私の初めてのキス。~唇って…~
いつもありがとうございます。
長くなってしまったので連投します。
ちょっとモブ姦未遂事件おきます。
苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
~夜、ジグルドの屋敷前
お嬢様に乳母になることを申し上げましたら、お嬢様は張り切ってしまいました。
そのせいで日があるうちに、ジグルド様のお屋敷にシャツと借りた本を返しに行くつもりが、遅くなってしまいました。
外は新月で暗く、屋敷を出発するときにドアから一歩出すことを躊躇してしまいました。
しかし、ジグルド様とお約束してしまいましたし、シャツが少ないと言われておりましたので、どうしても今日行かないといけないのです。
慣れない靴で暗い夜道を急ぎます。
ロウソクの火が心もとなくて、前傾姿勢で素早く足を運びます。
どこからか、犬の遠吠えも聞こえてきて冷たい風が頬を撫でます。
お屋敷はそこまで遠くはないのですが、とてもとても遠くに思えたのです。
「おい!ねぇちゃん!俺と遊ぼうぜ!」
「え?」
声のする方へ振り向こうとしたその時、急に腕を掴まれたのです。
私は侍女ですので護身術は少々習得しておりますが、新月で暗く、急に背後から男性が現れましたので対応できませんでした。
男性は大柄で太っており、お酒の香りをプンプンさせておりました。
下品に笑い、汚れた服を着ておりました。
しかも、いつもの制服ならば簡単に抵抗できたでしょう。
今日に限ってお嬢様が善は急げとお嬢様のワンピースと靴をお借りしておりました。
髪も下ろして、お化粧もいつもより綺麗にしておりました。
男性にここまで腕をガッチリ掴まれては、お嬢様のワンピースに傷がついてもいけませんので抵抗ができません。
なにより、恐怖で体が震えて動かないのです。
それに重ねて記憶の奥にしまっている過去もフラッシュバックして、いつもならできることも、できなくなってしまったのです。
掴まれた腕を強い力で引っ張られて、そのまま裏路地に引き込まれました。
大きい体に覆いかぶされ、荒くなる呼吸。
心臓が跳ね上がって、鳥肌がたって震える体。
荷物とロウソクを落としてしまい、暗くて、かすかに男の顔だけ見えます。
すえた匂いが充満する路地。
「へへへ!よく見たら、上玉じゃねぇか!」
ニヤニヤ笑う男の大声が耳に届きますが、どこか他人事のように思えてしまいました。
両手をとられ、本格的に抵抗が出来なくなってしまいました。
「あ、あ…。」
奥歯がカタカタ鳴って、助けを呼びたいのに、意味のない言葉しか口から発せられません。
男が私のうなじに顔を埋めます。
「ひぃっ…!」
「ねえちゃん、どうせなら楽しもうぜ!」
男は耳元でそう言うと、私の首筋を舐めあげました。
背筋がぞっとして、飛び上がりました。
「ひぃっ!やめっ…」
暴れればいいものの、体は震えるばかりでいうことを聞きません。
男が私のスカートに手を差し込んできました。
もう、だめなのかもしれないと目を強く瞑ったのです。
震える体を固くして、ただ無になること。
あの時のように…。
「お姉さん、乳母になりたいからって、それはさすがにだめでしょ?」
声のする方にゆっくり目を開けて見上げます。
暗くてシルエットしかわかりませんでしたが、声からジグルド様だとわかりました。
声を聴いた瞬間、涙がどっと溢れてきました。
「兄ちゃん見てわからないのか!?取り込み中だ!」
「ふざけるな!!嫌がってるの分からないのか!?」
男がジグルド様に大きな声をあげます。
ジグルド様も負けじと大きな声で男を怒鳴りつけます。
そして片手を上げると、私に覆いかぶさっていた男が吹っ飛んでいきました。
「ぐわっ!!」
男は太っているのに、勢いよく背後にあった壁面まで飛んでいきました。
また貴重な魔法を、ジグルド様は使ったのです。
男は背中を強く打ち付けたようで、背中を手で押さえつけておりました。
「おまえ!!」
男はジグルド様に飛びかかろうと、大きく距離を詰めてきました。
「無駄だ!」
ジグルド様は再び片手を男に向かって手を上げると、今度は男は高く浮かび上がりました。
そしてジグルド様が魔法を解いたのか、男はしりもちをつき、まるで魔物に出会ったときのように、脱兎のごとく走り去ったのです。
私は全身の力が抜けましたが、言葉を発することができずにお礼も言えないのです。
「カミラが遅いからおかしいと思ってね。大丈夫?」
「…。」
差し出された手を見つめますが、私は汚れているのです。
だから、手を取ることがどうしてもできないのです。
左手で舐められた首をかきむしり、右手は掴まれた腕を強く押さえます。
「なにしてる!やめろ!」
私の手をジグルド様が無理矢理取りました。
おかしいのです。
助けられたはずなのですが、また体が震えて参りました。
ダメなのです。
ジグルド様、私は汚れているのです。
「あ…あ…。」
また意味のない言葉が零れます。
ジグルド様は私を抱き寄せ、そして…唇が重なったのです。
暗くてよく見えない上に、ジグルド様の顔の半分は髪で隠れております。
その前髪が私の頬をかすめます。
目を閉じる余裕などなく、見開いた目から最後の涙が零れて頬を伝います。
私は最初、これがキスだということに気が付かなかったのです。
私の初めてのキスは、少しかさついていて、やわらかな唇が心を溶かすようでした。
一瞬のことだったかもしれないのですが、時が止まったように感じました。
そしてゆっくり重なった唇が離れていきます。
「落ち着いた?」
「…はい。」
「そう、じゃあ、いこうか。」
「…。」
反応ができない私にジグルド様は手を取り、されるがまましっかり繋がれました。
そしてジグルド様は近くにあった荷物を拾い上げました。
私は繋がれた手に引っ張られて、ジグルド様のお屋敷まで歩いて行ったのです。
~夜、ジグルド様のお屋敷
魔法で開いた扉を潜り、昨日同様に鍵が自動で閉まりました。
閉まったと同時にジグルド様は立ち止まり、私の方へ振り返りました。
「ねぇ?今日に限ってなんでそんな格好してるの?」
「…お嬢様に…お借りしました…。」
「夜にそんな恰好で一人で歩いたらダメなのわかるよね?」
ジグルド様の指摘はごもっともなのです。
ただ私はお嬢様が嬉しそうにお洋服を選んでくださるので、すぐ脱ぐことが申し訳なかったのです。
それに遅くなってしまったので、着替える時間もなく飛び出したことを後悔しました。
私は顔を上げることができません。
繋いだ手を放して欲しくて手を引っ込めようとしましたが、逆に強い力で握り込まれてしまいました。
「それとも、誰でもいいから子ども欲しかったの?」
私は小さく首を振りました。
確かに、そう思われてもおかしくはないのです。
仮にあのまま、あの男の子を産んだとしても、乳母にはなれたとしても、ちゃんと子供を愛せる自信がありません。
体は震え、掻きむしった首が風に当たってヒリヒリするのです。
「誰でもいいなら、俺の子産む?」
「…え?」
私はジグルド様の顔を見上げました。
暗いし、表情もわかりません。
けれども、声から真剣であることだけはわかりました。
「私は…、私は…汚れております…。」
頭が真っ白になって零れた言葉にまた大きく体が震え始めました。
乳母になりたいと大きな使命に燃え上がって、失念していた私の過去。
そもそも私はこの過去があるから、独身を貫こうとあの当時考えたのです。
「その様子じゃ、今日の事だけじゃないよね?」
ジグルド様の目は隠れて見えないのに、全てを見透かされているようで、鳥肌が立ちました。
大きくなる震えに、落ち着けと言わんばかりに大きく息を吐きますが治まりません。
重くてなかなか開こうとしない口をこじ開けて、私の過去を伝えたのです。
最後までありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




