二十四話 セントリオシティ【?】
「セントリオシティ…?」
その言葉を聞いた瞬間、私は思わずゲンテツの顔を見た。彼の表情には困惑が浮かんでいる。
「いやいや、違うぞ…セントリオシティはここじゃない。もうすぐ着くとは言ったが、まだずいぶん距離がある。」
ゲンテツは首をかしげながら、男たちに向かって両手を広げた。ゆっくりと距離を詰めながら、穏やかな声で問いかける。
「あんたらはセントリオシティと何か関係があるのか?」
しかし、男たちはさらに警戒を強め、銃口をわずかにこちらに向けた。
「聞いてるのはこっちだ。何の目的でここに来た?まずはそれに答えろ。」
その言葉には、鋭い威圧感が込められていた。私は一歩前に出て、強い意志を込めた声で答える。
「私たちは、この先にある本当のセントリオシティを取り戻しに来たの!あなたたちがセントリオシティとどう関係しているのかは知らない。でも、AIに勝つためには、どうしても必要なの!」
その言葉に、男たちの表情がわずかに揺れた。「勝つため…」と、低く呟いたその声には迷いが混じっている。
すると、彼らは無言で互いに目を合わせ、何かを確認するようにうなずいた。そして、一人が銃を下ろし、もう一人が振り返りながら短く命じる。
「ついてこい。ヒューマンコロニーに案内してやる。」
その言葉に、私たちは一瞬驚いたが、次の瞬間には警戒を解かずに動き出していた。
「リリィ、これは罠かもしれない。」
リニアが低い声で耳打ちしてくる。
「分かってる。でも、ここで信じなければ前に進めない。」
私は決意を込めて答え、男たちの後を追う。
誰もが無言のまま小一時間ほど山道を歩き続けた頃だった。森の中から突然、山の側面に埋め込まれたような、少し錆びた重厚感のある鉄製の扉が姿を現した。
「ここだ。」
男の一人が立ち止まり、扉についた埃を手で払い落とした。そして真ん中に手をかざすと、扉はギリギリと金属が擦れる音を立てながらゆっくりと開いた。その様子には機械らしい正確さと古びた重々しさが同時に漂っていた。
「入れ。」
男の無表情な命令に従い、私たちは慎重にその門を潜った。中に入ると、そこはまるで天然の洞窟のような空間が広がっていた。しかし、よく見ると廊下の両側には人工的に掘られた横穴が並んでいる。その横穴の一部は、洞窟とは不釣り合いなほど未来的なサイバーテクノロジーで装飾されていた。
「何なんだここ…」リニアが小声で呟く。
私も同じ疑問を抱いていた。この地下空間は、ただの避難所ではなさそうだ。まるで過去の文明と未来の技術が交差する奇妙な場所だった。
「ここからが広場だ。」
男が一歩先に立ち止まり、私たちに向き直る。そして、冷たい目で言い放った。
「釘を刺しておくが――絶対に暴れるな。少しでも不審な動きをしたら即殺す。」
その言葉には、ためらいも容赦も感じられなかった。私は息を呑みながら、一瞬だけ後ろを振り返る。鉄鬼隊の仲間たちもそれぞれ警戒心を強めているようだった。
うまくいけば仲間になってくれるかも、なんて甘い期待をしていた自分がバカに思えてくる。
私は気を引き締め直し、彼らの後をついていった。だが、その広場に足を踏み入れた瞬間、予想外の光景が目に飛び込んできた。
「おかえりなさい、シド! アル!」
「遅かったじゃん! どこ行ってたんだよ!」
「シド兄ちゃん、おかえり!」
「あ…アルにぃもおかえり。」
「相変わらず愛想の悪いアルは好かれないな」
「うるせい」
2人の態度は、殺意むき出しな感じとは掛け離れていた。
その時、
「後ろの人たち、だぁれ?」
子どもたちの一人が首を傾げながら、私たちを興味深そうに見上げた。純粋な瞳に射抜かれるような感覚に、一瞬言葉を失う。
「あぁ――にいちゃんたち、団長に用事があるんだ。また後で遊ぼうなぁ。」
シドは大きな手で子どもの頭を優しく撫でながら、広場の真ん中で足を止めた。周囲にいる住民たちも、私たちにちらりと視線を投げるが、すぐに日常の作業に戻っていく。
「さ、着いてこい。」
短く告げたシドが再び歩き始める。私たちは促されるままに、彼らの後をついて広場を抜けた。
洞窟の中は、広場を境に少しずつ雰囲気が変わっていく。先ほどまでの明るくにぎやかな空気が嘘のように、道は静寂に包まれ、足音だけが響く。
…さっきまでの緊張感は何だったんだろう。
私は無意識にゲンテツやリニアの表情を確認したが、二人も同じように微妙な顔をしている。
「……何か、拍子抜けするわね。」
リニアがぼそりと漏らした。確かに、彼らの厳しい警戒心や脅し文句を受けて、こちらも全力で身構えていたのに、広場での彼らの振る舞いは全く違うものだった。
子どもたちに囲まれたシドとアルは、どこか兄貴分のような温かさすら感じさせた。あの柔らかい表情は、少なくとも最初に見せられた冷徹な顔とは全然違う。
「……気を引き締めてた自分が、ちょっと恥ずかしいわ。」
小さく息を吐きながら私はつぶやく。
「まぁ、まだ油断はするな。」
先を歩くゲンテツが低い声でそう返す。その言葉にハッとする。確かに、彼らが柔らかい一面を見せたからといって、こちらが油断していい理由にはならない。
――私たちがここにいる理由を忘れてはならない。目的は団長と呼ばれる人物と話をすること。そして、それが平和的なものになる保証はどこにもないのだ。
廊下の先には、まだ見ぬ団長が待っている。その人物が、このヒューマンコロニーの全てを左右する鍵になるだろう。
そして、団長室の扉が静かに開かれた。
中に足を踏み入れた瞬間、外の洞窟の荒々しさとは対照的な光景に息を呑む。木目の美しい机と柔らかそうなグレーのカーペットが敷かれ、壁は白を基調とした清潔感のあるデザインで整えられている。普通の部屋のようでありながら、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。
正面には向かい合うようにソファーが二つ並べられ、その間にあるテーブルの奥には、糸目の男が両肘をついて静かに座っている。その傍らでは、少年が黙々と機械をいじっていた。彼らの様子は自然で、侵入者であるはずのこちらを全く警戒していないかのようだ。
アルがその糸目の男の横へ歩み寄り、耳元で何かを囁く。声は聞こえなかったが、その仕草から二人の間には確固たる信頼関係があることが伝わってきた。
アルが話し終えたタイミングを見計らったように、ゲンテツが一歩前へ進み出た。大きな体躯を堂々と見せつけるようにして、その威厳溢れる声で口を開く。
「初めまして。俺の名前はゲンテツ。ヒューマンコロニー『レヴナント』の船長だ。」
その名乗りに、糸目の男は微動だにしなかった。少年も作業を中断することなく手を動かし続けている。驚きや興味を示す様子は皆無だ。
そして、糸目の男はゆっくりと立ち上がる。優雅な動作で胸に手を当て、ニタリとした笑みを浮かべながら口を開いた。
「私はヒューマンコロニー『セントリオシティ』の団長、セランと申します。どうぞ、よろしく。」
その声には、一片の緊張もなかった。むしろ、全てを見透かしたような余裕と冷静さが滲み出ている。
どうぞよろしく、だって?
私の心はざわめいていた。この男――セラン――彼の目は、何もかもを見透かすかのような鋭さを隠し持っている。その無機質な笑みと余裕の態度に、こちらの考えが全て読まれているような錯覚を覚える。
「それで、船長殿。」
セランはゆっくりとした口調で言葉を紡ぐ。
「ここまで来た目的を私にも聞かせてもらおうか。」
ニタリと笑うセランの一言で、部屋の緊張感はMAXになっていた。




