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革命のリリィ  作者: 鳩ポ
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二十七話 開戦

出発の準備は整った。


巨大な機動要塞「レヴナント」。その内部へと数百人の兵士たちが次々と乗り込んでいく。彼らの顔には、緊張と不安、そして覚悟が入り混じっていた。その目的地――軍事都市セントリオシティ。そこに待ち受けているものは、いまだ誰にも分からない。


船長室に集まったのは、鉄鬼隊のメンバーに加え、セラン、ゲンテツ、リン、シド、アル、そして幹部たち。緊張感が室内を覆い尽くし、誰もがセランの次の言葉を待ち構えていた。


「これから、セントリオシティの構造について説明する。」


セランは前へと進み出た。その鋭い糸目をわずかに開き、プロジェクターのスイッチを入れる。その視線には、いつもとは違う重みが宿っている。部屋全体が息を呑むような静けさに包まれた。


「セントリオには、二つの巨大なドームがある。それぞれ『イースト』と『ウエスト』。我々の最初の目標は、そのどちらか一方を奪取することだ。」


彼の言葉に合わせ、プロジェクターにはセントリオシティの内部構造が映し出される。スクリーンに映ったのは、細かすぎるほど複雑な迷路のような構造。無数の通路が絡み合い、まるで逃げ場のない罠のように見えた。


「このドームの頂上には『操縦席』がある。そこが我々の目指すゴールだ。」


その言葉に幹部たちの間にざわめきが広がる。「操縦席」という単語が妙に耳に残ったのだ。それはただの防衛施設には不釣り合いなものだった。


「操縦席?」

思わず口を開いたのは私――リリィだった。疑問が胸に込み上げ、言葉に出る。


「どうしてそんなものがあるの?」


問いかけた瞬間、奇妙な感覚が襲った。――これと似たような状況を、前にも経験したような気がする。遠い記憶の底で、何かがざわめいている。


セランはゆっくりと私を見つめ、その鋭い目がまっすぐ私に突き刺さる。そして一呼吸置いてから、口を開いた。


「動くんだ。ドームごと、丸ごとな。」


その言葉は、凍てつく刃のように私たちの心を貫いた。一瞬、船長室にいる全員が言葉を失った。「動く」――その意味を理解した瞬間、誰もが同じことを考えた。


「まさか……」


ゲンテツが低い声で呟く。普段は頼もしい彼ですら、言葉を続けることができなかった。


セランは淡々とした声で説明を続けた。


「セントリオのドームは単なる防衛施設じゃない。それ自体が移動要塞として機能する。そして、頂上の操縦席を奪われれば、ドームそのものが我々の武器になる。」


移動要塞――その言葉が持つ重みがじわじわと広がっていく。つまり、ドーム全体が敵そのものだ。そして私たちはそれを相手にしなければならない。


「ただし……その中に入ること自体が最大の難関だ。」


セランは眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情を浮かべた。


「セントリオは、壁や床、そのすべてが変形部分強化アーマーで作られているんだ。」


「……変形?」


ゲンテツが尋ねる。彼の声には珍しく、焦りが滲んでいた。


「ああ、状況に応じてドーム内部の構造が完全に変わる仕組みになっている。通路も壁も、床も、すべてがリアルタイムで形を変え続ける。」


その言葉を聞いた瞬間、全員の表情が凍りついた。


「じゃあ……映し出されてるこの地図は?」


誰かが恐る恐る尋ねる。


「役に立たない。」


セランの声には、絶望的な現実が詰まっていた。


「つまり、何のガイドもなく、街ひとつ分の迷路を攻略しなければならないってこと?」


私は思わず声を上げた。考えただけで吐き気を覚えるような作戦だ。しかもその迷路は、刻一刻と形を変え続ける。まるで生きた生物の中を彷徨うような状況になるのだ。


「それだけじゃない。」


セランはさらに続ける。


「変化するのは構造だけじゃない。ドーム内部には、電撃トラップ、火炎放射、そしてAI兵器が配置されている。進むたびに仕掛けが作動し、我々を排除しようとするだろう。」


「……終わりじゃねぇか。」


ゲンテツが荒々しくつぶやく。だが誰もそれを否定することはできなかった。


「それでもやるしかない。」


セランの声が再び響く。その目は、全員を射抜くように鋭かった。


「この作戦に成功すれば、我々はセントリオの支配権を手にする。それは、未来への切り札だ。」


誰もが息を呑む中、私は拳を握りしめた。心の中に渦巻く恐怖を振り払うように。絶望的な状況だとしても、ここで諦めるわけにはいかない。守るべきものがある――その想いを胸に刻み、私は顔を上げた。


船長室の窓から見えるデッキには、戦いに備える兵士たちの姿が広がっている。みな一様に緊張した面持ちだが、その中に微かな希望の光も宿っていた。私たちが負けるわけにはいかない理由、それがそこにあった。


「リリィ、ゲンテツ、あんたらいつからそんな弱腰になったの?」

唐突に響いたリニアの声が、張り詰めた空気を切り裂いた。彼女は腕を組み、顎を少し引き上げながら鋭い視線を私たちに向けている。

「目標はAIの撲滅でしょ?こんなので怯んでたら、いくらやったって意味ないわよ!」


その言葉が鋭く胸に刺さる。リニアの苛立ちには、正論があった。そして、その苛立ちに乗るようにリンが続ける。


「あんたらがワシらのとこ来た時の目、もっと勇気と自信に満ちとったぞ?」

彼は目を細め、まるで昔を思い出すかのような表情で話す。その声には静かな怒りが滲んでいた。

「ワシはええ目をしとるヤツが来たから信頼してきたんじゃ。がっかりだけはさせんなよ。」


耳が痛い言葉だった。確かに、今の私は長い移動と不安で心が揺らぎ、初めての決意を忘れかけていたのかもしれない。気を引き締めなければならない――そう強く思う。


「……わかったよ、リニア、リン。ありがとう。」

小さく呟いた私の声に、リニアがふっと笑う。

「ったく、最初からそうしてりゃいいのよ。ほら、早く覚悟決めなさい!」


その瞬間、船長室の緊張感が少しだけ和らぐ。だが、その和らぎは次の戦いへの準備にすぎない。私たちは改めて目を合わせ、静かに頷いた。


「全員、配置につけ!」

セランの冷静な声が響く。

次の瞬間、機動要塞レヴナントが低い振動音を立てながら動き出した。デッキにいる兵士たちがその音に鼓舞され、掛け声を上げる。


到着まで3日…勝利以外の道はない。


食べて、寝て、起きて、訓練と作戦会議の日々。戦いの前に眠れなくなることは、もうなくなった。やっと自分が戦闘員として板についてきたのだと実感する。やるべきことが多く、時間はあっという間に過ぎていった。


「見えたぞ……。」


それは、山脈を越えた荒野をレヴナントが進んでいるときだった。操縦席に座るゲンテツが、前方に巨大なドームを発見した。レヴナント内でも、ざわめきが広がる。


「レヴナント、停止!前方目標セントリオシティを発見!各部隊、即座にレヴナント下に集合準備を整えろ!急ぐ必要はない。ゆっくりと、確実に準備に取り掛かれ!」


ゲンテツの放送が船内に響く中、私は目の前にそびえるドームを見つめ、冷や汗をかいていた。――でかい。地平線の先にあるはずなのに、その巨大さが遠近感を狂わせるほど圧倒的だった。だが、そのドームは動くことなく、ただそこに存在している。


「セランさん、ドームが動いていません。移動要塞なんですよね?」


私は、ドームのことを一番よく知っているであろうセランに尋ねた。


「ドームは、ある特殊なパスワードを入力しなければ動かない。それを知っているのは、私とリンの二人だけだ。」


セランは静かに答えながら、ドームを指差す。その表情にはわずかに険しさが滲んでいた。


「だから、AIがドームを動かして逃げたりすることはない。ただし……内部構造は、パスワードとは関係なく変化し続けている。気をつけてくれ。」


その言葉に、私は少しだけ安堵した。しかし、緊張を緩めることはなかった。目の前に広がる巨大なドームが、まるで生きているかのように存在感を放っている。その奥で、どんな罠や敵が待ち受けているのか――考えただけで背筋が寒くなる。


3時間後――


レヴナントの下には、数百の兵士たちが整列していた。列はどこまでも続いており、その様子は一糸乱れぬ統制を感じさせる。荒野の冷たい風が吹き抜け、兵士たちの衣服を揺らしていくが、誰一人として動じる者はいない。その中にはアルとシドの姿もあった。彼らの目は、戦場を見据えるように鋭く光っている。


ゲンテツとセランが兵士たちの前に立つ。二人の立ち姿は堂々としており、自然と全員の視線が彼らに集まった。重い沈黙が広がる中、セランが一歩前に進み出た。冷静な表情を崩さず、静かな声で語り始める。


「私から言うことはありません。作戦通り、全力でお願いします。」


それだけだった。簡潔な言葉に、兵士たちの緊張感が一層高まる。しかし、拍手も声援もない。ただ冷たい風の音だけが、静かに耳をかすめる。妙に締まらない空気の中、セランは一瞬、居心地の悪そうな表情を見せた。


その時だった。


「オォォォォォォーーーッ!!!!!」


突如として大地を揺るがすような雄叫びが響き渡った。声の主はゲンテツ。彼の太い声が空気を裂き、まるで雷鳴のように兵士たちの士気を叩き起こす。その瞬間、兵士たちは我を忘れたかのように、喉の奥から声を絞り出し、地響きを伴うような大歓声を上げた。


「ウォォォォォォォーーーッ!!!!!」


荒野に反響するその声は、次第に連鎖し、波のように広がっていく。レヴナントの装甲が震えるほどの熱気。兵士たちの顔には緊張が消え、代わりに燃え上がる闘志が宿っていた。


「……おい、AIに見つかったらどうするんだよ……。」


セランは苦笑いを浮かべながらため息をつき、頭を掻いた。彼のぼやきが聞こえるはずもないほどの騒音の中、それでも彼の目にはわずかな安心と期待の光が宿っていた。


ゲンテツはそんなセランを気にすることもなく、拳を突き上げてさらに叫ぶ。


「これが俺たちの力だァ!覚悟を決めた奴からついてこいッ!!!」


兵士たちはゲンテツの言葉に応えるように、さらに声を張り上げた。遠くに見えるセントリオシティの巨大なドーム。その姿を見上げながら、全員の視線が一つに集まる。


そして、今――


この瞬間をもって、AIとの戦いが正式に幕を開けた。後戻りはできない。全員がそれを理解していた。冷たい風の中に熱気が混じり、空気が変わっていくのを感じながら、私は拳を握りしめた。この戦いの先に何が待つのか、それはまだわからない。それでも、進むしかない。私たちには、その覚悟がある。

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