライラは無反応になった、私の腕をとりました。
そして強い力で部屋まで引っ張っていったのです。
~使用人の部屋。
部屋に着くと、ライラはお茶の用意のついでに伝言を頼んでくると出ていきました。
この一週間で見慣れた部屋は、なんだか別の部屋のように思えました。
一人ベッドに座り、天井を眺めました。
あの日の木目の天井ではなくて、落ち着いた白で幾何学文様の天井を。
「私は一人で大丈夫。」
静寂に包まれた部屋で一人ポツリと呟いたのです。
今まででしたら、この言葉で立ち直れましたが、今日は逆に心をえぐられるようでした。
自分が弱くなったような気がして、シーツを握りしめました。
刻まれた恐怖。
仕事しかしてこなかった日々。
そして、私が私であるために決めた使命――乳母になること。
こじ開けられた過去は、使命を阻むもの。
考えなければならないことは、たくさんあるはずですのになにも考えられないのです。
ふと荷物の中からジグルド様に渡された本がチラリと見えました。
私は立ち上がり、一冊を手に取りました。
かなり読み込まれているようで、ボロボロでした。
子供の絵本のようで、開くと懐かしいタイトルが。
そう。それは王子さまと平民の恋物語。
ある王子様は理想の王子を演じることに疲れ、市井に癒しを求めて飛び出します。
そこで出会った女は誰にも頼らない孤高の剣士。
王子は女と冒険に出ることにしたのです。
冒険では危機を度々迎えました。
女は一人で戦える限界を知り、二人は協力しはじめます。
だんだん近くなる距離。
合わさる呼吸。
気づけば、二人は恋をしていたのです。
冒険の最後、ドラゴンを倒した後、王宮に呼ばれた二人。
そこで王子は、自分が王子であることを告白し結婚を申し込みます。
女剣士は静かに頷き、二人は幸せに暮らしましたとさ。
私は本をゆっくり閉じたのです。
女剣士の孤独の裏には、人に騙された過去がありました。
その過去を冒険を通じて王子様が癒していくのです。
この本の何が参考になるかはわかりませんが、怖いという気持ちが紛れたような気がしました。
「カミラさん!」
突然、扉が乱暴に開いたので目をやりました。
そこには、走ってきたのでしょう息が切れているライラがおりました。
「ライラ、そのような振る舞いはなりませんよ。」
「だって、カミラさんが心配で…!さっ、飲んでください。お風呂は沸かしてあるので、ゆっくりしてから入りましょう!」
こんな時でも、小言を言ってしまうのです。
しかし、ライラは聞き流し、てきぱきとお茶を用意してくださいました。
さすがこの屋敷のメイド。
この短時間に整えるなんて、なかなかできないのです。
差し出されたカップに一口、口をつけると、涙が零れてまいりました。
とってもおいしくて、あったかくて、そして…ありがたかったのです。
「失礼します。」
ライラは私の隣に座り、私の背中を擦ってくれました。
「カミラさん、怖かったですね…。大丈夫、大丈夫…。」
ライラの大丈夫という言葉が胸に沁みるのです。
あの時もこうやって同僚に頼っていたら、今の私は変わっていたのでしょうか?
過去を悔やんでも変わらないのです。
私は今はただ、ライラの優しさに頼ることにいたしました。
~翌日、夕方、ジグルドの屋敷前
昨日はライラが一晩中付いてくれました。
ライラは一人で無理しなくていい、大丈夫と声をかけてくださいました。
私が話し始めるまで何も聞かないライラの優しさは本物で、こぼれた涙で全てが流されるような気がいたしました。
そして、本日は何事もなく早めに終わったので、ジグルド様のお屋敷に行くことにしたのです。
私は男性のお屋敷に行くことに、抵抗はありました。
しかし、昨日のお礼もまだ言えなかったですし、借りた本を返さなければなりません。
苦渋の決断を迫られ、重い足を引きずるようにしてお屋敷に向かったのです。
絵本はなんの意味があったのかはよく分かりませんが、他の本はメイクやファッションの本で流行りを知りました。
今度お嬢様にしようと、じっくり読んだのです。
きっとこのような服やメイクは、私には似合わないのです。
やはり紺色、薄化粧が一番落ち着くのです。
ゆっくりと歩いてきたはずですが、気が付けばお屋敷の門の前でした。
外は夕日に染まっており、本を返してお礼さえ言えばさっさと帰るつもりでした。
私が門の前に立ちますと、何もせずとも勝手に開いたのです。
しかし、門をくぐる1歩がなかなか出せないのです。
私は自分の靴を眺めました。
帰りたい気持ちと、ちゃんとお礼を言って本を返したい気持ちが混ざりあって動き出せないのです。
「いつまでそこで立ってるの?」
私は声のする方へ顔をあげたのです。
最後までありがとうございました。
ライラは、ほっとけない性格をしています。
ちょっとおせっかいなところがいいところです。




