二十二話 スタートライン
後日―各部隊に作戦の概要が配られた。
『人類復興計画No.1』―――
「随分と壮大な計画だな。」
ルーカスは眉間にシワを寄せ、疑問と困惑が混じった表情で私を見つめていた。その声には明らかな懸念が込められている。彼は私を応援してくれている。それは間違いない。だが、戦うことを信条としている彼にとって、私の作戦は戦うべき相手から目を背けているように映っているのかもしれない。
「軍事施設なんて、とんでもなく大規模だろ?それを、たった12人でどうにかできるとは思えない。それに、奪うって言うけど、そもそも何処の軍事施設を奪うんだ?」
ルーカスの言葉には、焦りと苛立ちが滲んでいた。彼の目は私を試すように鋭く光っている。
「場所は――中国よ。」
一瞬の静寂。そして、爆発するような声が響いた。
「はぁ!?中国だと!?」
ルーカスとリニアがほぼ同時に声を上げた。彼らの表情は驚愕そのものだった。
「バカなの?」
リニアは腕を組みながら鋭い目で私を睨む。彼女の声には呆れたようなトーンが混じり、言葉はまるでナイフのように鋭かった。
「中国って言ったら、AIの支配が最も強い地域でしょ?そこに行くって、本気で言ってるの?そんなの、無謀にもほどがある!」
リニアの言葉にルーカスも大きく頷く。彼は深いため息をつきながら続けた。
「リリィ、確かに僕たちは色々な無茶をやってきたけど、今回のは次元が違うぞ。中国だぞ?それも軍事施設なんて、AIが厳重に管理してるに決まってる。どうやってそこにたどり着くんだ?それ以前に、どうやって生き延びるつもりなんだよ。」
2人の反応は予想していたものの、こうして実際に言葉として突きつけられると、少し不安になるが怯むわけには行かない。
「分かってる。中国は最も危険なエリアだし、成功する確率なんて限りなくゼロに近いかもしれない。それでも……行く価値がある。」
私は2人の目をしっかりと見据えた。そして、続ける。
「前のヒューマンコロニーで教師をしていたから知っているのだけれど、かつて世界中がAIを敵として共通の脅威と認識したことで、一時的ではあるけれど平和が実現した時代があったの。その時期に、アメリカと中国が手を組み、最高の技術力を結集して世界中にいくつかの軍事都市を築いたわ。私たちが目指すのは、その中の一つ――軍事都市『セントリオシティ』よ。」
その言葉にルーカスとリニアは驚愕し、無言で私を見つめた。彼らの表情には驚きと懐疑の色が浮かんでいる。私は息を整え、彼らの目を真っ直ぐに見ながら続けた。
「確かに、12人で軍事施設を奪うなんて、無謀に聞こえるかもしれない。それはわかっているわ。でも、私たちがやらなければならないの。それが私たちの使命なのよ。」
その言葉には、私自身の覚悟が込められていた。そして、彼らにこの計画の真の意義を伝えるため、さらに言葉を続けた。
「なぜなら、セントリオシティには、AIに対抗するための『力』が眠っている。私たちは、その力を手に入れる必要があるの。それは、この戦いを終わらせるための唯一の希望かもしれない。もしこの力を使いこなせれば、私たちはAIに対して初めて優位に立てるかもしれない。」
一瞬、場が静まり返った。ルーカスは腕を組み、考え込むように顔をしかめた。リニアはため息をつきながらも、どこか理解したような目で私を見ていた。
「リリィは僕たちに、生き残れって言った。でも……今からやろうとしていることは、香港のAIを倒すのと同じくらい危険だ。」
ルーカスの言葉には、冷静さとどこか割り切ったような響きがあった。その視線は鋭く、それでいてどこか私を試しているようにも感じられる。
「そうね、危険なのはわかっている。でも少人数で攻めて、軍事施設にある兵器をいくつかでも奪えれば、戦況を大きく変えることができるのよ。それが成功すれば、私たちはもっと大きな目標を現実にできる。」
私の言葉にルーカスはわずかに眉を上げたが、黙ったまま耳を傾けているのがわかった。私は言葉を続ける。
「無理だと判断したらすぐに撤退する。それは約束するわ。でも、今ここで悩んでいる時間はもったいない。私たちには、もう迷う余裕なんてないのよ。」
私はルーカスを真剣に見つめた。その眼差しに、私の覚悟を伝えたい――そう思った。すると、彼の険しい顔が少し緩んで、ふっと笑みを浮かべた。
「リリィ、僕はね、戦うのが一番だと思ってる。だから、逆に君が逃げ腰じゃなくて安心したよ。」
そう言いながら、ルーカスは天井を見上げるようにして深く息を吸い込み、そして勢いよく立ち上がった。その動作には、彼の決意が感じられた。
「敵の武器を奪って形勢逆転――最高じゃないか。僕はどこまでもついて行くよ。リリィ副船長。」
その言葉に思わず笑みがこぼれた。仲間の信頼がどれほど心強いものか、改めて実感する。
「当然よ。逆にルーカスが逃げ腰じゃなくて安心したわ!」
リニアも立ち上がり闘志を燃やしている。
私たちはお互いに微笑み合った。その瞬間、緊張感が少しだけ和らぎ、部屋の空気にわずかな温かさが戻ったような気がした。それでも、この先に待ち受ける試練を考えると、気を引き締めなければならない――そんな思いが、私の中には確かにあった。
セントリオシティまでの道のりは約1か月――。その間にも、決戦の時は確実に近づいていた。
移動中の空気はどこか張り詰めていて、誰もが来るべき戦いのことを考えながら、準備を進めている。訓練に励む者、武器を整備する者、作戦の最終確認を繰り返す者。それぞれが自分の役割を果たしながらも、心の奥底では同じ感情を抱いていた。
「間に合うだろうか?」
「勝てるのだろうか?」
そんな不安を抱えながらも、誰もが言葉にしなかった。それは、互いの士気を下げないためでもあり、自分自身を奮い立たせるためでもあった。
一方で、どこか高揚感も漂っていた。AIに支配され続けた長い年月の中で、ついに人類が反撃の一歩を踏み出すのだ。誰もがその瞬間を待ち望んでいた。
セントリオシティ――世界最強の軍事都市に挑むという、あまりにも無謀で壮大な計画。だが、その中には確かな希望があった。この戦いを制することで、人類の未来は変わるかもしれない。
揺れるレヴナントの中で、私は窓越しに広がる空を見上げた。雲が切れ、青空が覗く。その先に待つのは、勝利か、それとも――。
「絶対に負けない」
私はそっと呟き、拳を握り締めた。私たちの旅路は、まだ始まったばかりだった。




