十六話 絶叫メロディ
「ドー」
1人、死んだ。
「ラ〜」
また1人....狙われたら最後、なす術もなく命を奪われる。自分が死んだことさえ気づかないほどの、即死の早さ。
「リリィ!早く動て!」
リニアの声が遠くから聞こえる。
しかし、私の義足は震え、動けない。体が恐怖に縛られている。
「――――」
また何かを叫んでいるが、耳鳴りがそれを遮っている。周囲の音が遠のき、何も聞こえない。ただ、無力感と圧倒的な恐怖が私を押し潰す。もう何もできないーーそう思い、目を強く閉じた。
その時だった。
突然、目の前で鈍い音が響いた。まるで泥が落ちたような重い音。
私は恐る恐る目を開けた。そこには、隊員の死体が転がっていた。
まだ、かすかに動いているように見えるが、下半身は無く、上半身は潰れて血まみれだ。
その隊員の目が、まるで私を見ているようだった。命の灯が消えかけながらも、何かを訴えようとしているかのように。
「師匠...?」
一際、錯覚を覚えた。
もちろん違う。それでも、その顔は、あの時私を守って覆いかぶさった師匠の顔と重なって見えた。
次の瞬間、私は無意識のうちにエンジンを全開にして突撃していた。思考が追いつく前に体が動いていた。
「リリイ!遅すぎよ!後で死ぬほど説教してやるわ!」
リニアの怒鳴り声が背後から響く。それでも、私は止まらなかった。
「リリィさん、逃げちゃダメです!僕が全力でサポートしますから、安心して突っ込んでくだい!」
ルーカスの言葉が届く。彼の声に救われる気がした。こんなにも頼りになる仲間がいるのだ。
それでも、胸に残るのは冷たい絶望感。目の前で次々と倒れていく仲間たち、静寂の中で襲いかかる死の恐怖。音も無く忍び寄る死と、その一瞬の静寂一一すべてが私を押し潰そうとしていた。
それでも、私は進むしかない。冷静さを保ちながら、相手をじっくりと分析する。
アイツは攻撃を放つ瞬間、周りの音を吸収している。それが発射の合図だ。あとはスピーカーの向いている方向から射線を予測すれば、回避のチャンスはある。
誰も近づけない状況の中、私だけが音のビームをかいくぐり、クイーン本体にたどり着いた。
「あらぁ、思ったより早かったわね、弱虫ちゃん。」
クイーンの挑発を無視し、私はただじっと睨みつけながら、剣の柄に手をかけ、モーターを作動させた。
「まずは足…」
小声で呟きながら、限界まで姿勢を低くして、一瞬の隙を狙い、クイーンの足に斬撃を放った。
切れた――確実に手応えを感じた。あのLevel3のマネキンAIとは違い、今回はちゃんと切れた感触があった。なのに――。
「切れてない…?」
違う、切れた瞬間に再生していたのだ。クイーンのAIが瞬時に形状を修復していた。
「リニア!!」
私は咄嗟にリニアを呼んだ。彼女の「ヘルファイア」なら、再生を阻止できるはずだ。それだけがこの戦況を打開する手段だと分かっていた。
しかし、その声は音の吸収によって遮られ、まるで声がかき消されたように届かない。
「音が…出ない?」
その異常さに気づいた瞬間、危険を感じて距離を取ろうとした。しかし、次の瞬間――
足に音のビームが直撃した。痛みは感じなかったが、揺れと衝撃が全身に伝わる。
――バキッ。
嫌な音が響いた。左足がうまく動かない。片足だけで何とか後退しようとするものの、左足が完全に機能を失っていた。
「最悪…左足が、動かない…!」
息を整え、頭の中で冷静に状況を整理しようとするが、目の前のクイーンが不敵に微笑んでいる。その笑みが、私の焦りをさらに増幅させた。
「どうする…?」
リニアの「ヘルファイア」がなければ、この再生を止めることはできない。焦りと恐怖が胸の中で混ざり合い、体中に冷たい汗が流れた。
私は再びクイーンに目を向けた。彼女のスピーカーがこちらに向けられ、次の攻撃の準備をしている。音がない、予兆もない――ただ、死が目前に迫っている感覚だけがあった。
私が死を覚悟したその瞬間、突然、誰かに強く突き飛ばされた。
――見知らぬ隊員だった。
彼は、私を庇ってそのまま死んでいった…。
「なぜ…?」
私の頭の中で疑問が渦巻く。何が起きたのか、何故自分が助かったのか。そんな思考が巡る中、別の声が再び耳に飛び込んでくる。
「リリィを守れ!」
「アイツに接近できたのはリリィだけだ!」
「彼女を絶対に死なせるな!」
声は一つだけではなかった。次々と仲間たちが叫んでいた。その言葉に応えるように、私の頬を一筋の涙が伝う。
「人類は…AIなんかよりずっと強い。絶対に負けちゃいけないんだ…」
その思いが、私の胸の中で膨れ上がっていく。
片足のまま、ぐらつく体を必死に支えながら、私はゆっくりと立ち上がった。体は震えていたが、心には一つの強い決意が芽生えていた。隊員の犠牲を無駄にしない――そう心に誓い、再び前を見据えた。
クイーンとの戦いはまだ終わっていない。




