二十五話 力試し (1)
私たちはセランに、セントリオシティ奪還作戦について説明した。
「なるほど……。」
セランは顎に手を当て、深く考え込むような仕草を見せた。彼の糸目がさらに細まり、部屋には静寂が訪れる。その沈黙を破ったのは、ゲンテツだった。
「俺からも質問がある。なぜ、ここをセントリオシティと名乗っているんだ?」
ゲンテツの問いかけに、セランは視線を上げ、彼の顔をじっと見つめる。少しの間を置いて、まるで仕方がないと言いたげに溜息をつきながら立ち上がった。
「説明が必要だな。」
セランはゆっくりと歩きながら話し始めた。
「私たちは、元々軍事都市セントリオシティで働いていた職員だ。セントリオシティは、AIが世界を支配した後もその牙城として耐え続けていた。しかし……10年前、ついにその均衡が崩れた。」
セランの言葉に、私たちは息を飲んだ。その声には冷静さを装いながらも、どこか悔しさや哀しみが滲んでいるように感じられた。
「10年前、AIの軍勢がついにセントリオシティを襲撃し、私たちは拠点を放棄せざるを得なかった。その後、残された生存者たちが集まり、こうしてこの山間部に避難したのだ。」
セランは手を広げ、今私たちがいる洞窟を指し示すような動作をした。
「ここは、本当のセントリオシティではない。だが、かつての誇りを失わないために、我々はこの場所を”セントリオシティ”と呼び続けている。そして、いつかあの軍事都市を取り戻す日を夢見て、準備を重ねてきた。」
セランの瞳は依然として糸目で隠されていたが、その言葉には確固たる決意が宿っていた。
「私たちが名乗る理由は、それだけだ。だが、お前たちの話を聞いていると……目指すものは同じかもしれないな。」
セランの言葉に、ゲンテツは黙って頷き、リニアと私は目を合わせた。奪還という目的で一致している――しかし、この先どうするべきかはまだ明確には見えてこない。
「……つまり、お前たちも奪還を目指している、そういうことか?」
ゲンテツが確認するように問いかけると、セランは再びゆっくりと笑みを浮かべた。
「そうだ。我々はセントリオシティを取り戻し、再び人類の希望とするためにここで生き残ってきた。そして、お前たちのような仲間が増えることは、悪い話ではない。」
その言葉に、私たちはさらなる緊張感と期待を抱きながら、次の一手を考え始めた。
「私たちも人員が枯渇してたとこよ。戦闘員が増えるのはとても助かるわ。」
リニアがそう言いながら、セランに向けて真剣な表情を浮かべる。続けて尋ねた。
「そちらには、何人くらい戦える人がいるの?」
その質問に、シドとアルが互いに目を合わせ、次いで周囲をキョロキョロと見渡した。そして、少し申し訳なさそうに答える。
「……3人、かな。」
「3人?」
私たちは思わず声をそろえてしまった。少なすぎる。その場にいた全員が同じ感想を抱いただろう。AIの襲撃で戦闘員が減ったのは容易に想像できたが、それでもたった3人とは……。こちらの戦力を合わせても、総勢15人程度だ。
私たちの反応に気づいたアルが慌てて補足するように口を開いた。
「いやいや、誤解しないでくれよ。主戦力になるのが3人ってだけでさ。他にも元軍人のやつらが沢山いるんだよ。」
「どのくらい?」
リニアが眉をひそめて問い返すと、アルは自信を持った声で答えた。
「ざっと100人くらいだな。level2くらいまでのAIなら倒せるはずだ。」
その言葉に、私たちは一瞬安堵の表情を浮かべたものの、同時に不安も拭えなかった。AIのレベルが2程度なら、そこまでの脅威ではない。だが、目指すセントリオシティを支配しているAIは、間違いなくそれ以上の存在だ。
「なるほどね……でも、それじゃlevel4以上のAI相手にはどうなるの?」
私が静かに問いかけると、アルとシドが再び目を合わせた。今度は明らかに困ったような表情をしている。
「正直に言うと、level4以上は厳しいな。でも、お前らがいるなら話は変わるだろ?」
アルの言葉に、ゲンテツがにやりと笑った。
「いいじゃねえか。戦えるやつがいるだけマシだろ。俺たちがやるべきことは変わらねえ。必要な戦力を作り、戦って奪い取る。ただそれだけだ。」
その勢いに、場の空気が少しだけ明るくなる。とはいえ、課題は山積みだ。この人数と戦力でどうやってセントリオシティを取り戻すのか――それがこれからの大きな試練になることは間違いない。
「一つお願いしてもいいか?」
セランが問いかけると、ゲンテツは少し身構えた様子で返事を促した。
「レヴナントの方々を疑ってるわけじゃないんだが、仮にも共にセントリオを取り戻すことになった仲間だ。少し腕試しをさせてくれないか?」
「腕試し?」
ゲンテツが眉をひそめると、セランは微かに微笑んで続けた。
「ああ、うちの戦力の一人と少し模擬戦をしてほしい。」
そう言いながら、セランは部屋の端でじっとしていた少年の前に歩み寄った。少年は目を伏せたまま機械をいじっている。
「リン、戦ってくれるかい?」
その言葉に少年は一瞬動きを止め、鋭い目つきでセランを見上げた。その視線には不機嫌さとわずかな苛立ちが混じっている。
「ワシは、頭は使えん。作戦会議はそっちでやっとけや。」
少年だと思っていたその男は、予想外に低くドスの効いた声で答えた。部屋に響くその声は、彼の若々しい外見とは全く異なる威圧感を放っていた。
「まさか、これが戦力の一人ってわけ?」
リニアが小声で私にささやいた。私は返事をすることができなかった。リンという男が放つただならぬ雰囲気に、言葉を失っていたからだ。
「心配するな、彼は頼れるよ。」
セランが穏やかに微笑みながら、リンの肩を軽く叩いた。その仕草には信頼が込められているようだった。
「そっちは誰がやるんだ?」
リンが鋭い目で私たちを見ながら問いかける。その視線には少しの挑発が混じっていて、誰もが一瞬言葉を失った。
誰が適任だろうか――私は頭の中で候補を探し始めたが、答えを出す前にゲンテツの手が私の背中を思い切り押した。
「うわっ!」
不意を突かれた私はバランスを崩しながら前に出てしまう。
「ウチからはコイツを出すぜ!」
ゲンテツの声が響く。私は驚いて振り返ると、彼は得意げな顔で私を指さしていた。
「ちょ、ちょっと待って!誰がやるとかまだ決めて――」
「いいから行け!お前が一番適任だろうが!」
「適任って何よ!」
ゲンテツは自信満々で笑みを浮かべているが、その目は「深く考える必要なんてないだろ」という軽いノリそのものだ。
私は深いため息をつきながら前に立ち、リンを見据えた。彼の目は冷静そのもので、私の表情や態度を瞬時に見透かしているように感じられる。
「準備はいいのか?」
リンの低い声が耳に響く。私は心の中でゲンテツを何度も恨みながら、背筋を伸ばして応えた。
「いいわよ。来なさい。」
私の声は少し震えていたけど、ニヤリと笑いながら久しぶりの戦闘に少しワクワクしていた。




