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革命のリリィ  作者: 鳩ポ
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二十九話 たった1人の戦場

真っ白な廊下――

そこに1人の男が、コツコツと響く足音を鳴らしながら歩いていた。


その男はルーカス。鋭い視線を前に向け、無言で歩を進める。その顔には、どこか苛立ちの色が浮かんでいた。


「……リニアめ」


小さく吐き出された言葉は、彼自身の中に籠ったまま消える。


リニア――あいつはいつも自分の力を過信している。確かにあの女の実力は認めるが、完璧ではない。けれど、彼女は自分が失敗する可能性なんて微塵も考えない。それがどれだけ危険か、わかっていないんだ。


ルーカスは廊下の奥を睨みつけながら、胸に込み上げる怒りを飲み込むように唇を噛んだ。


「……ずっとそうだった」


呟くように漏らした声に、わずかに後悔が混じる。


彼は記憶の中の過去を振り返っていた。自分がかつて住んでいたヒューマンコロニー、アクアリネ――あの平和だった場所がAIによって破壊されたとき、ルーカスはすべてを失った。家族も友人も、守りたかったものすべてが消え去った。


その日から、彼の中には憎しみだけが燃え続けていた。AIが憎い。許せない。死ぬまで呪い続けてやる――そう誓った。


だが、すべてが変わった。


「……あいつに会ってからだ」


ルーカスは立ち止まり、白い壁に手をついた。その冷たさが、怒りに燃える彼の心を少しだけ冷やしてくれる気がした。


リリィ――あの少女に出会ってから、彼の中に不思議な感情が芽生え始めた。孤独や憎しみだけだった世界に、連帯感という言葉が入り込んできたのだ。仲間と呼べる存在ができたことで、彼は初めて自分が変わり始めていることに気づいた。


そして、あの日――クイーンと戦ったあの日。


「あのとき、俺は……」


ルーカスは目を閉じ、思い出す。クイーンの圧倒的な力に抗い、死と隣り合わせの戦場で、彼は生まれて初めて「死にたくない」と思った。かつてはAIにすべてを奪われるくらいなら自分の命も捨てる覚悟だった。だが、その瞬間、自分が生き延びたいと願っていることに気づいたのだ。


「……弱くなったな、俺は」


ルーカスは自嘲するように笑った。そして、すぐに顔を引き締める。


廊下の先には戦いが待っている。リリィも、リニアも、きっとそこで戦っている。ルーカスはゆっくりと歩みを再開した。


「……弱くなったなら、守るしかないだろう。あいつらを」


自分の憎しみも、後悔も、抱えたまま――彼はただ前を向いて進む。


とにかく、まずはリニアに僕の無事を伝えなければ――。

僕は迷わず通信端末を操作し、レヴナントに向けて通信を送った。


「こちらルーカス。現在位置は不明だが、依然として健在。リニアとはぐれた出来ればそちらを介してリニアに生きてることを伝えてほしい。聞こえているなら応答してくれ。」


念のため何度か繰り返し送信し、端末を見つめる。薄暗い白い廊下の中、通信が繋がる音を待つ時間がやけに長く感じられた。


5分経過――応答なし。

10分経過――依然として沈黙。


「……返ってこない。」


静かに呟いたその言葉が、空虚な廊下に吸い込まれて消えた。


焦りが胸を締め付ける。この通信装置が使えないということは、ドーム内部で何かしらの妨害を受けているのか、それとも単に壊れているのか――いや、それ以上に最悪の可能性すら頭をよぎる。リニアに何か起きたのではないかと。


僕は一瞬立ち止まり、深く息を吸い込んだ。この場で無駄に焦ったところで事態は好転しない。落ち着け、自分に言い聞かせろ。


「……大丈夫だ、リニアは簡単にやられるような奴じゃない。」


そう自分に言い聞かせ、端末をポケットに戻す。そして再び足を進める。今はこの場所から脱出し、全員と再合流することが先決だ。


通信が返ってこない不安を振り払うように、僕は少しだけ早足になった。


とは言うものの、この白い廊下を一人で突破するのは至難の業だった。壁が突然開いて弾丸が飛んでくるわ、足元にいきなり穴が空くわ――正直、休む間なんて一瞬もない。そんなことを考えている最中にも、さらなる厄介な敵が現れる。


「……人型か。」


暗闇の奥からゆっくりと姿を現したのは、いかにも“ロボット”然としたフォルムの機械。片腕がまるごと銃身になっており、無機質な赤い目がこちらをロックオンしている。


「Level 2ってところかな。」


僕はつぶやくと、背負っていた銃剣に手を伸ばし、一瞬で変形させる。相手との距離は近い。今、使うべきは銃型ではない――必要なのは大剣だ。


銃剣はメカニカルな音を立てながら姿を変える。その刃は鋭利で巨大。AIが発砲するよりも一瞬早く、僕はその刃を盾代わりに構えた。焦る必要はない。この状態では、敵の攻撃速度の方が圧倒的に速い。だが、それを計算に入れた上での動きだ。


「なら――!」


僕は素早く大剣の側面を縦に構え、自分の体をその後ろに隠す。次の瞬間、機械が銃身を激しく振動させ、無数の弾丸を乱射してきた。


重い音が大剣を叩き、弾丸が次々と跳ね返される。僕は剣を持つ手に力を込めながら、わずかな角度の調整を繰りす。その角度がわずかでも狂えば、反射した弾丸が壁や床に当たるだけでなく、こちらの動きを封じる危険がある。

刹那、機械の銃が沈黙した。


「……やっぱり単純だな。」


僕は静かにため息を吐きなが、鋭い視線で敵を観察する。頭の中では冷静な計算が進んでいる。銃の発射パターン、タイミング、そして敵の動作――すべてを把握するために必要な情報を整理していく。


やつの弾は金属、つまり実体を持つ物質だ。僕の使う圧縮空気弾とは違う。それには明確な限界がある。


「……弾が尽きたな。」


僕はそう呟きながら、瞬時に次の行動へと移った。大剣を構え直し、その刃に力を込める。


そして――一気に突進する。


敵が再び銃身を向ける暇も与えない。僕の動きは最短で、最速だった。刃が機械の胴体を正確に捉え、轟音を立てて深々と叩き込まれる。その衝撃で機械の身体がわずかに後ろへ揺れた瞬間、僕は刃を押し込む勢いのままトリガーを引いた。


大剣の空気エネルギーが発射され、機械の胴体を内部から破壊する。赤いスパークと黒煙が巻き上がり、敵は哀れなほどに爆散した。破片が空中を舞い、金属の破裂音が耳をつんざく。それでも僕の目は敵を見据え続けていた。


「Level 2、クリア。」


呟きながら、大剣を一振りして付着した油と金属片を振り払う。空気中には焦げた鉄の臭いが漂い、熱気が肌にまとわりつく。しかし、そんなものに気を取られている暇はない。


「この程度じゃ、まだウォーミングアップだ。」


僕は自分に言い聞かせるようにそう呟き、再び歩を進めた。廊下の先は相変わらず真っ白で、どこまでも続いているように見える。その先に待つ敵――それは今までのものとは比べ物にならないだろう。


だが、怖気づく理由はどこにもない。僕には戦う理由がある。そして――絶対に生き延びるという意思もある。


ゆっくりと息を整えながら、僕は一歩ずつ階段を上がっていった。息苦しい沈黙が支配する。

ここは何階だろうか?終わりが見えない階段を上がり切った先に現れたのは、広い立方体の部屋だった。


「出口がない…行き止まりか?」


僕は部屋の中を見渡した。壁、床、天井、どれも真っ白で、どこを見ても同じ景色が広がるだけ。扉も窓も、何もない。ひどく無機質で、ただの空間という言葉がしっくりくる場所だった。


「無駄足だったか…」


そう思い、踵を返して部屋を後にしようとした。だが、次の瞬間、背筋が凍るような感覚が襲ってきた。


「……え?」


さっきまでそこにあったはずの出口が消えている。


「ちょっと待て、何だこれ……!」


焦りが一気に湧き上がる。僕はすぐさま床を這うように触りながら、出口の痕跡を探し始めた。しかし、指先に伝わるのはただ冷たい白い床だけ。


「嘘だろ……?さっきまで、確かにここに――」


頭が混乱する。記憶に確信はあるはずなのに、目の前の現実がそれを否定してくる。この白い空間は、僕の理性をじわじわと侵食していくようだった。


僕は立ち上がり、再び部屋を見渡した。心臓が嫌な鼓動を刻む。何かが起きている。いや、この空間そのものが、何かの仕掛けなのか?


「冷静になれ……落ち着け……」


自分に言い聞かせながら、再び部屋の中心に立つ。だが、その瞬間、床がわずかに振動した。


「……なんだ?」


不気味な予感が背中を撫でる。明らかに何かが動き始めた音が、遠くから聞こえてきた。次に何が起こるのか、わからない。それでも、僕は大剣を握り直し、目を鋭く光らせた。


――ここは戦場だ。この空間が何を仕掛けてこようとも、僕は乗り越える。


歯を食いしばりながら、僕は次の一瞬に備えた。



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