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革命のリリィ  作者: 鳩ポ
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二十八話 チョー巨大迷路

数百の兵士たちが、巨大なドームの入り口から一斉に攻め込む。その先陣を切るのは、即席で編成された私、シド、そしてアルの3人。私たちは鉄鬼隊の中でも移動速度が群を抜いており、内部を駆け巡りながら情報を送るという重要な任務を託されていた。


ドームの内部に足を踏み入れた瞬間、異様な雰囲気に包まれる。無機質な金属の真っ白な壁が左右に広がっている。入り口付近からいくつものルートに分岐しており、それぞれの部隊は指示に従って異なるルートを進む。


「気を抜くな。これから何が出てくるかわからんぞ。」


アルが短く言葉を投げかける。私たちは無言で頷き合い、速やかに奥へと進んでいった。


潜入から数時間後。私たちは一度も立ち止まることなく走り続けていた。しかし、違和感が拭えない。


「……シドくん、変じゃない?」


私は声を潜めながら問いかけた。


「何がだ?」


シドは前を向いたまま冷静に答える。その背中はいつも通り頼もしいが、私の胸の中では不安が膨らむばかりだ。


「侵入者警報が鳴らないのよ。こんなに大勢が入ってるのに、警報どころか何の反応もないなんて……バレてないの?」


確かに、ドーム内は異常なまでに静かだった。大勢の兵士が入り込んでいるはずなのに、周囲から聞こえてくるのは私たちの足音だけ。敵が待ち構えている気配もなければ、罠が作動する様子もない。それどころか、AIがこちらに気づいているのかどうかさえわからない。


シドは一瞬も振り向くことなく、淡々とした口調で答えた。


「おそらく、必要がないんだろうな。」


「必要がないって、どういうこと?」


私の問いに、彼はさらに言葉を重ねる。


「AIってのは、実体のある存在じゃない。その本質は情報と計算だ。ここにいるAIは、おそらく一つの主体がこのドーム全体を支配しているんだろう。罠も機械も、全部ひとつに繋がっている。つまり……」


「つまり?」


「警報を鳴らす必要がないってことだよ。」


その言葉に、思わず息を呑んだ。


「どういうこと?それじゃ、私たちが侵入したことをもう知ってるってこと?」


「その可能性が高いな。むしろ、歓迎されてるのかもしれない。」


「歓迎……?」


アルが足を止め、振り返る。彼の目にはわずかな緊張と警戒が浮かんでいた。


「つまり、俺たちはすでにAIの掌の上ってことか。」


「そういうことだな。」


その瞬間、背後の暗闇から小さな音が響いた。金属が擦れるような耳障りな音。それは徐々に近づいてくる。


「来るぞ……!」


シドが警告する。暗闇の奥で、不気味に光る無数の赤い点。それは、AIが送り込んだ何かが迫っていることを告げていた。


「警報なんていらないってわけね…」


私は拳を握りしめ、覚悟を決めた。このドームの中では、油断も隙も許されない。全てがAIの計算内だということを痛感しながら、私たちは戦闘態勢を整えた。


アルの両腕と両足から鋭い刃がせり出す。それは彼の武器「スカルプト」。黒く光沢を帯びた刃は、まるで獲物を前にした猛獣の牙のように不気味な輝きを放っていた。


暗闇の奥から姿を現したのは、楕円形を真ん中で切り取ったような丸みを帯びた機械たち。その形状は戦闘用とは思えない。鈍重な動きすら想像させるその外見に、一瞬だけ疑念がよぎる。だが、戦場ではその一瞬が命取りだ。


「行くぞ――!」


アルが疾風のように前へ駆け出した。その刃は、黒い残像を残しながら鋭く振るわれる。


だがその瞬間、予想外の行動が飛び出した。


銃声が響き渡る。振り向くと、シドがアルの背中に向けて銃を乱射していた。


「な……何やってるの!?」


思わず叫ぶが、シドは冷静に応える気配もなく、ただ無表情で引き金を引き続ける。アルもアルで、後方から飛んでくる弾丸を一切気にせず、あるいはまるで見えているかのように、弾幕をすり抜けていく。その流れるような動きは、まさに信じがたい精密さだった。


アルの攻撃は、刃が振り抜かれるたび、機械たちが切り裂かれ、内部から火花と油が飛び散る。アルの動きは凄まじく、敵の動きを読むどころか、その先を完全に見通しているかのようだ。


「リリィ!」


シドの声が飛ぶ。


「お前は俺の後ろを守れ。お前は1人の方が強い!」


彼の言葉に私は苦い思いを抱きながら、従うしかなかった。目の前の戦いに飛び込む自信がない。アルとシドの連携はあまりにも高度すぎる。二人が培ってきた絶対的な信頼と技術が、この戦術を可能にしているのだと痛感する。


アルは、シドの弾幕を利用して自らの動きをカバーしている。シドの弾丸が敵の注意を引き、アルがその隙を突いて一撃で仕留める。まるで一つの生物のように連携している二人の動きは、戦場の芸術としか言いようがなかった。


だが、その瞬間だった。


ゴゴッ――


不気味な音とともに地面がわずかに揺れる。次の瞬間――


「アル――!」


私の目の前で、アルが消えた。


消えたというより、下に飲み込まれたと言うべきだろう。足元に突然、黒い穴が開き、その中へと吸い込まれるように落ちたのだ。


「罠か……!」


シドが銃を止め、焦りを隠せない様子でアルが落ちた穴へと駆け寄る。だが――間に合わない。穴はゆっくりと閉じ始め、地面が再び平らになろうとしていた。


「アル――!」


その場に立ち尽くすわけにはいかない。私は瞬時に判断し、声を張り上げる。


「アクセス・ブレイズ‼︎」


義足に内蔵された推進システムが作動する。青白い炎が噴き出し、私の全身を押し出した。視界が一気に流れる。


機械の隙間をすり抜け、穴へと向かって全速力で飛び込む。足元を掠める金属音や、かすかに感じる熱。どれも気にする余裕はない。ただ、手を伸ばす――


「くっ……届いて……!」


指先が穴の縁に触れた、その瞬間だった。


そこには、もう何もなかった。穴は完全に消え失せ、代わりに現れたのは、冷たい金属の床。


「嘘……」


私はその場に手をつき、信じられない気持ちで固まった。たった今、そこにあったはずの穴は、まるで最初から存在していなかったかのように何の痕跡も残していない。


背後では、機械たちが一斉に動きを止めていた。その様子は、まるで作戦成功を誇示しているかのようだった。


不気味な音を立てながら、彼らの赤いセンサーライトがこちらをじっと見つめる。その光景に、背筋が凍るような感覚が走る。


「……やられた。」


シドが低く呟いた。その拳は硬く握りしめられ、震えている。


「こいつら、最初から俺たちを誘導してたんだ。アルを引き離すために……。」


言葉を失いそうになる。これほどまでに計算された罠に、自分たちは見事にハマってしまったのだ。


「リリィ、下がれ。」


シドが銃を構え直す。その目には、いつもの冷静さに加え、怒りの炎が燃え盛っている。


「奴らはこれで終わりじゃない。むしろ、これからが本番だ。」


私も拳を握り直す。アルを失ったかのような絶望に押し潰されそうになるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。


「……わかった。でも、アルを取り戻す。」


「当たり前だ。」


シドが短く返す。その言葉には迷いがなかった。


目指すは頂上――アルもきっと、たどり着く。私たちは停止する機械を背に走り出した。


広がる真っ白な空間に、私とシドの足音が反響する。それは、妙に不安を掻き立てるような響きだった。


「機械を視認……いくぞ。」


シドが低く呟く。だが、その声色は暗く、いつもの冷静な彼とは違っていた。肩に漂う緊張感。目からは光が消え、焦りと怒りが滲み出ている。


「シド……私が行く。」


私は立ち止まり、彼を見据えた。


「ダメだ、リリィ。お前まで罠にハマったら――」


シドが警告の声を上げるが、私はその言葉を遮るように義足の推進装置を起動させる。瞬間、青白い炎が噴き出し、一気に機械との距離を詰めた。


「っ!」


シドが驚いて声を漏らす間もなく、私はその場にいた全ての機械を一瞬で切り捨てた。モーター式微振動剣が鋭い軌跡を描き、機械たちは何も反応できぬまま崩れ落ちていく。


私は肩越しに振り返り、シドを睨みつけるように言った。


「シド、あなた冷静になりなさい。」


彼は眉間に皺を寄せたまま、無言で私を見返す。


「アルは上で必ず合流する。あんたの家族でしょ?焦る気持ちはわかるけど……信じてあげてもいいんじゃない?」


その言葉に、シドの表情がわずかに揺らいだ。


「信じる、か……。」


彼は深く息を吐き出し、拳をぎゅっと握り直す。


「……悪い。確かに、焦りすぎてたかもしれない。」


その瞬間、彼の目にわずかだが光が戻るのを感じた。


「アルは必ず生きてる。俺たちがここで足を止めてる暇はないな。」


「そうよ。それに、アルだって私たちが無事にたどり着くことを信じてるはず。」


「そうだな。」


シドは小さく頷き、再び前を向いた。彼の背中に、いつもの頼りがいが少し戻ったように思える。


私たちは再び走り出した。機械が散らばる真っ白な空間を駆け抜けながら、胸の奥で固く誓う――アルも必ず、無事でいると信じて。


だが、この静寂が嵐の前触れであることを、まだ私たちは知らなかった――。


次の瞬間、天井から焦げ臭い匂いが漂ってきた。見上げると、赤熱した金属片が溶けながら落ちてくる。


「危なっ――!」


反射的に上を向いたその瞬間、視界が突然何かに遮られた。


「ぐっ!」


重たい衝撃が私の身体を押し倒す。その場に倒れ込んだ私は、何が起きたのか確認しようと落ちてきた物体に目を向けた。


「……リ、リニア!?」


そこにいたのは――リニアだった。金属片と共に天井から降ってきた(いや、正確には落ちてきた)彼女が、私の上にのしかかっている。


「リリィ!こんなところにいたの!?助かったわ!」


言葉が出ない。天井から降ってきた経緯が謎すぎるし、ツッコミどころが多すぎる。


「……リニア、天井から何してたの?」


「あっ、えっと……その話は後でいいでしょ!」


後でいいのか。いや良くないでしょ…と喉まで出かけたが、まず確認しないといけないことがある。


「リニア、ルーカスは?同じ班のはずでしょ?」


「大丈夫よ!私が開けた穴からついてきてるはず!」


「……穴?」


リニアが自信満々に言いながら、天井を指差す。確かめるために、私も彼女が落ちてきた天井を見上げた。


「穴が……ない……」


「えっ……ない……?」


リニアは一瞬硬直し、顔に汗が滝のように流れ始める。


リニアがヘルファイアで開けて来た穴はとっくに修復されていた。


「ルーカスを置いてきたの……?」


私はその言葉が頭の中でぐるぐると回るのを感じた。リニアは必死に目線をそらし、無言で笑顔を作る。


「だ、だってほら!ルーカスなら大丈夫でしょ!?あの人タフだし!」


「……タフとかそういう問題じゃないでしょ!」


目の前でうろたえるリニアの顔を見ていると、なんだか急に力が抜けてしまう。


「もう……あなたって本当に……」


そのまま私は目の前が真っ白になり、気づけば意識を手放していた。


「リリィ!?ちょっと待って!ごめん、起きて――!」


リニアの叫び声が、だんだん遠くに消えて行った――


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