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革命のリリィ  作者: 鳩ポ
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三十七話 最終兵器レヴナント

あと数秒――


たったそれだけの差で、こいつらは全員死んでいた。


奥歯を噛みしめる。

心臓の鼓動が、鎧の内側で爆発しそうなほど高鳴っていた。


間に合った。


だが、まだ終わりじゃない。


拳を強く握りしめ、漆黒のアーマーを軋ませながら前に出す。

目の前の機械どもが、一斉にこちらへ向き直った。


「――そこで、休んで待ってな。」


低く、静かに言い放つ。

その言葉を合図に、両腕を前に突き出した。


ポンッ ポンッ ポンッ――!!


弾けるように飛び出したエネルギー弾が、一直線に群れの中心へと吸い込まれる。

跳ねるように散らばりながら、機械たちの間に潜り込んだ次の瞬間――


「アンチライフエリア!」


炸裂。


閃光が爆発的に広がり、辺りの機械が一瞬で沈黙する。

まるで”死”を突きつけられたかのように、動きが鈍る。


「――さて、ここからが本番だ。」


一歩、踏み込む。

地面が砕ける。


次の瞬間――


世界がブレた。


視界が加速する。

俺の姿が、爆発的なスピードで機械の群れへと突っ込んでいく。

空間を引き裂く轟音。

衝撃波。


吹き飛ばされる機械。


「フィラメントレーザー……!」


全身から無数の光の線が放たれる。

それは細く、鋭く、絶対に逃さない”狩人の網”。


光の軌跡が閃いた次の瞬間、機械どもが一斉に爆ぜた。


コアを貫かれ、切断され、崩れ落ちる鉄の骸。

黒煙を上げながら、次々と地面に沈んでいく。


俺は、光の余韻が消える前に次の一歩を踏み出した。

俺の視界いっぱいに、崩れ落ちる機械の残骸が映る。


だが――


「まだ足りねぇな。」


ガシャリ、と拳を握る音が響く。

俺のフルアーマーの装甲が僅かに軋み、内部の駆動音が一段と唸りを上げる。


前方、まだ無数の機械どもがこちらを睨んでいた。

あの”アンチライフエリア”と”フィラメントレーザー”を喰らってなお、生き残ったやつらがいる。


――いや、違う。


“新たに補充された”、と言った方が正しい。


「……チッ、きりがねぇな。」


奥歯を噛みしめる。


直後――


ガコンッ!!


何かが巨大な衝撃音とともに落下してきた。

視線を向けると、俺の前方に立ちはだかる巨大な影。


そいつは今までの雑魚とは違った。

全身が異常なまでに分厚い装甲で覆われ、そのコアは通常の機械の数倍はありそうな重装甲型。


その腕には、大剣――いや、違う。


――ブレードそのものが高エネルギーを纏っている。


斬撃ではなく、一撃でこの階層ごと蒸発させるつもりか。


俺はニヤリと笑う。


「……面白ぇ。」


俺は一歩踏み込んだ。

瞬間、フルアーマーの駆動音がさらに高まる。


「来いよ。」


両腕を開き、挑発する。

すると、重装甲型の機械が低い唸りを上げた。


大気が震える。

奴がその巨大な剣を振り上げた瞬間、俺は全身の推進力を解放した。

最大出力


視界が歪むほどの加速。

時間すら置き去りにする速度。


剣が振り下ろされる。


その瞬間、俺は奴の懐へ”瞬間移動”するように入り込んだ。


「遅ぇよ。」


右拳に全エネルギーを集中。

次の瞬間、俺の拳が重装甲型のコアへと叩き込まれた――!!


振り下ろしただけの拳が、まるで地震のように大地を揺るがせた。

その衝撃はドーム全体に響き渡り、まるで空間そのものが軋むような感覚を覚える。


拳の余波を受けた大剣を持つ機械は、壁にめり込み、ピクリとも動かなくなった。

周囲にいた機械どもも、次々と機能を停止し、まるで操り糸を切られた人形のように崩れ落ちていく。


俺は、静かに振り返った。

リリィたちのもとへ向かうため、一歩、足を踏み出す。


―――――――――――――――


私は、絶句していた。


黒く巨大な鎧が、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。

たとえ中にゲンテツがいると分かっていても、その威圧感に思わず息を呑んだ。


「ゲンテ……」


声を出そうとした、その瞬間。


鎧のフェイスプレートが開き、ゲンテツの顔が現れる。

彼は迷うことなく膝をつき、私の目線に合わせた。


「状況は?」


短く、低い声。


私は、息を整えて答えた。


「シドが重傷。リニアは……」


「私は……大丈夫。急所は避けたから。」


リニアの表情には、かすかに安堵の色が浮かんでいた。

彼女の言葉を信じよう。リニアは大丈夫。


「ゲンテツ……私たちは、上に向かうわ。」


私は真っ直ぐにゲンテツを見据えた。


「階層の広さからして、ゴールはもうすぐのはず。でも――シドは無理。このままだと……死ぬ。」


はっきりと言い切る。


「だから、シドを連れてレヴナントの医務室に運んであげて。」


ゲンテツが一瞬、迷うような素振りを見せる。


「だが……リリィ達は――」


「私は、大丈夫。」


私は迷わず言った。

強く、揺るぎなく。


ゲンテツはしばし沈黙し、ゆっくりと目を閉じる。

そして、すぐに開いた。


「……二つ、いいものを渡そう。」


低く、しかし確かな決意を込めた声。


「一つは、このドームを動かすためのパスワードだ。」


そう言って、アーマーの隙間から一枚の紙を取り出す。


「パスワードは、盗聴対策のため声に出せない。この紙に書いてある。持っていけ。」


紙を手渡しながら、ゲンテツは続けた。


「もう一つは――」


彼は自らの腕のアーマーの一部を外し、目の前に置いた。


「これは、『アンチライフエリア』。レヴナントの研究チームが開発した兵器だ。」


漆黒の装置は、まるで生き物のように鈍く光る。


「エリア内にいるAIのコアを、強制的に停止させる。原理については……戻ったら話そう。」


ゲンテツは私をじっと見据え、静かに言った。


「いざとなったら、迷わず使え。」


その言葉の重みを感じながら、私は装置を手に取る。


ゲンテツは無言でフェイスプレートを閉じると、ゆっくりと立ち上がった。

そして、意識のないシドを軽々と担ぎ上げる。


「今は、ここが『アンチライフエリア』の中だ。AIは近づけない。」


私たちを見下ろしながら、彼は続ける。


「少し休んでから行け。」


そう言い残し、ゲンテツは躊躇なく床を踏み抜いた。


轟音とともに、分厚い金属の床が砕けた。


そのままゲンテツは、まるで闇に溶けるように垂直に降下していく――。


数十秒の沈黙。


静寂だけが支配する空間で、私は荒い息を整えようとする。

体中が痛み、視界はぼやけ、全身の力が抜けそうだった。


そんな中――


「……行くわよ、リリィ。」


ムクリ、とリニアが起き上がった。


「えっ、まだ休んだほうが――」

「本当に、あと少しな気がするの。待ってられないわ。」


リニアは微かに笑ってみせるが、その顔は疲労で血の気が失せている。

それでも、前に進もうとするその気迫に、私は思わず笑ってしまった。


「はぁ……しょうがないわね。」


ため息交じりにそう言いながら、私はリニアのそばに寄る。


「せーの、で立ち上がるわよ。」


「……分かったわ。」


「「せーの!」」


そして、お互いの肩を支え合いながらゆっくりと立ち上がる。

二人の声が重なり、私はリニアと肩を組むようにして一歩、また一歩と前へと進んでいった――。


30分後。


見飽きすぎた通路を歩き続け、限界が近づいていたその時――


「リリィ!リニア!」


どこか懐かしい、声が聞こえ足音が近づく。

次の瞬間、私たちの真ん中にぬっと割り込むようにして、肩に腕を回す男がいた。


「ルーカス……!」


その顔を見た瞬間、胸の奥がぐっと熱くなる。

無事だった。ちゃんと、生きていてくれた。


私は泣きそうになった。

そして――


「ワシもおるぞ。」


今度は鋭い声が耳に届く。


「……リン!!」


驚きと歓喜が入り混じった声が、自分でも抑えきれずに漏れた。


生きていた――!

リンも、生き残ってくれていた!


パスワードがわかる、それも大事だった。

でも、それ以上に。


「……生きていてくれたことが、何より嬉しい。」


言葉に出す前に、胸がいっぱいになった。


「ちょっと待ってろ。」


突然、リンが手を前に突き出す。


その瞬間――


彼の背中のリュックから、金属の破片が無数に飛び出した。

それはまるで生き物のように動き、私とリニアの体にまとわりついていく。


「……これで、少しは動けるやろ。」


リンがそう言って、にやりと笑う。


私たちの身体を補強するように張り付いた金属片が、ひんやりとした感触を伝えてくる。

不思議と、さっきまでの疲れが和らいでいくようだった。


「……リン、ありがとう。」


私は小さく呟きながら、もう一度、仲間たちの顔を見つめた。


私たちはまだ、ここにいる。

――生きている。


「よし……行くよ。」


私は静かに、しかし強く言った。


だが、リンが腕を強く掴む。



「待て。」



低く鋭い声が響いた。

リンが、私の前に立ちふさがる。


「おい、リリィ。お前の班には、あと二人いたはずやろ。……どこ行った?」


私は息を呑み、唇を噛み締めた。

言い忘れたわけじゃない。

ただ――


言えなかった。


「……シドは重症。ゲンテツが来て、レヴナントへ運んで行った。」


胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。

シドが助かるかどうかは、まだわからない。


「ゲンテツが来たのか!?」


ルーカスが驚いたように目を見開いた。


「ええ……すごく強かったわ。」


あの姿、あの圧倒的な戦いぶり。

機械の大軍を、まるで紙くずのように薙ぎ払う漆黒の巨躯。

まさに戦場を支配する存在だった。


でも、言いたいのはそこじゃない。


「そして……アルは――死んだ。」


その言葉を口にした瞬間、喉の奥が焼けるように熱くなった。

それでも、私は顔を上げることができなかった。


リンの顔を見れなかった。


アルとは、それほど話したことはなかった。

けれど――


「そうか。」


―――え?

少し冷たくない?


思わず顔を上げた。

けれど、そこにあるのは――


驚くほど、静かな表情だった。


リンは淡々としていた。

まるで何事もなかったかのように、顔色ひとつ変えずに立っている。


でも――違う。


その奥にあるものを、私は見逃さなかった。

表面は穏やかに見えても、その瞳の奥には、どこまでも深い、沈み込むような悲しみが広がっていた。

深くて、暗くて――私なんかじゃ、とても触れられないほどの悲しみが。


「リン――」


名前を呼んだ。

けれど、それ以上の言葉は出てこなかった。


何を言えばいいのか、何を言うべきなのか――

そんなことすら、わからなかった。


「何黙ってんだ、早く行くぞ。」


リンはそう言い残し、迷いなく隊列の先頭に立った。

その背中は、いつもと変わらない。


けれど――


わずかに震える肩を、私は見逃さなかった。




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