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革命のリリィ  作者: 鳩ポ
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十九話 ゲンテツ

工場地帯前――


私たちレヴナントの隊員は、負傷者や遺体を運びながら、ゆっくりと帰還していた。


死傷者の数があまりにも多く、途中からは、やむを得ず死亡した者をその場に置いていかざるを得なかった。それでも、私たちは疲労に耐えながら機動要塞レヴナントへと歩を進めた。戦いの余韻が消えぬ中、無言の行軍が続く。


そして、私たちは機動要塞レヴナントへ帰還した。


死者、十五名。

重症者、十二名。


戦いの結末は、まさに最悪だった。全員が死亡、もしくは重症。機動要塞レヴナントは、その状況をまるで意に介さないかのように、ヒマラヤ山脈へと進路を取った。


私自身、この戦いで右目の視力を失い、義眼での生活を余儀なくされた。最新の義眼は非常に高性能で、普通の目と変わらずに景色を見ることができる。さらに、モードを切り替えることで、赤外線の視認や暗視機能も利用できる。この便利さに、いっそ全員が義眼にしたほうがいいのではないかと思うほどだ。


しかし、どれだけ優れた義眼でも、自分の体が少しずつ機械化していくことに対する違和感や抵抗感は、どうしても拭えなかった。義眼を使いこなすたびに、喪失感が胸の中に広がる。自分の一部が失われ、その代わりに冷たい機械が埋め込まれている感覚は、どうしても慣れなかった。


リニアはこの戦いで両目を失い、両方とも義眼になった。しかし、彼女はそのことに対して意外にも前向きだった。むしろ、義眼の性能に驚き、喜んでいるように見えた。彼女は何度もモードを切り替えながら、赤外線や暗視機能を試しては、まるで新しい世界を発見したかのように笑みを浮かべていた。


「すごいわ!これ。前よりずっと鮮明に見える。夜なんてもう怖くないわよ!」


と彼女は無邪気に言った。その笑顔には、失ったものよりも、新たに得た能力に対する喜びがあふれていた。


私が抱えている喪失感とは対照的に、リニアはこの技術を受け入れ、楽しんでいるようだった。彼女にとっては、体の一部が機械に置き換わることは新しいおもちゃをもらった時のような感じなのだろう。


私の気分が悪い理由は他にもある。それはゲンテツについてだ。帰還した際、彼から労いの言葉はあった。しかし、現在、戦闘員はわずか十二人しか残っていないという状況にもかかわらず、彼はヒマラヤ山脈を超え、香港へ向かおうとしているのだ。


無理に決まっている。たとえヒマラヤを越えて香港にたどり着いたとしても、そこに待ち受けているのは、おそらくlevel4を超えた化け物だ。これまで戦ってきた相手とは比較にならないほどの強敵が潜んでいる可能性が高い。


ゲンテツがどれだけ頑固であろうとも、このままでは我々全員が滅びる危険がある。

私は、この無謀な行動を止めなければならない。


そんな思いを抱きながら、私は船長室へと足を向けた。


「ゲンテツ!」


勢いよくドアを開け、私は大声で彼の名前を呼んだ。


ゲンテツはゆっくりと振り向き、いつものように掴みどころのない表情で答える。


「おお、どうしたリリィ?」


その軽い返答に、私の中の怒りがさらに燃え上がった。


「どうしたじゃないわよ! あなた、今の状況を本当にわかってるの?」


ゲンテツは落ち着いた口調で言った。


「ああ、レヴナント内の情報はすべて把握しているつもりさ。」


「それなら…なんで…なんで香港を目指してるのよ?」


声が震えた。今の状況で香港を目指すことがどれほど無謀か、彼に本当にわかっているのか疑わしくて仕方なかった。


生き残った戦闘員はたった十二人。そのうち半数は重症で、後遺症が残っている者も多い。ルーカスだって、まだ左手の痺れが治らずに苦しんでいる。そんな状態で、どうしてゲンテツは香港を目指すのか? 彼は戦場で戦ったわけではない。司令塔で座ったまま、簡単な指示を出していただけだ。そんな人間に、今の私たちの苦しみや限界が理解できるはずがない。


「香港に着いたところで、全員死ぬだけよ…。誰も生き残らないわ。」


言葉が喉に詰まるような感覚に襲われたが、吐き出さずにはいられなかった。仲間たちが次々と倒れていく光景が頭から離れない。


ゲンテツは淡々と答える。


「そしたらまた戦闘員を探せばいい。ヒューマンコロニーさえ見つかれば、戦闘員はいくらでも手に入る。」


彼の言葉は冷たく、そして重かった。 


「大切なのは個人ではなく、人類全体だ。」


その瞬間、怒りが爆発しそうになる。彼は仲間一人ひとりをただの駒としか考えていないのか? 戦闘員の命を使い捨ての道具のように扱う発言に、私は強く反発した。



「ゲンテツ!!」



叫び声が船長室に響く。しかし、ゲンテツの表情は変わらないまま、冷静で理性的なまなざしで私を見ていた。私が抱える葛藤や怒り、そのすべてを理解しているのか、それとも全く意に介していないのか――それが分からないことが、さらに私を苛立たせた。


「そんなに怒るな。今までもそうしてきたんだ。俺たちは、たくさんの犠牲の上に成り立っているんだよ。」


ゲンテツの冷静な言葉に、私は反論せずにはいられなかった。


「なら…その犠牲に、本当に意味はあったの? 私たちは強力なAIを倒せば、それで全てが終わると思っていた。でも、そうじゃなかった。」


自分でも抑えきれない感情がこみ上げてきた。


「実際、クイーンを倒しても、何一つ人類のためになったとは思えない。私たちがあのAIを一体倒したところで、全体から見ればそれはほんの一部に過ぎないのよ。」


私たちの戦いがどれだけ無意味だったのか、無数の犠牲がどれだけ虚しいものだったのかを痛感していた。敵はまだ無数に存在し、人類の未来はまるで見えない。ゲンテツの冷徹な計算に基づいた戦略が正しいのか、それとも私の理想が甘いのか――その答えは、未だに見つけられなかった。


それでも、私は目の前の現実に対して、あきらめるわけにはいかなかった。


「何か言ったらどうなの?」

私は強い口調で問い詰めた。今までのやり取りとは異なる静けさが、船長室に漂っていた。


ゲンテツは沈黙していた。さっきまでの余裕を見せた笑みは消え、彼は深くうつむいて、苦しそうな表情を浮かべていた。重い空気が彼を包み込み、普段の彼とはまるで別人のように感じられた。


「あなたも、本当は勝てないってわかってるんでしょ?」

私は怒りを抑え、今度は静かに、同情するように声をかけた。ゲンテツの目の奥に何かが隠れている気がした。そして、その何かを知る必要があった。


しばらくの沈黙の後、ゲンテツはぽつりとつぶやくように言った。



「俺は……死に場所を探してたのかもな…。」



その言葉を聞いた瞬間、私の心はざわついた。彼の言葉には、これまで感じたことのない重さがあった。彼の強さ、無鉄砲な行動、そして部下を駒のように扱う冷淡さ――そのすべてが、今のこの一言で繋がったような気がした。


ゲンテツは、これまで数えきれない戦場を生き抜いてきた。その強靭な体と精神で、どんな困難も乗り越えてきた男だ。しかし、その裏には終わりの見えない戦争と、次々と失われていく命の重圧が積み重なっていたのだろう。常に先頭に立ち、仲間を導かなければならないという使命感。だが、心の奥底では、彼も限界に達していたのかもしれない。


「少し…船長らしくないことを言ってもいいか?」


ゲンテツがためらいがちにそう口にした。彼の様子が今までとは違って見えた。


「いいですよ。でもそれを言うのは私だけにしてくださいね。他のみんなは、あなたのことを尊敬してますから。」


私の言葉に、彼はほっとしたように小さくうなずき、少し笑みを浮かべた。


「あぁ…ありがとうな。」


ゲンテツはしばらく黙った後、ゆっくりと話し始めた。


「俺は…ずっと戦ってきたんだ。仲間が死んでいくのを何度も見てきた。俺が指揮を取るたびに、誰かが犠牲になる。それでも、進むしかなかった。だが……気づけば、俺はもう何のために戦っているのか、わからなくなっていたんだな。」


彼の声には、今まで隠してきた無力感が滲み出ていた。それを覆い隠すために彼は強さを演じてきたのだろう。しかし、今はその仮面がはがれ落ち、彼の本心が表に出てきていた。


「戦いが終わることなんて、ない。クイーンを倒したとしても、AIは次から次へと現れる。俺たちの戦いには、終わりなんかないんだよ。だから……俺はどこかで、自分の死に場所を探してたんだろう。誰かのために戦い続けて、誰かのために死ねる場所をな……。」


彼の言葉は重く、そして哀しかった。これまで見てきたゲンテツとは全く違う姿だった。強さの裏には、責任感と、終わりのない戦いに対する絶望が深く潜んでいたのだ。仲間の死、無限に続く戦い、そして自分自身をも消耗させていく日々――彼はそのすべてに耐えてきたが、もう限界だったのだろう。


「俺は、ずっと戦わなければならないと思ってたんだ。自分の役目は、戦って仲間を守ることだと信じてた。でも……いつの間にか、俺はその戦いの中で自分を失ってしまったのかもしれない。」


ゲンテツの告白は、これまでの彼の強さとは正反対の姿だった。彼はただ、強く在り続けなければならないという使命感に囚われ、自分を追い詰め続けていた。そして今、その重圧に耐えられなくなり、ついに本音を吐き出したのだ。

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